最近、漁協の中で栽培漁業について話題になることがあり、とても興味があります。
現在は養殖業を行っているのですが、栽培漁業をはじめるためには、新しく設備を導入しなければいけないのでしょうか。
育てる魚によって設備も変わってくると思うので、栽培漁業ではどのような魚を育て、漁獲することができるのか、教えていただけないでしょうか?
最近、漁協の中で栽培漁業について話題になることがあり、とても興味があります。
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時村宗春
公益財団法人 海外漁業協力財団 技術顧問
栽培漁業で対象とする魚介類はサケ(シロザケ)、ヒラメ、マダイ、クルマエビ、アワビなど多数います
栽培漁業で獲れる魚の種類
栽培漁業では現在、さまざまな種類の人工的に育てた稚魚や天然で採捕した稚魚を放流しています。
研究中のものも含めると、約80種類の魚や無脊椎動物(エビ、貝、ナマコなど)が育てられ、海に放流されています。
代表的な魚は、サケ(シロザケ)、ヒラメ、マダイ、ニシン、トラフグ、キジハタ、カサゴ、カレイなど。甲殻類は、クルマエビ、ガザミ。
そして貝類は、アワビ、ホタテ貝、アサリなどです。
栽培漁業で獲れる主な魚貝類
魚類
甲殻類
貝類
サケ(シロザケ)
クルマエビ
ホタテガイ
ヒラメ
ヨシエビ
エゾアワビ
マダイ
ガザミ
アサリ
ニシン
クマエビ
クロアワビ
ハタハタ
ノコギリガザミ
ウバガイ
トラフグ
タイワンガザミ
サザエ
カサゴ
ホッカイエビ
ナマコ類
クロダイ
イセエビ
ウニ類
キジハタ
コウライエビ
アゲマキ
栽培漁業の対象となる魚は、基本的に漁獲量が減少したものが多く、次に販売価格が比較的高いものになります。
また、あまり移動・回遊しないものや産卵のために戻ってくるものが好まれます。
販売価格の高い魚が優先されるのは、稚魚を育て、放流するまでの施設にかかる経費や人件費を考慮するためです。
必要な設備の違い
栽培漁業では、自分たちで種苗を作るか、栽培漁業センターなどが作った種苗を購入し放流するかで、必要な設備が異なります。
自分たちで作る場合、海水に含まれるゴミやプランクトンなどを取り除く「ろ過装置」や「殺菌装置」、種苗を育てるための「採卵室」や「幼生管理室」などが必要になります。
親魚が産卵した卵を孵化させ、幼稚仔の飼育を行うために、大規模な施設が必要となるのです。また、稚仔の餌を培養したり、保管するための設備も必要となります。
こういった設備を個人で用意するには莫大な資金が必要となるので、現実的ではありません。
そのため、各都道府県では栽培漁業センターや栽培漁業公社、水産試験場などによって、種苗の生産が行われていますので、その種苗を購入して、そのまま放流したり、中間育成して(ある程度大きくしたり生き残る力を強くしたりして)放流するのが一般的です。
栽培漁業と養殖漁業の違いについてはこちらをご覧ください
「養殖漁業と栽培漁業の違いを教えてください」
「守り育てる」栽培漁業
栽培漁業は、魚や貝が卵から稚魚や稚貝になるまでの外敵に狙われやすい期間を、人の手で守り育て、ある程度の大きさになったら海に放流し、成長したものを獲る漁業です。
このように、栽培漁業は、当初は放流した稚魚や稚貝を自然環境で大きくして回収するという考えが主流でしたが、最近は、放流により親となる魚や貝を増やし、きちんと管理して親の量を増やし、それによって資源を回復させるという考えが主流になりつつあります。
漁業者の方々が自分たちで種苗を放流すると、「自分の資源をきちんと管理しよう」という意識が高まるという話もよく聞きます。
栽培漁業によって水産資源が回復すれば、漁獲量が安定していくことで、漁師の収入も安定し、一般の市場への魚や貝の供給も安定します。
栽培漁業という「守り育てる漁業」は、これからの漁業を支える可能性に満ちた取り組みの一つだといえますが、課題もあることを頭に入れておかなければなりません。
たとえば、種苗生産にはかなりの費用がかかる上、種苗の質(生き残る力)や大きさ(食べられにくい大きさ)が不十分で、放流時期や場所などが適切でないと、放流された稚魚の生き残りが悪くなり、費用や労力に見合う効果(漁獲)を得られません。
また、放流した稚魚が餌や生息場所で、天然の稚魚と競合したり、限られた親から作った稚魚を放流することで、資源の遺伝的な多様性が低くなる(トラブルに対する資源の抵抗力が弱まる)など、天然の資源によくない影響を与える可能性もあります。
栽培漁業に取り組む際には、まず都道府県の栽培漁業センター、試験研究機関、改良普及員の方々などと、よく相談することをおすすめします。
栽培漁業の仕組みや工程についてはこちらをご覧ください
「栽培漁業はどのような仕組みで行われているのですか?」
このお悩みの監修者
時村宗春
公益財団法人 海外漁業協力財団 技術顧問
元独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所長。農学博士。日本の漁業・水産関連の研究だけでなく『韓国の漁業』『東シナ海・黄海の魚類誌』など、東アジアの水産関連の著書も執筆。現在は、太平洋島嶼国等を対象とした漁業支援や研修等を担当。