水稲農家です。オフシーズンに何か野菜を作ろうと考え中で、ほうれん草栽培に興味があります。
しかし、栽培を検討している圃場は決して日当たりが良いとはいえない環境で、無事育てられるのかわかりません。
また、ハウスを立てる余裕はないので、露地栽培を検討していますが、温度についても気になります。
まずは、ほうれん草を育てるにはどれぐらいの日照が必要なのか教えていただけないでしょうか?
水稲農家です。オフシーズンに何か野菜を作ろうと考え中で、ほうれん草栽培に興味があります。
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渡會那央
わたらい農場 代表
ほうれん草栽培の日当たりでは直射日光に注意。水はけや温度管理と合わせて調整を
ほうれん草は「陰性から半陰性」の野菜
ほうれん草栽培において日当たりも大切ですが、実はそこまで気にしなくても栽培は可能です。
まずはその根拠を説明しましょう。
必要な日照量による3つの作物分類
一般的に作物は、日光を好む程度によって3種類に分類できます。
直射日光が必要で日陰では育たないなものが「陽生植物」、日に当たらない環境でもそれなりに育つものは「陰性植物」で、その間が「半陰性植物」です。
トマトや茄子などの夏野菜は陽性の場合が多く、ニラや三つ葉、青シソなどが陰性の代表的な作物です。
ほうれん草は「陰性~半陰性」
3段階の分類の中では、ほうれん草は「陰性」もしくは「半陰性」に相当します。
したがってほうれん草にとって、直射日光に当たる時間や量は、生育にはさほど影響しません。
日光よりもむしろ土壌の栄養状態や水分管理、温度管理に気を配るほうが良いでしょう。
基本的な栽培方法や栽培特性についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草の栽培の大まかな流れと、うまく育てるコツや注意点を教えてください」
春まき品種では日に当てすぎると「とう立ち」が発生
特に春まき品種の場合、日光に当たる時間が長すぎると、逆に品質を損ねてしまう場合があります。
ほうれん草の品質を損ねる「とう立ち」とは
ほうれん草を含む多くの作物には「とう立ち」と呼ばれる現象があります。
とう立ちとは、花芽が付いた茎が伸びること。「抽苔(ちゅうだい)」とも呼ばれます。
とう立ちが起こってしまった株は、そのまま出荷はできません。
ほうれん草の場合、茎や葉が硬くなり、食味も落ちます。
ちなみに白菜や小松菜、キャベツなどのアブラナ科の葉野菜でもよく生じます。
とう立ちが起こる原因
とう立ちのメカニズムには、2つの要因が関連しています。
1つは「日長時間(昼間の長さ)の積み重ね」、もう1つは「気温の上昇」です。
したがってとう立ちに最も注意が必要なのは、種まき後、日を追うごとに日光を浴びる時間が増える、春まき栽培の品種です。
また気を付けるべき光は、太陽光だけではありません。
夜間、街灯や近隣の建物の照明が当たってはいないでしょうか。
それらの光にもほうれん草は影響を受けます。
とう立ちを防ぐ方法
それではとう立ちを防ぐにはどのようにしたら良いのでしょうか。
植物を日光にさらさないためには、発芽後に遮光ネットなどをベタ掛け(植物の上から直接資材をかぶせること)するのが、最も手軽で効果の高い方法です。
但し1日中遮光していると徒長しやすく茎も細く、食味も落ちることから、朝日を取り入れ夕方早目に遮光すると良いでしょう。
また、畑の周辺で自分が管理している照明があれば、夜間はできるだけ消灯するようにしましょう。
さらに品種選びの際に、とう立ちが起きにくい「晩抽性(ばんちゅうせい)」の品種を選ぶのも、基本的な対策法の1つです。
ほうれん草栽培に適した季節や条件
それではここで改めて、ほうれん草栽培に適した時期や条件について確認しておきましょう。
ほうれん草の栽培適期は秋から春
ほうれん草は、冷涼な土地を好み、25℃を超える環境では発芽・生育が進みません。
寒さには強いため、トンネル農法などを活用すれば、翌年の春ごろまで種まきが可能です。
品種開発や栽培技術の進展で一年中収穫できるようになりましたが、日本では秋がほうれん草栽培のベストシーズンです。
特に初心者農家は、どんどん気温が下がっていく10月頃に種まきするスケジュールが育てやすいでしょう。
発芽させるコツについてはこちらをご覧ください
「ほうれん草栽培の発芽のポイントは?芽出し処理についても教えて」
「ほうれん草が発芽しないのはなぜ?上手に発芽させる管理方法は?」
「ほうれん草を上手く発芽させるための温度条件とは?」
トンネルやハウス栽培でも生育は露地栽培と変わらない
露地栽培だけでなく、トンネル栽培やハウス栽培もおすすめです。
トンネル栽培は保温や害虫予防などの効果があるほか、外が寒い時期に意図的に低温にさらして糖度を増やす「寒じめ栽培」にも向きます。
露地とハウスとで生育状況に差はなく、直射日光を浴びる環境であるかどうかはあまり関連しません。
日当たりよりも温度管理が重要
ほうれん草の栽培環境で気を配るべきなのは、日当たりよりも「温度」です。
最初はできるだけ秋まき品種を選び、霜が心配されるほど気温が低くなる時には、不織布などのベタ掛けを取り入れるのも良いでしょう。
ただしほうれん草も日光が不足しすぎると、徒長(茎などが必要以上にひょろひょろと間延びしてしまうこと)を起こすことがあります。資材を掛けっぱなしにしてはいけません。
温度管理の方法についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草栽培の温度管理について教えて。特に注意が必要なポイントは?」
日当たりの少ない場所で栽培するときの注意点
日当たりのあまりよくない場所でほうれん草を育てる際のコツや注意点について説明します。
間引きで適切な株間を確保
さほど日当たりが重要でないといえども、「たくさん収穫したいから」と株間を詰めすぎないようにしてください。
収穫サイズを決めるのは株間です。
1株あたりのスペースが狭くなると、葉の数が減ってしまいます。
栽培中は2回の間引きを行い、適切な株間を確保しましょう。
間引きの方法についてはこちらもご覧ください
「ほうれん草の栽培で株を大きくしたい!間引きのコツを教えて」
「ほうれん草の間引きはどのタイミング?注意点も教えて」
水やり、水はけなどの水分管理に注意
日当たりが少ない場所は土壌水分が蒸発しにくく、水はけが悪くなりがちです。
ほうれん草は発芽まではしっかり水やりし、発芽後はやや乾燥気味に育てます。
また生育期に土壌水分が多すぎると、根腐れやべと病を引き起こしかねません。
水管理についてはこちらをご覧ください
「ほうれん草の栽培で行う水やりのポイントは?」
このお悩みの監修者
渡會那央
わたらい農場 代表
長野県八ヶ岳のふもと標高1100mの高冷地 小海町で農業に携わり11年。3月〜11月まで、主にほうれん草を栽培・出荷し、そのかたわら花豆の栽培・出荷も行っています。 『人づくり、土づくり、ものづくり 耕福農業』を理念に、人が育つ環境づくり、野菜が育つ環境づくり=土づくり・堆肥づくりに注力し、エコファーマーの認証も取得し、安全安心でまごころ込めた野菜づくりを行っています。