これまで畑でさまざまな作物を育ててきましたが、サツマイモがブームになっていると聞いたので、はじめてサツマイモを栽培してみようかと考えています。
サツマイモは比較的育てやすい作物だと認識していますが、初年度からしっかり収量を確保したいのです。
そのため、栽培方法だけでなく、品種や苗の選び方、栽培管理から収穫方法まで、作業の流れや注意点を抑えておきたいと思います。
また、気をつけるべき病害虫や連作障害への対応策など、サツマイモ栽培の基本について教えてください。
これまで畑でさまざまな作物を育ててきましたが、サツマイモがブームになっていると聞いたので、はじめてサツマイモを栽培してみようかと考えています。
サツマイモは比較的育てやすい作物だと認識していますが、初年度からしっかり収量を確保したいのです。
そのため、栽培方法だけでなく、品種や苗の選び方、栽培管理から収穫方法まで、作業の流れや注意点を抑えておきたいと思います。
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山川 理
山川アグリコンサルツ代表、農学博士
サツマイモは種芋選びや水管理に注意しながら栽培しましょう。病害虫にも注意を
サツマイモの栽培期間
サツマイモの苗の植え付けは、霜の危険がなくなった時期に行います。
最低気温が15℃以上となったタイミングが目安で、一般的には九州から西日本にかけては4月下旬から、関東では5月上旬から、東北南部では6月上旬以降になります。
サツマイモは地中で育つので収穫時期の見極めは簡単ではありませんが、葉色が薄くなり始めるおよそ定植後5カ月が基本的な目安となります。
早生品種を使った透明マルチ栽培では4カ月程度になる場合もあります。
収穫の時期が近づいてきたら、葉色の変化を観察しつつ最終的には試し掘りをして判断します。
サツマイモは寒さに強くないので、軽い霜が降りはじめたら収穫を終わらせましょう。
栽培期間についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
「サツマイモ栽培の植え付けから収穫までの期間を知りたい」
土づくり
サツマイモは湿気に弱いので、日当たりと水はけがいい畑が適しています。
土は火山灰土や砂質壌土が理想的です。
一般的に、やせた土地の方が栽培しやすく、肥料があまり残っていない土地を選んで栽培するのがいいでしょう。
さらに連作障害が起こりにくい作物なので、前作で育てた場所でも続けて栽培が可能です。
土壌のphや栽培に適した土地の性質についてはこちらをご覧ください
「サツマイモを栽培する土壌のphについて知りたい」
土づくりに使用する資材の注意点はこちらをご覧ください
「サツマイモ栽培における米ぬかの役割や使い方を知りたい」
「サツマイモ栽培での牛ふんの役割や使い方を知りたい」
「サツマイモ栽培の土作りに石灰はいらない?」
「サツマイモの栽培時に籾殻を使用するのは効果的?」
肥料
一般的な肥料は、「窒素」「リン酸」「カリウム」が均等に配合されています。
しかし、サツマイモの専用肥料は窒素少なめ、カリウムは多めに入っています。
窒素が少ない理由は、サツマイモの茎の中に窒素固定細菌(大気中の窒素を合成利用できる細菌)が共生しているからです。
通常の肥料を与えると窒素過多でツルボケになってしまうのは、これが原因です。
また、カリウムは塊根の肥大に大きく影響します。多めに与えることを意識してください。
野菜跡地は勿論のこと、新規圃場では最初に無肥料ないしカリのみの施肥を行い、様子を見て下さい。
また、ツルが伸びない、葉の色が悪いなど極端に生育不良な状態でない限り、追肥は不要です。
粘質土・壌土地帯の場合はさほど心配はいりませんが、砂土・砂壌土地帯や多雨地帯の場合はマルチの利用、有機質肥料あるいは緩効性肥料の利用など肥料切れ対策を考えてください。
それでも解決しない場合は何度か追肥も考えましょう。
裸地栽培では追肥の際に軽く中耕・培土(土を耕し、その後に株際に土を寄せること)を兼ねて行うと効果が高まります。
サツマイモの肥料やつるぼけの注意点はこちらをご覧ください
「サツマイモの栽培に最適な肥料について教えてください」
「サツマイモを栽培する際に散布する肥料の効果とは?」
「サツマイモ栽培で起こる「つるぼけ」について知りたい」
マルチング
マルチを導入すると、塊根(根が肥大したもの)の形成や肥大の促進、雑草の防除作業の簡略化などが期待できます。
フイルムの中央部にスリットが入れてあるマルチを使うと、植え付けしやすく、水分を適度に保ってくれるので、根づきを促進させます。
また、栽培中の除草作業は畝間だけとなり手間が省けます。
当然、土寄せも必要ありません。
マルチや除草作業、土寄せについてはこちらをご覧ください
「サツマイモ栽培でのマルチングの効果が知りたい」
「サツマイモ栽培で発生する雑草について知りたい」
「サツマイモ栽培時に土寄せをする意味を知りたい」
栽培におすすめの品種
スーパーなどで青果用として販売される以外にも、サツマイモは加工用や焼酎原料用、でん粉原料用など多くの用途があります。
品種適性については地域性もあり、多くの農家さんでは年間を通じて数種類を育てているケースが多いです。
べにはるか
2010年に品種登録された比較的新しいサツマイモの品種で「九州121号」と「春こがね」を交配させて誕生しました。大分県、宮崎県、鹿児島県、茨城県など全国で広く生産されている品種です。
見た目や食味が他の品種より「はるか」に優れているということから「べにはるか」と名前がつけられました。
食味はネットリとして甘く、消費者に最も好まれています。干しイモ加工にも向いており、非常にバランスのとれた作り易い定番品種です。
栽培上の特徴として、サツマイモネコブセンチュウ抵抗性、立枯病抵抗性が「高系14号」より優れる、という点が挙げられます。
べにはるかの栽培方法や注意点についてはこちらをご覧ください
「サツマイモの品種「べにはるか」の栽培方法や、育てる上での注意点を教えて」
ベニアズマ(紅あずま)
茨城県や千葉県などを中心に栽培されており、青果用サツマイモとして、これまでは国内の生産高第1位を誇る定番品種です。正式名称はベニアズマですが、「紅あずま」などと表記されることもあります。
皮は濃い赤色で、肉色は黄色、粉質で甘みがやや強く、形状は長紡錘形。
黒斑病に弱く、貯蔵性はやや難しいとされています。
紅あずまの栽培方法や収穫期間についてはこちらをご覧ください
「サツマイモの紅あずまの収穫時期が知りたい!貯蔵期間は?」
安納芋
安納芋は皮色が赤系の「安納紅」と黄系の「安納コガネ」の2種類あるので注意が必要です。肉色は黄色ですが、若干のカロテンを含みます。ネットリ系で甘いのが特徴です。スイーツのような食感は、サツマイモの常識を変えたといわれています。
基腐病の危険度が高く注意が必要な品種でもあります。
人気が高まることで生産量は増えていますが、形状や甘さのばらつきが大きいという指摘もあります。
安納芋の栽培方法についてはこちらをご覧ください
「サツマイモの品種「安納芋」をうまく栽培するにはどうすればいい?」
シルクスイート
皮色は濃い紅色、中身は鮮やかなイエロー色のネットリ系の品種。つる割れ病にやや弱いので定植時に苗消毒が必要ですが、耐寒性はあるので、北海道でも作られています。
安納芋やべにはるかと比べて水分量と繊維量が多いとも言われていますが、しっとりとしたなめらかな味わいがします。
関東中心の栽培から徐々に全国に広がってきています。
高系14号
高知県で1945 年に開発され、成長が早くイモの肥大性に優れていることから早掘りに向く品種として、西日本を中心として栽培されている品種です。鳴門金時、土佐紅、紅薩摩、宮崎紅など生産地によりいろいろな商品名が付けられているので注意して下さい。いもの形は紡錘形〜長紡錘形で大きさは中程度、皮色は紅、肉色は黄白色のやや粉質で食味に優れ外観はよいため、この品種をベースにした新しい品種も多く開発されています。
品種の選び方やおすすめの品種についてはこちらの記事をご覧下さい
「サツマイモの新しい品種を栽培したいが、選び方を教えて欲しい」
「サツマイモを栽培しようと考えています。おすすめの品種を教えてください」
「サツマイモの新品種について特徴が知りたい」
「「なると金時」はどういう特徴がある?サツマイモの栽培方法の違いは?」
種芋選び
サツマイモは栄養繁殖性作物(植物体の一部を植え付けることで新たな株を育てる作物)のため、種芋の選定は非常に大切です。
選定のポイントは
・連作年数が2〜3年程度の圃場で育ったもの
・栽培期間が5ヶ月程度
・株全体に病害がないこと
・紡錘形で皮色の紅色が均一、皮の表面に傷や裂開がないもの
などが挙げられます。
大きさは200〜300gほどのものを選びましょう。
小さすぎや大きすぎの種芋は伏込に手間がかかる上に、苗数の不足が起こりやすくなります。
ウイルスフリー苗についてや種芋選定後の消毒についてはこちらをご覧ください
「サツマイモ栽培で種芋の選び方を教えてください」
苗から育苗する方法はこちらをご覧ください
「サツマイモ栽培の苗作りについて教えてほしいです」
栽培管理
サツマイモは熱帯中南米の砂地でも育つ中南米原産の野菜です。そのため、乾燥や干ばつに強いといわれています。
干ばつに強いというのは、もし干ばつで生育が抑制されてしまっても、後から雨が降れば回復することが可能という意味です。
そのため、全く水やりをしなくても育つということではありません。
サツマイモの水やりでもっとも大切なタイミングは、植え付け直後です。
植付時点で畝が湿っていれば灌水は不要です。植付直後には上からしっかりと押さえて下さい。
株元に灌水してから1週間程度は、乾燥に注意してください。10日後にツル先が立ち上がってくればもう安心です。
通常、一度活着してしまえば、あとは自然の雨に任せて、水やりを与える必要はありません。
水やりのタイミングや水はけについてはこちらをご覧ください
「サツマイモ栽培での水やりのタイミングが知りたい」
つる返しの方法についてはこちらをご覧ください
「サツマイモの栽培をしていますが「つる返し」のコツを教えてください」
収穫作業
サツマイモは収穫が早すぎるとイモが小さいだけでなく甘味が少なくなり、逆に遅すぎると塊根が変形したり、亀裂や空洞が入る場合があります。
そのため、収穫時期を適切に判断し、収穫をしましょう。
サツマイモの一般的な収穫時期は10月が中心です。しかし、地域や栽培方法により収穫時期は異なります。
九州などの温暖な地域や北海道などの寒い地域では収穫時期が早くなります。
サツマイモの収穫のタイミングは、基本的に地温の積算量で算出することができます。
平均気温の積算温度2200~2500℃あたりが目安です。
しかし、高系14号、ベニアズマといった早生品種(早い時期に収穫できる品種)はより早くなるので、事前に品種の特性を確認しておきましょう。
サツマイモの収穫の目安は、茎や葉がつやを失って緑色が薄くなり始めた頃です。
8月ごろに収穫する早掘り栽培(透明マルチ使用)の場合には、葉の色などを気にせずに試し堀りして確認をすれば結構です。
畦の中に手を入れてイモの大きさを確認し(さぐり掘り)、大きさが十分でないと判断したら、またイモを土の中に戻してやることができます。
品種別の収穫時期についてはこちらをご覧ください
「サツマイモの品種別に収穫時期を見極める方法を教えてください」
サツマイモの保存方法についてはこちらをご覧ください
「春から夏にかけての収穫したサツマイモの保存方法を教えてください」
病害対策
サツマイモが病気になる原因は、カビの一種である糸状菌やバクテリアの仲間の放線菌、ネコブセンチュウによる感染によるものです。
軟腐病(リゾクトニア菌)
軟腐病は病原菌が傷口から侵入し、貯蔵中あるいは輸送時に発病します。
最後は塊根が軟化・腐敗し、アルコール発酵した臭いを放ちます。過湿な土壌で発生しやすい病害です。
防除方法は塊根をキュアリング処理(収穫後の土付きサツマイモを温度・湿度の調整によって貯蔵する方法)することで抑えることができます。
軟腐病についての詳細はこちらをご覧ください
「軟腐病(なんぷびょう)とは?原因や対処法」
基腐病(ディアポルテ菌)
基腐病は現在も被害が拡大している深刻な病気です。
発症するとすぐに生育不良となり、根(塊根)が黒変して腐敗します。
防ぐ方法は健全な種芋を、過去に基腐病が発生したことのない圃場に定植します。
その後も排水管理などに気を配り、発病を確認したら速やかに二次伝染を防ぐために処分します。
葉や茎がしげる夏以降は要注意で、病気の進行を見逃すと、最悪全滅してしまう恐れもあります。
土壌病害の種類と対策一覧についてはこちらをご覧ください
「サツマイモの主な病気が知りたい!原因も教えて」
基腐病の対策についてはこちらをご覧ください
「サツマイモ基腐病の発生原因と防除方法 を教えて」
そのほかの病害についてはこちらをご覧ください
「サツマイモの黒斑病(こくはんびょう)の症状と防除方法を知りたい」
「サツマイモのポット苗に白い筋が出てきてしまいます」
「サツマイモを栽培していますが、枯れてしまう原因を教えてください」
病名がわからない場合、葉や根の状態から原因を突き止める方法もあります
「サツマイモの病気を葉の症状から見つけられますか?」
「サツマイモの根(塊根)から病気を確認するポイントは?」
害虫対策
コガネムシ
コガネムシの成虫は葉を食べますが、幼虫は土の中に住み、塊根を食害します。食害痕は円形、もしくは長めのくねくねとした溝状になります。
一般的に2齢幼虫(一回脱皮した幼虫)以降が塊根を食べるようになり、3齢幼虫となると被害も大きくなっていきます。ひどいケースだといもの表面がボロボロになることも。
被害を与えるコガネムシは複数種います。とくに「ドウガネブイブイ」の被害が多い傾向にあります。
越冬する幼虫に対しては収穫時の残渣などを除去して餌を残さないことが有効です。
盛夏の頃、葉にコガネムシの食害跡を頻繁に見つけるようになった場合は、薬剤などで対処してください。
産卵を防ぐためにはマルチを使うのも効果的です。
コガネムシの対策方法や有効な農薬についてはこちらをご覧ください
「サツマイモを栽培していますがコガネムシ対策はどうすればいい?」
「サツマイモ栽培のコガネムシ対策に有効な農薬を教えてください」
連作障害
連作障害とは、同一の作物や同じ科の野菜を、同じ場所で繰り返しつくり続けると起きる障害です。
土壌の成分バランスが崩れることで生育不良となり、収量が落ちてしまうだけではなく、さまざまな病気を引き起こしやすくなります。
サツマイモは連作障害が出にくい作物です。数年間つくり続けても問題が起きないこともあります。
しかし、連作障害が起こらないわけではありません。
特に、サツマイモネコブセンチュウに弱い品種では続けてつくるのは2~3年程度にとどめておくといいでしょう。
連作障害や向いている品種についてはこちらをご覧ください
「サツマイモが連作障害にならないよう、注意点や後作に栽培しても良い野菜が知りたい」
このお悩みの監修者
山川 理
山川アグリコンサルツ代表、農学博士
京都大学農学部卒、農学博士。農林省九州農業試験場では、サツマイモやイチゴの新品種を多数育成。1996年日本育種学会賞。1998年農林水産大臣賞。山川アグリコンサルツ代表として、食品関連企業の顧問や地域の活性化アドバイザーとして活躍。千葉大学園芸学部非常勤講師。『サツマイモの世界 世界のサツマイモ: 新たな食文化のはじまり』など著書多数。