延縄漁をしている漁師ですが、カサゴの栽培漁業で稚魚の放流が行われていると聞き、協力したいと考えています。
カサゴは高級魚なので、高単価で取引きされていますが、個人的には資源の減少が気になっていました。
うちでも、カサゴで儲けさせてもらったので、少しでも恩返しになればと思います。
そこで、カサゴの栽培漁業はどのように行なわれているのか教えてください。また、カサゴの放流はどんな場所が適しているのでしょうか?
延縄漁をしている漁師ですが、カサゴの栽培漁業で稚魚の放流が行われていると聞き、協力したいと考えています。
カサゴは高級魚なので、高単価で取引きされていますが、個人的には資源の減少が気になっていました。
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有元操
アリ元技術士事務所 所長
カサゴの放流は80mm前後まで育成した種苗を海底近くで放流します
カサゴの栽培漁業
栽培漁業とは、卵がふ化して稚魚になるまで、自然界では育つのが難しい時期を、人の手で飼育し、海へ放流し成長した魚介類を獲る漁業のことです。
カサゴは、沿岸の藻場や岩礁域に縄張りを持ち、小エビやゴカイ、甲殻類、ハゼなどを捕食しています。
カサゴは卵胎生(体内で受精後、ふ化仔魚を産卵)で、産仔数が多く、放流後の移動・回遊範囲も狭いと推定されます。
高価で出荷でき、高い回収率も期待されたことから、古くから栽培漁業の対象種として有望視されました。
カサゴの種苗育成
カサゴの種苗生産技術の開発は、1964年に社団法人 旧瀬戸内海栽培漁業協会上浦事業場で始まりました。
種苗生産に用いられる親魚は、近海で漁獲した天然魚を用い、1月から3月の産卵期に、成熟した雌(腹の膨らんだメス)を陸上水槽に収容し、産仔させます。
全長4mm程度で体外に産出されます。
親魚1匹で3~6万尾の稚魚を産むことが可能です。
稚魚を育てる飼育水温は15℃前後です。
全長が20mm程度になるまでは水槽で育てます。
20mmを超えると飼育に必要な餌の量が増えるため、小割網生け簀に移動させます。
小割網の中で成長した稚魚は、全長30mmになるとカサゴの成魚と同じ姿や色になります。
給餌のポイントは、稚魚の空腹時間が長くならないようにすることです。
共食いの防止が理由で、日中はなるべくこまめに餌やりを行います。
カサゴの中間育成
育成したカサゴの種苗は、潮通しの良い場所にある海面小割網生け簀で飼育します。
取り上げ時は、傷つかないようにタモ網は使用せず、ホースなどを使って海水とともに小割網へ直接移動します。
潮流が強い海域では、網で稚魚を傷つけてしまう恐れがあるため、網底に大きめのおもりを吊るします。
カサゴが大きくなるにつれて、使用する網の目を徐々に大きくし、目詰まりを防ぎ、定期的に網替えをします。
栽培漁業の仕組みについてはこちらをご覧ください
「栽培漁業はどのような仕組みで行われているのですか?」
カサゴの放流
カサゴの放流方法
カサゴの稚魚は全長80mm前後まで中間育成することが理想です。
稚魚を放流する際、先住しているカサゴ等からの食害を防ぐことが理由です。
取り上げ時は、稚魚どうしで傷つけ合わないように特に注意します。
カサゴの背鰭(セビレ)には棘があり、取り上げの際に密集しすぎると種苗の目などを傷つけてしまう恐れがあります。
小割網は絞りすぎないようにし、タモ網ではなくバケツを使用して海水ごとすくうようにします。
運搬は漁船、活魚車のどちらも可能ですが、酸欠に気をつける必要があります。
酸素ボンベやブロアーを設置している施設を使用して、収容する密度は15kg/kl以下を目安にします。
カサゴは底地に生息しているため、放流の際にはホースの出口を海底付近まで降ろして種苗を放流します。
海面で放流すると、海底にたどり着く前に他の魚に食べられてしまうため、海底付近で放流することが望ましいです。
カサゴの放流地域
カサゴは、北海道南部から九州や沖縄にかけて国内の沿岸域に広く分布しています。
移動範囲が狭いことが特徴で、地先種とよばれています。
栽培対象種の中には、マダイやヒラメなど放流した稚魚が広域を移動し、放流海域と漁獲海域が異なってしまうことがあります。
しかし、カサゴは放流した4年後に放流した海域で漁獲された事例もあり、移動範囲は極めて狭く、栽培漁業に向いている魚種です。
カサゴは栽培漁業の国内主要魚種の一つで、令和元年のカサゴ種苗の放流実績は307万尾となっています(令和5年3月 栽培漁業用種苗等の生産・入手・放流実績(全国)~ 総括編~)。
放流地域は全国各地で行われており、特に山口県や長崎県で古くから行われてきました。
近年では東京湾羽田沖でも3万尾が放流されています。
放流作業についてはこちらをご覧ください
「栽培漁業の放流はどのように行われているのですか?」
カサゴの資源管理
カサゴの漁獲量を増やすために、資源管理も行われています。
宮崎県では、全長18cm以下の小型魚を再放流し、また稚魚放流区間を2年間禁漁とする措置を行なってきました。
年間30万尾の放流と資源管理の取り組みにより、資源量の増加が確認されています。
カサゴの栽培漁業を知り、栽培漁業を検討しよう
カサゴの栽培漁業は古くから行われてきました。
親魚は近海で漁獲した天然魚で、稚魚は小割網生け簀で80mm前後まで中間育成するのが理想的です。
放流の際には酸欠防止の設備を備え、稚魚が傷つけ合わないように注意しながら、海底付近に放流します。
カサゴは全国各地に生息しており、また栽培漁業も各地で取り組まれています。
地先種で栽培漁業に向いていることもあり、放流量で国内主要魚種の一つになっています。
カサゴの生態を知り、カサゴの栽培漁業を検討してみてはいかがでしょうか。
このお悩みの監修者
有元操
アリ元技術士事務所 所長
国立研究開発法人水産総合研究センター 増養殖研究所の部長や本部の研究開発コーディネーターを歴任。シマアジのウイルス性神経壊死症(VNN)が初めて発生した際に、原因解明し、対策を講じ、シマアジ種苗の生産性を回復させた。博士(農学)、技術士(水産分野)