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鹿児島県ではどんなブリ養殖をしているのですか?

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鹿児島県ではどんなブリ養殖をしているのですか?

ブリを養殖している漁師です。うちの地域はまだブリ養殖に力を入れ始めたばかりで、水揚げも少ないのですが、日本では鹿児島県が生産量で日本一だと聞きました。

これからもっと生産量を増やし得ていくためにも、鹿児島県ではどんなブリ養殖が行われているのか、気になっています。

そのノウハウを参考にして、うちの養殖にも活かしていきたいので、鹿児島県のブリ養殖について教えてください。

中平博史

全国海水養魚協会 専務理事

東町漁協などが養殖ブリのブランド化に向けたさまざまな改革を行なっています

鹿児島県のブリ養殖の生産量


鹿児島県の養殖ブリは生産量日本一を誇ります。その数は、年間26,654トンと全国の生産量(104,055トン)の25.6%を占めています(2019年時点)。

中でも長島町が最大の生産量を誇り、およそ12,000トンが生産されています。

長島町のブリは「鰤王」の名前でブランドブリとして知られ、国内のみならずアメリカや中国、ドイツなど約30カ国へ年間1,200トンが輸出されています。

養殖ブリの生産量について下記の関連記事もご覧ください
養殖ブリの生産量が多い産地が知りたい


鹿児島県でブリ養殖をするメリット


鹿児島でブリを養殖するメリットとして、海域の潮の流れが早く、深く入り組んだ内湾が多い環境があります。

また、年間平均水温が19度と温暖な気候ゆえ、ブリの稚魚である「モジャコ」の採捕に適した地域でもあります。

ブリは主に東シナ海で産卵します。ふ化した仔魚が1.5センチくらいまで成長するとモジャコとなり、流れ藻について北上します。

7センチほどまで成長すると、沿岸の浅い場所に移動し、奥行きが深い内湾や内海で完全な魚食性へと変わるまでしばらく生育するのです。

このように鹿児島県はブリの成長過程における特性に合った漁場環境が揃っていることがメリットとなり、生産量を押し上げています。


「鰤王」ブランド化成功事例


鹿児島県が養殖ブリで日本一の生産量を誇っているのは、長島町の東町漁協の取り組みが大きく貢献しています。


東町漁協の組織体制


東町漁協では、生産者組合員の家族が総出でブリの養殖を行っています。

養殖ブリは稚魚から出荷までおよそ2年かかりますが、その間、生産者一人ひとりがオーナーとして責任と愛情をもって育てています。

また、それぞれの生産者がバラバラに購入、販売するのではなく、漁協が一致団結して「一元購入、全量共販出荷」という組織体制を作りました。

こうした組織体制を築いたことで、「安定品質、周年出荷」を可能にし、通年安定した品質が保たれているという安心感がブランド化へと繋がっています。


品質の安定化


東町漁協では、品質の安定化を図るために2005年に「鰤王EP」と「鰤王マッシュ」というオリジナル飼料を開発しました。

「鰤王EP」は配合された飼料をドッグフードのように粒状に小さく練り固めたもので、「鰤王マッシュ」は、サバやイワシなどの冷凍した生エサに混ぜ合わせて使用します。

一般の飼料は主成分のみが明らかにされていますが、これらの飼料は原料のグレードから微量成分量まで徹底的に規格化され、残った魚粉や再生油は一切使われていません。

独自開発したオリジナル飼料によって、ブリの栄養価を安定させ、肉質のばらつきをなくし、鮮度を保つ役割を果たすことができるのです。


トレーサビリティシステムの構築


トレーサビリティとは、食品の生産から加工、販売、流通までの情報を追跡できる仕組みのことです。

「鰤王」は、ブリ養殖管理基準書に沿って徹底した品質管理システムが施されています。

生産者はこの基準書に基づいてブリを育てなければいけません。

例えば、毎日生けすごとに与えたエサの種類や量、魚体の大きさなどを日誌に記します。漁師が毎日つけた日誌の保管体制もしっかりと整えられています。

また、万が一ブリに異常が見られたり、水質などの環境に変化が見られた場合は、魚の状態を検査するなど徹底して分析し、原因究明を図っています。

きちんとした管理体制のもとに育てられることで、安心安全なブリを安定的に供給することができるのです。


赤潮対策


東町漁協では、赤潮対策として、赤潮の心配のない外海に避難用の係留施設(生けすをつなぎとめておける場所)を設置しました。

さらに、赤潮発生時に海中深くまで沈めることで被害抑制に効果がある浮沈式生けすも整備。

また、大きい魚体ほど赤潮被害を受けやすいことから、リスクの高い3年魚の保有を減らし、3年魚が主体であった夏場の出荷は2年魚で対応できるような態勢を整えました。

そのためには、通常9月から出荷する2年魚が、7月の時点で出荷可能な大きさに育っていないといけません。

そこで、採捕したモジャコの中から大きいサイズの一番仔(一回目の産卵で生まれた魚)だけを集めて、大きな稚魚を育成し、早期出荷用に育てたのです。

こうして誕生したのが夏場限定で出荷されている「早生鰤王」です。

「早生鰤王」は赤潮被害のリスク軽減のみならずさまざまなメリットを生みました。

育成期間が短いことでエサが減り、コストが削減されたこと、また3年目の5~6月ごろに起こっていた産卵後の脂の乗りの低下や、身割れといった肉質の低下を軽減することができたのです。

さらに、脂肪量やDHA、EPA含有量も3年魚を上回り、血合いもきれいで変色も遅く、夏場に刺身として販売できる新たなブリが誕生しました。


人工種苗の導入


東町漁協は「周年出荷」の安定を図り、7月以前からの出荷にも対応できるよう、親魚から採卵し、ふ化して育てる「人工種苗」を導入しました。

早期採卵した「人工種苗」を水温が高く、育ちの早い南種子島で育成し、その後長島町の赤潮対策が施された外海の沖合で育てたのです。

こうして早期ブリ「新星鰤王」が誕生しました。

また、近年ブリ養殖に欠かせないモジャコの漁獲量が減少していることからも、「人工種苗」は注目されています。

モジャコが不漁になれば、翌年以降の出荷量に大きく影響を及ぼします。

しかし「人工種苗」を使えば、モジャコが不漁の翌年も出荷量を減らすことなく、影響を小さくすることができるのです。

海外では「人工種苗」で育てられ、履歴管理された養殖魚が好まれる傾向にあります。こうした海外のニーズにマッチしていることから、輸出拡大に大きく貢献しています。

このように東町漁協では、さまざまな課題を解決しようと試行錯誤する中で、「周年出荷」の態勢を整えるだけでなく付加価値の高いブリが作られているのです。

一般的なブリ養殖の方法についてはこちらをご覧ください
ブリの養殖はどのように行われているのでしょうか?

このお悩みの監修者

中平博史

全国海水養魚協会 専務理事

全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。

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