牡蠣の養殖業者に勤めて3年が経ちました。
最近、牡蠣以外の養殖にも興味を持っていて、いつか魚の養殖に関わりたいと考えています。
いろいろと情報収集をしていた中で、テレビなどで近年はサンマが不漁になっていると耳にし、疑問に思ったことがあります。
それは、サンマの養殖についてです。
サンマは大衆魚で人気がありますし、これだけ天然物が高騰しているのであれば、養殖して出荷すれば、十分に売れるのではないかと思います。
しかし、サンマ養殖をやっている業者というのは、耳にしたことがありません。
サンマの養殖は技術的に不可能なのでしょうか?可能であれば何が問題なのでしょうか?
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
サンマの養殖は技術的に可能ですが、飼育面・魚価面などの問題があります
サンマの漁獲量の現状
サンマの不漁の原因は気候変動による海水温の上昇が一因とされており、さんまに適した生息海域が変化している可能性があります。
全国さんま棒受網漁業協同組合のサンマの水揚げ量のデータによると、平成20年(2008年)ピーク時のサンマ水揚数量は、343,225tです。
対して、令和4年(2022年)の水揚数量は17,910tとなり、約20分の1にまで減少しています。
サンマ漁獲量の減少から、さんまの販売価格は跳ね上がっています。
サンマ養殖は技術的に可能だが、商業的に難しい
サンマの養殖は、技術的には可能です。
2021年に福島県いわき市に所在する水族館「アクアマリンふくしま」は、世界で初めてサンマの水槽内養殖に成功しました。
最初は自然界から取ってきた天然種苗で養殖を始めましたが、現在では8世代まで継続してサンマの繁殖に成功しています。
つまり、水族館レベルでは、サンマの完全養殖に成功しています。
しかし、現時点ではこの養殖技術を商業用に応用できていません。
サンマ養殖の実現を妨げる問題点
サンマの養殖を拡大していくには、多くの課題を解決しなければなりません。
神経質でパニックを起こしやすい
サンマは、神経質でパニックを起こすと、勢いよく泳ぎ水槽内で暴れまわります。
光などの刺激に驚いて壁にぶつかり骨折して体が曲がったり、サンマ同士がぶつかり合って傷を負うと、死んでしまうこともあります。
さらに、うろこが剥がれやすく、皮膚も傷つきやすい性質です。
出荷量を維持するためにも、サンマの神経質な性質を考慮して養殖する必要があります。
遊泳力が高い
サンマは回遊性が強く、遊泳力の高い魚です。
自然界では餌を求めて大洋を泳ぎ回っているため、水槽内の飼育や狭い生簀では壁や底にぶつかり、傷ついてしまいます。
そのため、養殖を行うにはサンマが不自由なく回遊できるような、大きい生け簀が必要不可欠です。
胃をもっていない
サンマは胃をもっていないため、餌が少ないとすぐに痩せてしまいます。
水槽内でサンマの繁殖に成功したアクアマリンふくしまでは、餌やりを1日3回行なっています。
手間を削減するために自動給餌器を設置しており、餌の量や餌やりのタイミングも管理しています。
高水温に弱い
サンマは高水温に弱いため、夏は水温が18℃以下にするように設定する必要があります。
サンマの適温は15℃前後で、25℃以上では生きることが困難となり、低すぎてもいけません。
そのため、養殖にかかる電気代も高額になってしまいます。
サンマの魚価が安いため採算が取れない
アクアマリンふくしまでのサンマの飼育コストは、サンマ100匹の餌代に年間約40万円がかかっています。
養殖するためには、広い面積の水槽施設や温度管理設備も準備しなければならず、施設整備やランニングコストに多額の金銭的な負担がかかります。
そのため、このコストを回収するためには、高値で取引する必要があります。
しかし、サンマは天然物の水揚げに単価が左右されてしまうため、もし豊漁が続くと養殖サンマの需要は減ってしまいます。
最近では不漁の影響もあり、サンマの販売価格は高くなっていますが、消費者にとってサンマは安く手に入る大衆魚という印象があるため、単価が高くなると購入する人が減ってしまい、結果として養殖に必要な費用を補えない可能性がでてきます。
養殖に必要な生態研究が十分に実施されていないから
サンマは漁獲量が安定した大衆魚であったため、これまで養殖についての生態研究は本格的に実施されてきませんでした。
そのため、サンマ養殖を拡大するためには、種苗生産などについて、研究を進める必要があります。
問題点を乗り越えてサンマ養殖を一般化させよう
水産庁が令和3年に「不漁問題に関する検討会」を開催しました。
近年のさんま不漁は、地球温暖化・海洋環境の変化などが原因だといわれています。
サンマ不漁の原因については研究が進められているものの、今後も不漁が継続するかもしれません。
しかし、研究が進められていくにつれて、養殖技術が確立される可能性もあるため、可能性に満ちた養殖対象魚のひとつと言えるかもしれません。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。