ブリの養殖をしています。これまでは元気なブリをたくさん育てるよう心がけてきましたが、最近、日本各地でブリのブランド化が行われていることを知り、うちでも何かできないかと考えています。
調べてみると、エサに地域の名産品を混ぜている漁師が多い印象を受けましたが、うちの地域にはこれといった名産品がなく、どうすればいいのか悩んでいます。
エサ以外の部分で工夫し、付加価値をつけたブリを養殖できればいいのですが、そのような方法はあるのでしょうか?
ブリの養殖をしています。これまでは元気なブリをたくさん育てるよう心がけてきましたが、最近、日本各地でブリのブランド化が行われていることを知り、うちでも何かできないかと考えています。
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中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
ブリのエサ、選別、収容密度、網、出荷、ワクチンなど、さまざまな工夫を行なっている漁師がいます
ブリのエサ、給餌作業の工夫
養殖業において最も工夫されていることの一つが、エサを与える給餌作業です。
エサの内容成分や給餌作業を工夫することで、消費者の好みに合わせた(脂の乗りなど)高品質なブリを育てることができます。
エサの工夫
現在では、ブリの養殖に用いられるエサのほとんどが、MPやDPといった配合飼料です。
そのため、MPやDPといったエサを作る際にさまざまな工夫をしている漁師が多くいます。
例えば、生餌とフィッシュミール(魚を乾燥させて粉上に砕いた魚粉)魚油の割合をイズ(稚魚・成魚)や季節(水温等の環境)によって変えたり、抗酸化作用(酸化しない、あるいは酸化を遅らせること)があるビタミンやポリフェノールなどを含む食品やフルーツ(地元特産品)を加えたりしています。
また、昆虫を養殖魚のエサとして用いる「昆虫飼料」の研究・開発も進んでいます。
昆虫飼料についてはこちらの記事で詳しく紹介しています
「ブリなど養殖魚の餌代が高騰している。昆虫をエサにできると聞いたのですが本当ですか?」
給餌作業の工夫
給餌内容成分や作業を工夫することでブリの品質向上を図っている漁師もいます。
現在では、魚類栄養学をもとに魚に必要なエネルギー量を計算してエサを与える、適正給餌が行われています。
例えば、夏〜秋は成長する時期なので給餌量を増やすなど、魚体の大きさや海水温に応じて給餌する内容成分や回数と量が調整されています。
そのため、養殖業者は給餌量と給餌内容を毎日記録し、成長とエサのコストを比較しながら最適な給餌ができるよう工夫しています。
また、月に一回のペースでブリの体長・体重を測定し、成長度を判定します。成長度次第で、出荷予定時期から逆算した適切な給餌量を決めるのです。
エサや与え方についてはこちらで詳しく紹介しています
「養殖ブリの餌とは?種類や与え方が知りたい」
エサを工夫したブリ養殖の事例
現在、多くの養殖業者が地元の特産品をエサに混ぜて独自のブリを養殖しています。
初めてフルーツをエサに混ぜて育てたのが鹿児島県の「柚子ブリ」です。高知大学で研究され、高知県の名産である柚子を与えることで、「柚子ブリ」としてブランド化しました。
また、愛媛県ではみかんなどの柑橘(かんきつ)類の皮やオイルを混ぜたエサで「みかんフィッシュ」と呼ばれるブリを育てています。
他にも、徳島県の「すだちブリ」や「大分県のかぼすブリ」など、いくつもの地域や養殖業者がエサを工夫することで高品質かつ独自のブリを育てています。
ブランド化についてはこちらの記事もご覧ください
「養殖ブリのブランド化はどうやっているのですか?事例も教えてください」
ブリの選別作業の工夫
魚の大きさを揃えるために、一度生けすから出し、大きさ別に異なる生けすに分ける選別作業。
この作業では2~3キロの中間魚を、さらなる成長と成熟のために、より広い生けすを持った出荷漁場へ移送し、育てている漁師もいます。
一般的な生けすよりも大きな生けすで育てることで、運動量が増えて身が締まり、より天然魚に近い身質になるのです。
網の洗浄・交換の工夫
養殖生けすに使用する網には海藻類や貝類が付着します。こうした付着物は生けす内の環境(環水)を悪化させます。
そこで、定期的に網を洗浄し、そうしたトラブルを未然に防ぐことが重要です。潜水夫に依頼して網を洗浄したり、網洗浄機を使って洗浄するなどさまざまな工夫をしている養殖業者もいます。
また、網への付着物を減少させることを目的にイシダイやカワハギを飼育している漁師もいます。
使用が認められた付着防汚剤(塗料の一種)を網に沁み込ませて化繊網の汚れを取る工夫もあります。ただし、付着防汚剤の効き目には限りがあり、防汚剤の効果が薄くなってると、網を交換する必要があります。
このように、適切な時期に養殖網を洗浄したり交換することで、生けす内の環境を悪化させない工夫がされています。
出荷作業の工夫
水揚げは早朝に行われます。出荷予定の生けすから取り網で水揚げされたブリは鮮度保持のため、すぐに活け締めします。
陸に運ばれた魚は一本ずつ計量し、発泡スチロール箱に入れて運ばれます。この時、氷や水が長時間魚体に触れると痛むことがあるので、傷まないように工夫されます。
また、活魚車で出荷する場合、水温調整のために氷を入れて水槽内の水温や溶存酸素を適切に維持したり、産地から市場が遠いときは、輸送途中で水槽の海水を交換するなど鮮度維持の工夫をしています。
ワクチン接種の工夫
ブリの養殖はモジャコの採捕からスタートします。採捕されたモジャコにワクチン接種を行っている漁師もいます。
ワクチンを接種することで病気を未然に防ぎ、不要な投薬を避けることができます。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。