ブリを養殖している漁師ですが、最近、ブリのブランド化がうちの漁協でも話題になります。
ブランド化をした地域のブリは高値で取引されていると聞いて、うちでもやってみないかと検討しています。
しかし、ブランド化についての知識がありません。他の養殖業者はどのようにして養殖ブリをブランド化したのか事例を通して方法を教えてください。
ブリを養殖している漁師ですが、最近、ブリのブランド化がうちの漁協でも話題になります。
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中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
エサや生育環境を工夫し、ブリに付加価値をつけます
養殖ブリのブランド化とは?
養殖ブリのブランド化とは、エサや生育環境を工夫することで、品質を高めるとともに他のブリとは違った独自のブリを育てることです。
例えば、エサに抗酸化作用(酸化しない、あるいは酸化を遅らせること)があるビタミンやポリフェノールなどを含む食品やフルーツを加えます。
そうすることで酸化を遅らせ、魚の変色や傷みを抑え、魚の価値を高めることができます。
地元の名産品を使って独自のエサを開発し、ブランドブリを育てている養殖業者もいます。
また、エサに含まれる脂質量を調整することで、ブリの脂の乗り具合を調整することができます。
地域や年代、性別で味の好みは違っていますので、ターゲットとする消費者の好みに合った味を再現でき、他のブリとの差別化が図れます。
養殖ブリのブランド化事例
鹿児島県「鰤王」
鹿児島県のブリ養殖は生産量日本一を誇ります。その数は、年間26,654トンと全国の生産量(104,055トン)の25.6%を占めています(2019年時点のデータ)。
その中でも長島町の東町漁協が最大の生産量(12,000トン)を誇っています。
この長島町で生産されているブランドブリが「鰤王」です。
「鰤王」は国内のみならず、アメリカや中国、ドイツなど約30カ国に輸出しています。
「鰤王」がブランド化に成功したポイントをいくつか解説します。
まず、品質の安定化を図るために、「鰤王EP」と「鰤王マッシュ」というオリジナル飼料を開発しました。
一般の飼料は主成分のみが明らかにされていますが、これらのオリジナル飼料は原料のグレードから微量成分量まで徹底的に規格化され、残った魚粉や再生油は一切使っていません。
次に、東町漁協の組織態勢の構築です。
東町漁協では、生産者組合員の家族が総出でブリ養殖を行います。稚魚から出荷までおよそ2年、生産者一人ひとりがオーナーとして一貫して育てています。
また、漁協が一致団結して「一元集荷、全量共販出荷」という組織体制を築いたことで、「周年出荷」を可能にし、365日絶対にモノがあるという安心感がブランド化へと繋がっています。
次に、食品の生産から加工、販売、流通までの情報を追跡できる仕組みトレーサビリティシステムを構築しました。
独自のブリ養殖管理基準書に沿って徹底した品質管理システムが施されています。
このように、エサの開発、生産から出荷までの態勢の構築、品質管理システムの徹底などを通して、質の向上と安定化を図り、世界に認められるブランド魚「鰤王」ができあがったのです。
大分県「かぼすブリ」
大分県はブリの養殖がとても盛んな地域で、生産量は全国2位となっています(2019年時点)。
その理由として、養殖に適した漁場環境が揃っていることが挙げられます。複雑に入り組んだリアス式海岸が続く豊後水道は、養殖に適した内湾が多くあります。
こうした環境で育てられたブリは脂の乗りが良いと言われ、「豊の活きぶり」として全国に出荷されていました。
しかし、ブリの切り身は、ヒラマサやカンパチと比べて血合い部分が早く変色してしまいます。
味は魚を締めてから数日間はおいしく食べられるのですが、時間の経過とともに変色し、見た目が悪くなることで商品価値が落ちるという問題を抱えていました。
そこで、柑橘類に含まれるポリフェノールやビタミンがブリの酸化を遅らせる作用があることに着目したのです。
研究の結果、全国の9割の生産量を誇る大分県の特産品であるかぼすをエサに添加する方法が開発されました。
かぼす果汁やかぼすを皮ごと粉末状にし、総給餌の0.5%をエサとなるMPやEP餌料に加え、25回以上与えます。
こうして、旬を迎える冬限定商品として誕生したのが「かぼすブリ」です。鮮度を長く保つことができ、くさみのないブリとなりました。
さらに、もともと酸化抑制のために与えたかぼすですが、かぼすに含まれるリモネンの効果により、肉質の臭みをとり、脂が乗ってさっぱりと爽やかな味わいに仕上げるという副産物をもたらしました。
また、かぼす効果によって、内臓が小さく、可食部(背+腹)が多いブリが育つことも分かりました。
「かぼすブリ」は全身の色つやも美しく、脂がしつこくなくさっぱりしているため、ブリの刺身が苦手という人でも食べやすい味になっています。
宮崎県「黒瀬ブリ」
フルーツをエサに混ぜるフルーツブリはたくさんいますが、宮崎県で生産されている「黒瀬ブリ」は唐辛子をエサに混ぜて育てられています。
かつて養殖ブリは脂が乗りすぎていることで評価を落としたり、エサ由来と思われる魚の油の匂いで敬遠されることがありました。
そこで、出荷近くまで大きく育ったブリのエサに唐辛子を混ぜて与えたのです。すると、ブリの体脂肪が減っていきました。
これは、唐辛子に含まれるカプサイシンが作用したためです。
ブリの脂肪分が減ったおかげでほど良い脂の乗りに仕上がり、さらには歯ごたえを向上させる効果や血合筋の退色を遅くする効果などがあることも確認されました。
また、見た目の良さを示す「色長保持率」が他の養殖ブリより20%高く、さらに身質を示す物性も他の30%以上高いとの分析も出ています。
「黒瀬ブリ」の多くは「人工種苗」で育てられています。
厳選されたオスとメスから生まれた卵を人の手でじっくりと一貫して育てることで、より高品質なブリを実現しています。
健康管理についてもダイバーが毎日生けすに潜り、直接健康を管理しています。
三重県「プレミアムDHAブリ」
三重県の尾鷲物産と高知大学が共同で開発したのが「プレミアムDHAブリ」です。
近年、健康志向が高まる中で、ブリに含まれるDHAに着目し、その含有量を増加させることで、サプリメントに代わる新たな付加価値商品として生み出されました。
開発当初は、DHA含有量を高めるためのオイルが固形飼料のEP(エクストルーダーペレット)にうまくなじまなかったり、給餌の際に浮いてしまうなどの問題がありました。
試行錯誤する中でこうした課題を解決し、可食部100グラム当たりDHA3グラム以上のブリを作ることに成功しました。
厚生労働省では、DHAは1日1グラム以上の摂取を推奨していますが、「プレミアムDHAブリ」の刺身2切れで推奨値に相当する量を摂取することが可能です。
現在はDHA含量の高いオイルは高価なため、より適切な給餌時期や高いDHA含量を維持するための給餌方法を検討しています。
このように、DHA含有量という他のブランド魚とは違った視点でブランド化している養殖業者もいます。
ブリ養殖の餌の種類や与え方については、こちらの記事をご覧ください
「養殖ブリの餌とは?種類や与え方が知りたい」
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。