養殖業をやっているので稚魚から育てることもありますが、栽培漁業ではどんな餌が使われているのでしょうか?
地域の資源管理をしていくのに栽培漁業は必要だと思うので、できることなら協力したいのですが、新たに餌を購入すると費用も手間もかかるので、養殖に使っている餌が使えるなら嬉しいです。
栽培漁業で使用される餌を教えてください。
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時村宗春
公益財団法人 海外漁業協力財団 技術顧問
基本的に養殖と同じですが、卵から稚魚を育てるには特別な餌が必要です
栽培漁業で稚魚に与える餌の種類
養殖業では、天然の稚魚を飼育することも多いですが、栽培漁業では、人工種苗(卵から人工的に育てた種)を中間育成して放流することが多く、人工種苗を自分達で育てる場合には、そのための特別な餌が必要です。
魚の人工種苗を作る場合には、通常「ワムシ」というプランクトンが用いられ、多くの場合は、自分たちで培養することになります。
ワムシは卵から孵化した魚や貝が最初に食べる餌で、栽培漁業においても、なくてはならない餌の一つです。
孵化した魚がすこし大きくなると、「アルテミア」と呼ばれる甲殻類を与えられることが多くなりますが、栄養価に少し課題があります。
なお、サワラなど生まれた時から魚食性が強い魚には、マダイなどの仔魚を餌用に与える等の工夫が必要です。
栽培漁業で稚貝に与える餌の種類
一方で、貝の人工種苗を作る場合、浮遊している初期の幼生には浮遊するタイプの珪藻類(浮遊珪藻)を与えます。
着底してからは、アサリなどはそのまま浮遊する珪藻類を、アワビやサザエなどは水槽の底、壁、付着版などに着く種類の珪藻類を餌として用意します。
浮遊珪藻には、その土地の珪藻類を自分たちで培養して用いるのが最善の方法ですが、無い場合には、市販の珪藻の種を購入し、自分で培養しても良いですし、直接餌を買って与える方法もあります。
ある程度大きくなったら、餌は天然の貝と同じで、例えば、アワビやサザエではアラメやカジメなど大型の海藻を与えことになりますが、放流するまでは、配合飼料を与えることもあります。
アワビの場合、配合飼料を与えると殻の色が天然物と異なる青緑色になるので、天然貝と放流貝を見分ける印にもなっています。
なお、神奈川県の栽培漁業協会では、磯焼けで思うように海藻が入手できなくなったため、代わりに地元の名産品であるキャベツを与え、サザエ、アワビ、トコブシを育てる試験を行なっています。
種苗生産で用いる餌の工夫
魚や貝を卵から育てて海へ放流する栽培漁業では、成功のカギを握るのは餌の開発だと言われています。
そのため、研究機関で盛んに研究が行われているので、給餌に関しても、栽培漁業センターや都道府県の研究機関に相談してみましょう。
魚の種苗生産ではワムシが重要な餌になるので、これを低コストで安定的に大量培養することが必要です。
また、ワムシが大きすぎて口に入らなかったり、栄養価が低かったりする場合があるので、小型のワムシを開発したり、栄養組成を改善したりすることも求められています。
このようなワムシ類に関する研究が水産研究・教育機構などで続けられています。
また、前述したアワビのように人工的に育てた魚介類には、天然の海で育ったものと見た目の違いが現れる場合があります。
とくにヒラメやカレイには無眼側(目がない白い側)に黒い模様が出ることがあります。
天然ものと味の違いはありませんが、見た目で市場価格が下がってしまうことが多いという問題があります。
その解決手段の一つとして、餌の種類や量を改善した研究が進められています(飼育密度や底質など、他の要因もまだ廃除できていないと思います)。
また、例えば高級魚として知られるスジアラの栽培漁業では、栽培の初期においては、配合飼料を人の手によって小まめに撒き、稚魚が慣れてきた段階で自動給餌器を使うような工夫をするなど、給餌回数や給餌量などの実証試験を重ねています。
さらに、サワラでは、餌として使われるカタクチイワシシラスにビタミン剤などを配合した「ねり餌」を用いるなど、栄養素の改善も図られています。
栽培漁業の仕組みや工程についてはこちらをご覧ください
「栽培漁業はどのような仕組みで行われているのですか?」
このお悩みの監修者
時村宗春
公益財団法人 海外漁業協力財団 技術顧問
元独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所長。農学博士。日本の漁業・水産関連の研究だけでなく『韓国の漁業』『東シナ海・黄海の魚類誌』など、東アジアの水産関連の著書も執筆。現在は、太平洋島嶼国等を対象とした漁業支援や研修等を担当。