ブリの養殖をしている企業に就職を考えている者です。ずっと漁師になりたいと考えていましたが、地元に帰るタイミングで、養殖業者に就職しようかと検討しています。
いまはネットを見ながら情報収集していますが、養殖方法についても独学で勉強しています。
その中で気になったのが、ブリには寄生虫がいて、天然のブリと養殖のブリとでは寄生虫の有無に差があると知りました。
しかし、なぜ天然ブリと養殖ブリで違いがあるのかがわかりません。また、ブリに寄生する寄生虫の種類や、寄生させない方法も教えていただけないでしょうか。
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
ブリの養殖では与えるエサで寄生虫対策をしよう
ブリに寄生する2種類の寄生虫
ブリに寄生する寄生虫は、主に2種類です。
それぞれ、「ブリ糸状虫」「アニサキス」とよばれる寄生虫で、大きさや特徴に違いがあります。
ブリ糸状虫
ブリ糸状虫は、ミミズのような形で色は赤黒く、大きさが5~30センチほどの寄生虫です。
ブリの筋肉部分に寄生していることが多く、ブリをさばくと目視で発見できるくらい大きくわかりやすいです。
見た目が大きくインパクトのある寄生虫ですが、人には無害で寄生しているブリを食べても問題ありません。
また、ブリ糸状虫は寒さに弱く、冬季のブリでは寄生している確率が低いとされています。
アニサキス
アニサキスはブリの他にも、サバ・サンマ・イカなどの魚介類に寄生する寄生虫です。
ブリ糸状虫ほどの大きさはありませんが、人には有害なので食べないようにしましょう。
アニサキスについてはこちらもご覧ください
「養殖ブリにアニサキスは寄生しますか?」
「食中毒を起こす「アニサキス」。加熱か冷凍する以外で対策する方法はありますか?」
天然と養殖における寄生虫の有無
天然ブリ
天然のブリには、寄生虫がいることがあります。なぜなら、寄生虫の有無はブリが食べたエサの影響が大きいからです。
ブリ糸状虫はミジンコから、アニサキスはオキアミや小魚から、食物連鎖により寄生する宿主を変えていきます。
そのため、天然ものでは水揚げされたブリが、今までにどんなエサを食べてきたかわからないため、寄生虫がいる可能性があります。
東京都福祉保健局では、魚種別アニサキス寄生状況について調査しており、その調査によると市場に流通するブリにアニサキスが寄生している確率は約4パーセントでした。
養殖ブリ
天然ブリと比べて、養殖ブリにはほとんど寄生虫はいません。
なぜなら、養殖のブリではエサが管理されており、寄生虫を含んだエサを食べることがないからです。
稚魚であるモジャコからブリになるまで丁寧に管理されて育つので、寄生虫の心配は比較的少ないと言えるでしょう。
しかし、ブリは海中のいけすで養殖をすることが多く、完全に隔離されているわけではありません。
そのため、寄生虫の割合は少ないですが、ゼロではないことを覚えておきましょう。
ブリの養殖で寄生虫を寄生させない対策
エサに気をつける
ブリの養殖における寄生虫対策としてもっとも大切なことは、与えるエサに気をつけることです。
ブリのエサであるサバやイワシ等は食物連鎖によりオキアミなどを介して、寄生虫に寄生されてしまう恐れがあるため、エサの種類に注意しましょう。
例えば、アニサキスであれば70度以上での加熱や、マイナス20度以下で24時間以上の冷凍をすると死滅してほぼいなくなります。
そのため、生のエサではなく冷凍エサや加工したエサを与えると良いでしょう。
また最近では、高温高圧下で製造されたEP(エクストルーデッドペレット)の使用も多くなっています。
ブリの成長に合わせて成分を変えられて、使い勝手も良いため、このような配合飼料を選択することもおすすめです。
エサの種類や与え方についてはこちらをご覧ください
「養殖ブリの餌とは?種類や与え方が知りたい」
いけすの整備に気をつける
ブリの養殖では、いけすの破損にも注意しておきましょう。
いけすの破損箇所から小型魚が流入して、ブリが食べてしまうことも考えられます。もしも、寄生虫に寄生されていた魚であれば、ブリにも寄生する可能性があります。
そのため、いけすの耐用年数を把握して、定期的な保守点検を行うようにしましょう。
ブリの寄生虫についてよく理解をして寄生虫対策を徹底しよう
ブリには、ブリ糸状虫とアニサキスが寄生している可能性があります。
天然のブリと養殖のブリでは、エサの管理を徹底している養殖ブリの方が寄生虫にかかる割合が少ないです。
さらに、養殖のブリで寄生虫に寄生されないためには、与えるエサを加工飼料にすることや、いけすの点検をこまめに行うことが大切です。
養殖ブリにおける寄生虫や寄生虫対策に関して理解を深め、新たにブリの養殖にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。