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第3話 代表取締役 上野耕平 「沖縄から北海道へ。ニーズがあれば、突破口になる 」

第3話 代表取締役 上野耕平 「沖縄から北海道へ。ニーズがあれば、突破口になる 」


よい働き手の育成のために


JAおきなわが管理・運営する離島や、前述の南大東島を含め、弊社が派遣を実施している島は9島10か所まで増え、現在は年に一度、約160人を送り出すまでになりました。

また、エイブリッジ立ち上げのきっかけとなった、沖縄の大手製造業のグループ会社に対しても、現在50人近くを派遣しています。

とはいえ、5年前まではなかなか利益が出ませんでした。特にミャンマーのエムブリッジで生まれた赤字が大きく、新たな、そして強力な一手を必死に模索していました。

面白いもので、リゾート地や温泉地、離島、辺境地など、「全国を旅しながら働きたい」という一定の層がいます。

例えば、弊社が派遣しているサトウキビ製糖で3カ月働いたら、貯まったお金で沖縄観光をし、飽きたら別の土地に移動して、そこで仕事を見つけるというわけです。

彼ら全員が翌年の同時期に戻ってきてくれたら、弊社としては大変ありがたいのですが、実際に戻ってきてくれるのは2割程度。残りの8割分の人員はまた新たに確保せねばなりません。

そもそも毎年のように「募集して解散」というのは効率が悪く、よい働き手の育成という意味でももったいない。そこで、江城君と「彼らに次の働き場所を提案してはどうか」という話になったのです。

そんな中、大きなチャンスが到来しました。

大阪に「稲畑産業」という商社があります。カナダからブルーベリーを日本一輸入している会社なのですが、当時は、カナダの農法を使用して北海道内の似た環境でブルーベリー農業を始めようとしていました。

ところが、現地採用を試みるも、人がまったく集まらなかった。土地もある。技術もある。だが、働き手がいない──。そのような状況下で、弊社が沖縄のサトウキビ製糖の派遣を行っていることを知り、派遣の手配を相談してくれたのです。

北海道グリーンパートナーの広大な農場


ニーズがあれば、そこが突破口になる


ただ、稲畑産業さんからの派遣のニーズは2、3人。クライアントを増やすべく、北海道の農家さんに片端から電話をかけたところ、「実は困っている」という会社が見つかりました。

江城君はその会社──「北海道グリーンパートナー」を早速訪問しました。

本社は帯広市の隣に位置する中川郡にあります。十勝平野に広がる帯広地域は農業が盛んなのですが、社長の高田清俊さん曰く、「帯広地域の人はすでにみんなどこかの農家さんで働いている。地元で探すのは無理」とのことでした。そして「まさか沖縄から答えが来るとは思わなかった」と苦笑したそうです。

幸い、季節もぴったりでした。サトウキビ製糖が終わるのは3〜4月なのですが、大根の生産を主とする北海道グリーンパートナーは5月から畑を耕し、8〜9月くらいに忙しさのピークが来る。「最初は数人、ピーク時に30人ほど派遣してくれるとありがたい」ということで、契約が決まりました。

ただし、沖縄の離島と北海道の帯広とでは、あまりにも環境が異なり、移動距離もかなりあります。那覇空港で「お疲れさまでした。次は○月○日に千歳空港で集合です」と伝えて別れても、当日、千歳空港に全員集まるかというと、集まらない。だいたい2割は来ないので、急いでまた人を集めるということが数年は続きました。

エイブリッジ創業から8年が過ぎた現在は、派遣のリピーターの中に主力となるメンバーが現れ、彼らを中心に人が集まってくるようになりました。

並行してクライアント数も順調に増え、現在では沖縄と北海道のほか、栃木県や愛媛県、奈良県、熊本県、鹿児島県など、日本全国の農家さんとお付き合いがあります。

大事なのは働き手の皆さんに「また働きたい」と思ってもらえること。例えば、たとえ10円、20円でも時給が上がれば大きなモチベーションになる。そこで、農家さんに対して、賃上げ交渉を毎年行っています。

南大東島の製糖工場

農業の慢性的な人材不足を解消することは容易いことではありません。しかしながら、南大東島の工場の煙突に書かれていた「さとうきびは島を守り島は国土を守る」というフレーズをきっかけに、私たちは農業支援事業へ本格的に参入しました。

そしてスキルの高い人材を雇用・育成し、派遣することで、働き手からも農家さんからも、県や国からも、少しずつ認知されるようになりました。(構成=堀香織)


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