就農して3年目の農家ですが、新しくほうれん草の栽培に興味を持っています。
まだ知識不足なのですが、まずは試験的に初めて見ようと考えています。
最初からうまくいくとは考えていませんが、数年後には主力にしていきたいです。
そのため、ほうれん草栽培の基本的な流れを教えて欲しいです。
また、病害虫や生理障害など、栽培の注意点についてもアドバイスをいただけると助かります。
就農して3年目の農家ですが、新しくほうれん草の栽培に興味を持っています。
まだ知識不足なのですが、まずは試験的に初めて見ようと考えています。
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渡會那央
わたらい農場 代表
ほうれん草は酸性土壌や高温、とう立ちなどに注意しながら栽培管理します
ほうれん草の栽培上の特性
まず最初にほうれん草の栽培上の特性を6つ解説しましょう。
栽培期間が短く、品種・作型によって年に複数回収穫できる
ほうれん草は1~2カ月の短い期間で収穫できる野菜です。
日本では作型(=栽培条件や栽培技術、もしくはその組み合わせ)によってほぼ1年中栽培されています。
一般的な露地栽培であれば、気温が低くなる「秋まき」が初心者農家でも取り組みやすいでしょう。
栽培時期に応じて品種が豊富なのも特長です。
作型についてはこちらをご覧ください
「初めてのほうれん草栽培で、秋まきがいい理由は?」
「ほうれん草の冬越し栽培の方法は?品種や収穫のコツを教えて」
「ちぢみほうれん草(寒じめほうれん草)の栽培方法に興味があります」
酸性土壌だと生育不良になる
ほうれん草は土壌の酸性度を表す土壌ph値でいうと「6.0〜7.0ph」(=中性)が最適で、「5.5」以下になると生育不良を起こしてしまいます。
酸性の土壌では必要な栄養素が根から株に運ばれなくなるほか、土壌中にあるアルミニウムが溶け出しやすくなります。
アルミニウムは一部の作物に対して毒性を持っており、ほうれん草もその作物の一つです。
したがってほうれん草に酸性土壌は厳禁です。
適正な土壌phについてはこちらもご覧ください
「ほうれん草を栽培する土壌phの適正範囲は?」
発芽遅れや発芽時期のバラつきに要注意
ほうれん草は根を土の中に深くまっすぐ伸ばす(=直根性)性質があります。
畑に種を直まきした後、苗を間引きをして収穫まで同じ場所で育てます。
種まき以降、すべての株をできるだけ早く、一斉に発芽させて生長させることが、収量の安定と品質アップにつながります。
水やりなどの管理や収穫作業も効率化でき、出荷スケジュールも立てやすくなります。
一方、栽培期間が短いので、発芽段階でバラつきが出てしまった場合に「生育が遅れた株だけに手を加える」というのが現実的ではありません。
うまく発芽させる管理方法はこちらをご覧ください
「ほうれん草が発芽しないのはなぜ?上手に発芽させる管理方法は?」
「ほうれん草を上手く発芽させるための温度条件とは?」
間引きが不十分だと株間が詰まって大きくならない
ほうれん草は2回の間引きによって株間が決まります。
適切な株間、すなわち1株に十分な成長スペースがあることで、ほうれん草の品質が安定します。
株間が詰まりすぎると1株あたりの葉の数が少なくなり、十分なサイズになりません。
間引きの方法についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草の間引きはどのタイミング?注意点も教えて」
高温に弱く、25℃以上の環境ではうまく育たない
ほうれん草は低温には比較的強く、冬期には寒さに当てて糖度を増す栽培方法もありますが、逆に高温には弱いという性質があります。
発芽適温、および生育適温はどちらも「15~20℃」です。
「25℃」を超える環境では生育が鈍くなり、発芽率も低下します。
さらに「35℃」を超えると発芽しません。
栽培適温についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草栽培の温度管理について教えて。特に注意が必要なポイントは?」
気温と光の条件が揃うと「とう立ち」が起こる
ほうれん草は条件が揃うと「とう立ち」を起こす野菜です。
「とう立ち」とは花芽が付いた茎が伸びることで、ほうれん草のほかにアブラナ科の野菜でもよく起こる現象です。
「抽苔(ちゅうだい)」とも呼びます。
とう立ちが起こると茎や葉が硬くなり、食味も落ちるため出荷に適しません。
とう立ちは日が長くなり、温度が上がる頃に発生しやすくなります。
特に1年のうちでも日が長くなる5月下旬~6月頃に種をまく場合は晩抽性(抽苔の遅い性質)の高い品種選びが必要です。
基本的な栽培方法や栽培特性についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草の栽培の大まかな流れと、うまく育てるコツや注意点を教えてください」
高品質なほうれん草をたくさん収穫するためには?
以上の特性を踏まえて、ほうれん草の栽培のコツを5つ解説しましょう。
種まき前に必ず土壌phを整え、肥料を適切に与える
土壌の酸度を必ず事前に確認、および調整してから栽培を始めます。
酸性にならないよう、植え付けの1カ月前までに石灰を混ぜ込んでおくと良いでしょう。
また追肥の工程がないので、元肥、堆肥の段階で土壌をベストな栄養バランスに整えておかなければなりません。
栽培前に土壌診断を受け、その結果を踏まえて適切な肥料の量を判断しましょう。
例えば窒素成分が多く残留している場合、窒素過多のまま育ててしまうと、「べと病」の発生リスクが高まったり、えぐみの元である「シュウ酸」の含有量が増えたりします。
土壌調整についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草栽培の土はどう作る?土壌調整で気をつける点を教えて」
「ほうれん草栽培で石灰は必要?効果と正しい使用方法は?」
「ほうれん草の栽培では追肥はいる?いらない?」
栽培時期に最適の品種を選び、必要なら発芽処理を
いろいろな季節に栽培できるのがほうれん草のメリットですが、必ず種まき時期に適した品種を選ぶようにしましょう。
ほうれん草の種は高温環境では発芽率が低下するので、春・夏まきの場合、品種によっては種を水に浸すなどの発芽処理をしてから種をまく農家もあります。
芽出し処理についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草栽培の発芽のポイントは?芽出し処理についても教えて」
できるだけ早く一斉に発芽させ、均質に管理する
種をまいてから出来るだけ早く、同じタイミングで発芽させるのが上手く育てるポイントの1つです。
種は均等な深さで等間隔に配置し、その後土をかぶせる際にもできるだけ土が均一な厚さになるようにしてください。
土壌水分の管理にかん水チューブ(等間隔に設けられた小さな穴から水をまく農業用ホース)を導入すれば、省力化を図りながら均質な水やりができます。
水管理についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草の栽培で行う水やりのポイントは?」
しっかり間引きして、適度な株間を確保
間引きのタイミングは2回です。
本葉が2~3枚になった頃には、秋まきで4〜7cm、春・夏まきで7〜8cmを目安にしましょう。
適切な株間確保のためにも播種機(はしゅき=種まき機)を活用すると便利です。
播種する時期についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草栽培の播種する時期はいつ頃?方法やコツも教えてほしい」
夏まきの場合は遮光処理が必要
とう立ちが起こる条件は、日長時間(昼間の長さ)の積み重ねと、気温の上昇です。
夏まき品種の栽培では、遮光ネットを掛けるなどの対策が欠かせません。
なお太陽光だけでなく、街灯や近隣の建物の照明も影響します。
もし畑の近くに自分で管理している照明があれば、不要なときには必ず消すようにしてください。
とう立ちについてはこちらもご覧ください
「ほうれん草を栽培するのに日当たりは重要ですか?」
このお悩みの監修者
渡會那央
わたらい農場 代表
長野県八ヶ岳のふもと標高1100mの高冷地 小海町で農業に携わり11年。3月〜11月まで、主にほうれん草を栽培・出荷し、そのかたわら花豆の栽培・出荷も行っています。 『人づくり、土づくり、ものづくり 耕福農業』を理念に、人が育つ環境づくり、野菜が育つ環境づくり=土づくり・堆肥づくりに注力し、エコファーマーの認証も取得し、安全安心でまごころ込めた野菜づくりを行っています。