水産会社で養殖を行なっています。
いま、うちの会社と自治体が連携して、ブランド魚を生み出せないか検討を進めています。
ブランド魚を調べてみると、サーモンは日本全国でブランド化され、さまざまな取り組みが行われていることを知りました。
うちではサーモンの養殖は行なっていませんが、需要も高い魚なので、個人的にはサーモンでブランド化を行うのがいいのではないかと考えています。
まずは下準備として設備面を検討しようと動いていますが、サーモン養殖には水質と水温の管理が重要だと聞きました。
成長ごとに水温も変化させていかなければいけないと思うので、最適な水温や管理方法についてアドバイスをください。
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
サーモン養殖は、成長と病気のリスクをおさえるために水温管理が重要です
サーモン養殖における水温の重要性
サーモンを養殖する際に適切な水質と水温管理を行うことは、成長と健康に直接影響があるため、非常に大切です。
適切な水温を保ちながら養殖を行うことで、サーモンの成長が早まり、養殖期間が短縮されることで、出荷量の増加と養殖効率の向上につながります。
水温管理が不十分で過度な温度変化が起こると、サーモンにストレスがかかることで免疫力が低下し、病気の発生率や死亡率が高まるリスクがあります。
サーモン養殖時の季節ごとの水温変化と対策
春と秋の水温変化と対策
年間を通じて安定した養殖を続けるためのポイントは、春と秋の適切な水温管理です。
春と秋は水温の変動が大きく、サーモンにとってストレスが大きくなる季節です。
特に春は、水温が急激に上昇することがあり、適切なモニタリングが不可欠です。
水温が上昇するとサーモンの活性が高まり酸素消費量が増加し、成長が促進されますが、同時に病気のリスクも高まります。
秋は逆に水温が低下し始めるため、サーモンの代謝が低下し、成長が遅くなります。
対策として、ヒーターや冷却システムを活用して水温を一定に保つことが重要です。
季節に関わらず、天気予報などから日常的に水温変化を予測し、早めの対策を行うことでサーモンの健康を維持できます。
夏の水温変化と対策
夏は水温が高くなるため、サーモンにとって厳しい季節になります。
高温環境では、サーモンの代謝が活発になり酸素消費量が増加するため、酸素供給を強化する必要があります。
酸素供給を強化するためには、エアレーションシステムや水流ポンプの導入が効果的です。
また、酸素濃縮器を利用して水に直接高濃度の酸素を注入することで、効率よく酸素レベルを維持できます。
水温が高くなることにより病気のリスクも高まるため、予防策をとることが重要です。
予防策の一つとして、水槽内の水量や水流を増やして酸素を効率的に供給し、水温を均一に保つ方法があります。
また、遮光シートを使用して直射日光を遮ることにより水温の上昇を防ぐことも効果的です。
冬の水温変化と対策
冬は水温が低下するため、春や夏と比較するとサーモンの成長速度がゆるやかになる季節です。
水温が低いと、サーモンの代謝が低下し餌の摂取量が減少します。
成長速度をできる限り落とさないための対策として、水槽の保温を行うとよいでしょう。
ヒーターを使用して水温を一定に保ち、水量や水流を減らしてサーモンに与えるストレスを軽減することも重要です。
また、冬季には病気の発生率が低くなるため、サーモンの健康状態を強化することができます。
冬季の間にサーモンの健康状態を定期的に検査し、異常がないか確認するとともに、高品質な餌を与えることで栄養管理を徹底し、免疫力を上げて健康なサーモンを育てましょう。
最適な水温範囲とその維持方法
サーモン養殖に適した水温範囲
サーモン養殖に適した水温範囲は、成長段階にもよりますが8〜15℃です。
稚魚(0〜6か月)は12〜15℃、幼魚(6〜12か月)は10〜14℃、成魚(12か月以上)は8〜12℃が理想とされています。
この水温の範囲内で養殖を行うと、サーモンの成長が最も効率的に進み、病気のリスクも低くなります。
水温が10℃以下になると、サーモンの代謝が低下し成長が遅くなり、15℃を超えると、代謝が過度に活発になり酸素消費量が増加します。
10℃~15℃の範囲内の水温を保つことで、効率的に、より健康なサーモンを養殖することができます。
効率的な水温管理のためのシステムと設備
効率的に水温を管理するためには、モニタリングシステムの導入がおすすめです。
最新のモニタリングシステムでは、水温の変動をリアルタイムで監視し、即時で調整できるものもあります。
モニタリングシステムがなくても、ヒートポンプや冷却システムを設置し定期的に水温を計測すれば、適切な範囲の温度を維持できます。
これらの設備投資は初期コストがかかるものの、長期的には養殖効率の向上とコスト削減につながります。
また、自動化されたシステムを導入すれば、人的なミスや人員コストの削減を実現した上で安定した水温管理ができます。
非常時の水温調整方法
水温調整設備が壊れてしまうなど、非常事態のために、予備の冷却装置やヒーターを備えておくことをおすすめします。
また、バックアップの水源や予備の酸素供給装置を用意しておくことで、非常時にも適切な水温環境に整えることができます。
水温モニタリングシステムを設置している場合は、温度変化のアラートに迅速に対応するために、対応手順や計画をあらかじめ整備しておきましょう。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。