ブリ養殖を行っていますが、資源不足や環境変化などによって、今後養殖業が続けていけるのか不安を抱いています。
そこで、持続的で安定的な養殖業を実現するためにも、ブリ養殖の問題点を理解したいので教えてください。
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中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
ブリ養殖ではエサの資源や種苗に問題を抱えています
ブリ養殖の課題と問題点
日本の養殖業の課題の一つは高コスト体質にあります。特に、エサの原料となる魚粉が高騰し、年々生産コストが増加しています。
また、環境変化による疾病の発生や赤潮被害によって、養殖業者の経営は非常に厳しい環境に置かれています。
さらに、漁師の高齢化や後継者不足といった人材の問題や、種苗となる天然の稚魚(モジャコ)資源やエサの食べかすなどによる海洋環境への影響も問題となっています。
持続的で安定的な経営を実現するためには、これらの課題を克服し、生産性の向上と生態系への影響を低減していくことが重要です。
ブリ養殖の問題点1 エサ資源
養殖魚のエサである配合飼料は、主原料である魚粉のほとんどを輸入に頼っています。
しかし、世界的な人口増加に伴う需要の急増で、エサの原料となる魚粉の価格が高騰しているのです。
養殖業では、経費の大部分をエサ代が占めているため、原料となる魚粉の価格が上がることは死活問題です。
また、魚粉の原料となるイワシやサバなどの水産資源は乱獲や環境変化によって、減少が指摘されています。水産資源を保護する観点からも魚粉の使用量を減らさなければいけません。
そこで、いま注目されているのが、大豆油粕やコーングルテンといった植物性原料で作る低魚粉飼料や高効率飼料です。
大豆油粕やコーングルテンは、魚粉より安価に調達できますが、魚の成長に必要な成分を追加する必要があります。
ブリ養殖の問題点2 種苗
ブリ養殖に用いる種苗は、そのほとんどを天然の稚魚(モジャコ)に依存しており、量や質が安定しないという問題を抱えています。
年により好不漁があり、入手時期も春に限られます。稚魚が不漁となった場合、翌年のブリの出荷量に大きな支障が出てしまいます。
これに対して、親魚から採卵しふ化して育てる人工種苗は、年間を通して安定的に入手することができます。
時期を問わず種苗を入手できるため、天然種苗を使った場合、秋冬に限られるブリの出荷が春夏でもできるようになり、周年出荷や早期出荷も可能になります。
また、稚魚から親魚になるまでの履歴が確認できたり、選抜育種(品種改良において、魚体の大きさなど、有用な品種を選び、その品種同士のかけあわせを繰り返すこと)を行うことにより、例えば、成長が早い、病気に強い、環境変化に強いなど多くのメリットがあります。
近年は養殖ブリの販売において、量販店や欧米向けの輸出業者から、履歴が明らかな人工種苗が求められていることもあり、市場のニーズも高まっています。
ブリ養殖の早期出荷については、こちらの記事をご覧ください
(関連記事:「ブリの養殖期間を短くして、早期出荷する方法を教えて ください」)
ASC認証とは?
ASC認証とは、ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)による、環境に負担をかけず、地域社会に配慮して操業している養殖業に対する国際的な認証制度のことです。
一定の基準を満たし、認証を受けた製品には、店頭で販売される際にASCの認証ラベルがつけられます。
ラベルがつけられることで、自然環境に配慮した製品であることが消費者に一目で分かるようになっています。
養殖ブリがASC認証を受けるには、次の7つの養殖基準項目を満たす必要があります。
1、該当する全ての国際法、国内法および地方条例の順守
2、自然環境、地域の生物多様性、生態系の構造と機能の保全
3、天然個体群の健康および遺伝的健全性の保護
4、自然環境の保全上、効率的かつ責任ある手法での資源利用
5、養殖魚の健康と福祉の率先した管理と疾病の伝染リスクの最小化
6、責任ある労働環境をもった養殖場の運営
7、地域の一員として良識的かつ誠実であること
日本のブリ養殖業者にとって最も難しいと思われる要求事項の一つが、エサに使用する魚粉や魚油の低減です。
現在、養殖のエサには魚粉・魚油を多く使っていますが、ブリ類のASC認証基準ではエサに含まれる魚粉、魚油の使用比率を大きく下げなければいけません。
それに加えて、魚粉・魚油として使用する魚についても適切な資源管理が求められています。
また、ブリ養殖は、養殖魚から採卵して育てる完全養殖ではなく、自然界の稚魚を採捕して育てる養殖が主流のため、稚魚の適切な資源管理も認証取得の上で重要な課題となります。
このような厳格な基準をクリアし、ASC認証を取得することで、養殖業を環境に配慮した持続可能な産業へと切り替えることができます。
そうした養殖業者の努力によって、海洋環境を守り、水産業全体の持続可能性に繋がっていくでしょう。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。