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ブリの養殖はどのように行われているのでしょうか?

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ブリの養殖はどのように行われているのでしょうか?

漁師になろうと思い、いろいろ調べています。移住する予定の地域では、ブリ養殖が盛んなので、ブリ養殖に興味を持っています。

これまで漁師体験のイベントなどに参加し、漁船に乗ったことはありますが、養殖の知識や経験はほとんどありません。

ブリ養殖はどのように行われ、どのような作業があるのでしょうか?

中平博史

全国海水養魚協会 専務理事

最適な環境で養殖し、出荷サイズになるまで生育します。その中で付加価値をつけることも可能です

ブリ養殖をしやすい環境



ブリ養殖の主な産地


養殖ブリの主な産地は、鹿児島県、大分県、宮崎県などの九州地方や、愛媛県、高知県などの四国地方になります。

1位が鹿児島県(26,654トン)、2位が大分県(17,766トン)、3位が愛媛県(16,508トン)、4位宮崎県(9,638トン)、5位が高知県(8,329トン)となり、上位5県で全体の76パーセントを生産しています。

これらの地域の生産量が多い理由は、ブリ類の養殖には冬場の比較的高い海水温が必要になるからです。

また、ブリは成長とともに大きく生息場所を変える特徴があり、その生育環境の変化に適していることが養殖しやすい地域になるのです。

養殖ブリの生産量が多い地域についてはこちらの記事でご紹介しています
養殖ブリの生産量が多い産地が知りたい



鹿児島県のブリ養殖


鹿児島県のブリ養殖は日本一の生産量を誇り、中でも長島町では、約12,000トンを生産しています。

長島町のブリは「鰤王」の名前でブランド化され、国内だけでなく世界約30カ国へ輸出しています。

なぜ鹿児島の生産量が多いのかというと、海域の潮の流れが早く、深く入り組んだ内湾が多いという特徴があるからです。

また、年間の平均水温が19度と温暖で、ブリの稚魚であるモジャコの採捕に適した地域でもあります。

こういったブリ養殖の環境が揃っていることが、鹿児島県の養殖ブリの生産量を押し上げている要因になります。

鹿児島県で行われているブリ養殖の詳細はこちら
鹿児島県ではどんなブリ養殖をしているのですか?



水温


ブリ養殖には比較的温暖な環境が必要で、最適な水温は18~28度とされています。この水温で養殖を行うと、「トリプシン」などの消化酵素が活性し、体重増加率が高くなります。

また、最適な水温は魚の体重によっても変化します。

ブリは夏から秋にかけて成長し、水温が下がる冬ごろに脂肪を体に蓄積するため、体重が増大します。

そして、冬から春にかけては水温が低下しすぎるため成長せず、再び水温が上昇し始めると、蓄えた脂肪をエネルギー源として使用するため、体重が減少していきます。

適切な水温や水質についてはこちらをご覧ください
ブリ養殖における最適な水温を教えてください
ブリ養殖に適した水質や水温について教えてください



ブリの養殖方法


稚魚(モジャコ)の採捕


ブリの稚魚であるモジャコ(藻雑魚)は、流れ藻について北上します。そのため、ブリの養殖は4~5月ごろにモジャコを採捕することから始まります。

主な漁場は九州や四国周辺の海域で、小型まき網やすくい網で流れ藻ごと捕獲します。

ブリ養殖では、種苗(稚魚)のほとんどを天然のモジャコに依存しているため、モジャコの漁獲量によって生産量が決まります。

しかし、モジャコは乱獲を防ぐために、採捕尾数が制限されています。漁獲には「特別採捕許可」が必要となり、各漁協が割り当てられた数に基づいて、採捕船の数を決めます。


稚魚(モジャコ)の育成


採捕したモジャコは、選別を行いサイズを揃えてエサづけをします。この時使用するエサは、イカナゴとエビ(アミ)を混ぜたミンチや完全配合飼料(ペレット)です。

エサは1日5~6回ほど与えはじめ、その後、成長に従ってエサやりの回数を減らし、200グラムに成長した頃には1日1回にします。

稚魚への餌付けや養殖時の注意点はこちらをご覧ください
ブリ養殖での稚魚の育て方を教えてください



1年目(1年魚)


1年魚は成長するに従いエサの摂取量が増え、エサの成分も変わっていきます。

近年はMP(モイストペレット)やEP餌料などの配合飼料を与えるのが一般的です。順調に成長すると、1年目でおよそ2キロくらいまで成長します。


2年目~3年目(2年魚、3年魚)


2年魚になると、免疫力が強くなりだんだん病気にかかりにくく、大きく成長します。

成長に伴いエサの必要量も増加しますが、エサの与え過ぎやエサ不足には気をつけましょう。とくに、エサを与え過ぎると、残ったエサが海を汚したり魚が不健康になるので注意が必要です。

そして2年目の10月ごろには、4キロ以上のサイズになり出荷を迎えます。冬のブリは脂を蓄えているので、最も市場のニーズが高まる時期です。

出荷はその後3年目となる4月まで続きますが、5月〜9月は3年魚のブリが産卵期を迎え身質が不安定になります。

2年目のブリも市場に好まれる4キロまで成長しないため、この時期は良質なブリを供給するのは、天然種苗では難しいでしょう。

ブリの成長速度や年数別の養殖法についてはこちらをご覧ください
ブリの成長速度はどのくらい?成長すると養殖方法は変わるの?
ブリの養殖で年数・年齢別に正しい育成方法を教えて



ブリ養殖で与えるエサ


養殖ブリのエサは、主に生エサと魚粉を配合したMP(モイストペレット)や、乾燥した固形状のEP(エクストルーダーペレット)などの飼料が使用されています。

以前は魚が満足するまで与えていましたが、現在は魚類栄養学をもとに魚に必要なエネルギー量を計算して与えています。

ぶりに与えるエサの種類

エサの与え方


エサの与え方
養殖の現場で用いられている給餌方法は、漁師が手で直接エサを与える「手巻き給餌」や、船に備え付けた専用の機械を使って与える「給餌船給餌」、生けすの中央に設置した自動給餌機でエサを与える「自動給餌」などがあります。

自動給餌には、カメラからの映像やセンサーの情報を確認し、遠隔操作で給餌できる機種もあります。

エサの種類や与え方についてはこちらの記事でもご紹介しています
養殖ブリの餌とは?種類や与え方が知りたい


ブリの病気対策


ブリも人間と同じように病気にかかります。代表的なものとしてレンサ球菌症があります。

こうした病気にかかった場合、養殖魚もお医者さん(獣医師)に診断してもらいます。そして、治療に使用されるのが、抗生物質などの「水産用医薬品」です。

水産用医薬品には大きく分けて二つあります。

一つ目は、病気の予防として用いられる「ワクチン」。
二つ目が病気の治療を目的に用いられる「抗生物質」「抗菌剤」「駆虫剤」です。


例えば、養殖ブリがレンサ球菌症と診断された場合、マクロライド系の抗生物質を投与します。

寄生虫の対応策はこちらをご覧ください
ブリの寄生虫はどんな種類がいる?寄生させない養殖法を教えて欲しい
養殖ブリにアニサキスは寄生しますか?



抗生物質


抗生物質をはじめとした水産用医薬品の使用には、人間が使用している医薬品と同じように薬事法に基づいて承認されており、魚ごとに用法・用量、休薬期間などの使用基準が厳しく定められています。

使用基準を正しく守って使用すれば、安全な水産物として出荷できるのです。

国や自治体では、養殖魚などの水産品に医薬品が残留していないか検査し、監視を行っています。

もし使用基準に違反して医薬品を使用した場合、規定により処罰の対象となります。

また、抗生物質などの水産用医薬品を使用する上でもう一つ大切なことは、使用記録をつけることです。

使用記録をつけることで、医薬品の使用に問題がないことの証拠になります。

抗生物質に関しては、こちらの記事でも詳しく紹介しています
ブリ養殖で使用される抗生物質について知りたい



ブリ養殖で行われている工夫


ブリ養殖では、さまざま工夫をすることで、養殖ブリに付加価値をつけることができます。

例えば、生餌とフィッシュミール(魚を乾燥させて粉上に砕いた魚粉)魚油の割合を、サイズ(稚魚・成魚)や季節(水温等の環境)によって変えたり、抗酸化作用(酸化しない、あるいは酸化を遅らせること)があるビタミンやポリフェノールなどを含む食品やフルーツ(地元特産品)を、エサに加えたりしています。

また、2~3キロの中間魚を、さらなる成長と成熟のために、より広い生けすへ移送し、育てている漁師もいます。

一般的な生けすよりも大きな生けすで育てることで、運動量が増えて身が締まり、より天然魚に近い身質になるのです。

具体的な工夫の事例についてはこちらをご覧ください
ブリ養殖でどんな工夫ができるのか知りたい



早期出荷


供給不足になる夏場の出荷に対応できるよう、育成期間を短縮し、早期に出荷している漁師もいます。

早期出荷を行うには、採捕したモジャコの中から大きいサイズの仔だけを集めて育成するなどの工夫が必要となります。

供給不足となる夏場にブリを出荷することで、高く売ることが可能になり、養殖時期をずらすことで、産卵による減耗コストも削減することができます。

早期出荷の方法はこちらの記事もご覧ください
ブリの養殖期間を短くして、早期出荷する方法を教えて ください



ブランド化


養殖ブリのブランド化とは、エサや生育環境を工夫することで、品質を高めるとともに他のブリとは違った独自のブリを育てることです。

例えば、ゆずやかぼすなど、抗酸化作用があるビタミンやポリフェノールなどを含む食品やフルーツを加えることで酸化を遅らせ、魚の変色や傷みを抑え、魚の価値を高めることができます。

全国のブランド鰤

また、エサに含まれる脂質量を調整することで、ブリの脂の乗り具合を調整することができます。

地域や年代、性別で味の好みは違っていますので、ターゲットとする消費者の好みに合った味を再現でき、他のブリとの差別化が図れます。

有名なブランドブリとして鹿児島県の「鰤王」や大分県の「かぼすブリ」などがあります。

養殖ブリのブランド化の事例については、こちらの記事でもご紹介しています
養殖ブリのブランド化はどうやっているのですか?事例も教えてください


このお悩みの監修者

中平博史

全国海水養魚協会 専務理事

全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。

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