最近、資源管理をしながら漁ができる栽培漁業に興味を持ち始めました。
うちの漁協でも昔から取り組んでいるので、これまで漁師仲間から噂程度に話を聞いていたのですが、どのような仕組みで行われているのかまでは理解していません。
稚魚を育てて放流し、その魚が成長したら漁獲する程度のことは分かるのですが、どのような流れで育て、放流した魚をどのタイミングで漁獲するのでしょうか?
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有元操
アリ元技術士事務所 所長
栽培漁業は魚や貝を卵から育て、放流し、漁獲する仕組みです
栽培漁業の仕組み
栽培漁業は全国で行われ、国が5年ごとに定める「水産基本計画」の中の「水産動物の種苗の生産及び放流並びに水産動物の育成に関する基本方針」に基づき実施されています。
資源管理上効果のあるものを見極め、放流が実施されます。
そのため、養殖業と異なり「天然を利用し、稚魚を育て漁獲する」ことが可能です。
栽培漁業は、減少した対象水域の資源を回復させることを目的に、人工的に生産された種苗を放流します。そのため、再生産による資源回復も期待されています。
このことから、栽培漁業は「作り育てる漁業」とも言われています。
魚種別の栽培漁業の方法についてはこちらをご覧ください
「栽培漁業ではサケをどのようにして育てているのでしょうか?」
「栽培漁業でマダイを育てることは可能ですか?」
「クルマエビの栽培漁業で放流する稚エビの育成方法や放流地域が知りたい」
「キジハタの栽培漁業を検討中。どう行えばいいですか?」
「ウニの栽培漁業はどのように行っているのでしょうか?」
「ホタテガイの栽培漁業はどのように行っているのか教えてください」
「トラフグの栽培漁業はどうやっている?資源管理に興味があります」
「カサゴの栽培漁業はどうやっている?どこに放流している?」
栽培漁業の工程
栽培漁業の現場では、稚魚や稚貝を育てる段階から放流まで、およそ以下のような工程があります。
初期飼育
採卵用に使用する親魚は、天然魚あるいは天然魚を数年間養成したものから採卵します。
主な採卵方法として「水槽内産卵手法」と「人工授精手法」があります。
水槽内産卵手法では、水槽に一定割合で雄と雌を入れ飼育し、成熟・産卵させます。
人工授精法では、雌から卵を作出し、作出した雄の精液を卵にかけ、受精させる方法です。
いずれの採卵手法でもホルモン剤を親魚に注射して採卵させる場合があります。
得られた受精卵は、ふ化水槽で水温、塩分、注水量に配慮しながら管理し、ふ化させます。
ふ化した幼生には、魚類では主にワムシを、エビ、カニ、貝類では藻類を初期餌料として与えます。
ワムシは卵から孵化した魚が最初に食べるプランクトンで、多くの場合は、飼育現場で培養されます。
一方で、藻類も飼育現場で培養し用いますが、最近では市販の珪藻類を購入し、給餌する方法もあります。
稚魚に与える餌の種類についてはこちらをご覧ください
「栽培漁業では何を餌に与えているのでしょうか?」
中間育成
中間育成とは、放流魚を回収率が高くなるサイズまで育てることです。
魚種、海域および育成期間などにより、陸上水槽や海面小割生簀で行われます。
海面生簀で中間育成する場合は、密度や給餌量に配慮して、環境を汚染しないようにします。
放流
放流するタイミングは、放流魚が効率的・経済的に漁獲できるように、魚のサイズ、放流場所の環境を検討し、決められます。
放流場所は、初期の一定期間は、種苗の生息場となるため、水温、塩分濃度、深さなどはもちろんのこと、餌生物の量、底質、広さなども考慮して決定されます。
藻場や干潟などの稚魚の外敵が少ない場所で行うことが一般的ですが、魚介の種類により異なります。
最適な場所を知りたい場合は「栽培漁業センター」や、各県の「水産県センター・水産試験場」に問い合わせましょう。
放流種苗の大きさや放流時期の目安はこちらをご覧ください
「栽培漁業の放流はどのように行われているのですか?」
このお悩みの監修者
有元操
アリ元技術士事務所 所長
国立研究開発法人水産総合研究センター 増養殖研究所の部長や本部の研究開発コーディネーターを歴任。シマアジのウイルス性神経壊死症(VNN)が初めて発生した際に、原因解明し、対策を講じ、シマアジ種苗の生産性を回復させた。博士(農学)、技術士(水産分野)