これまで親から譲り受けた圃場で野菜を育ててきましたが、売上はなかなか上がりません。
このままJA出荷を続けてもジリ貧なので、ほかに経営の柱を作りたいです。
先日、耕作放棄地を借りないかという話がきたので、そこに梨園をつくって、観光農園をやってみようかと検討しています。
梨であれば、加工品を作って6次産業もできるので、期待が持てます。
果樹なので、いきなり収穫できないことは心得ていますが、まずは栽培をはじめて、ゆくゆく成長させていけたらと思います。
そこで、栽培方法のアドバイスをいただけると助かります。
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
梨は11〜3月の休眠期に定植を行い、3〜4年ほどで収穫を迎えます
梨栽培の基礎知識
梨栽培は、一般的に棚栽培を行っていますので、高さ180cmほどの鉄線を碁盤の目のように張り巡らせた棚での栽培を行う傾向にあります。
梨の木は放っておくと、どんどん高くなってしまうことから、収穫や剪定などの管理作業をしやすくするために棚を設置する事が多いです。
また、梨栽培前には、以下のような梨の種類(品種特性)を把握して、どの品種を選ぶかも重要です。
<代表的な品種>
・幸水
・豊水
・喜水
・あきづき
・二十世紀
栽培する品種の選び方
梨農家の多くは、異なる品種の梨を複数栽培している傾向です。
梨の品種の多くは、自分の花の花粉がめしべに付着しても実がならない「自家不和合性」という性質を持っています。
品種の異なる梨を同じ園地(圃場)で栽培して、受粉を促す仕組みです。
梨の中でも代表的な幸水と豊水は、お互いの花粉で受粉をするため、相性の良い品種として知られており、多くの農家が一緒に栽培をしています。
幸水と新水や、新高と豊水といった品種は相性が悪く、一緒に栽培をしたとしても実がならない可能性があるので注意しましょう。
品種ごとに適した栽培環境も考慮しつつ、相性の良い品種を選んで栽培を始めることが重要です。
梨の栽培方法
次に、梨の栽培方法を手順通りに解説します。
手順ごとの注意点も見つつ、栽培する際の参考にしてみてください。
植えつけ
梨の植え付けは、11月〜3月頃に行います(ただし、1月から2月中旬の厳寒期は避け、11~12月の秋植えか2月下旬~3月の春植えを行いましょう)。
梨は日当たりの良い場所でないと良く育たないので、日光の良くあたる環境に植え付けを行いましょう。
また、植え付ける際には、成長後を想定した間隔を開ける必要があります。
植え付ける品種によっても異なりますが、植栽間隔は樹間3.5m×列間3.5mが目安です。
ただし、最終の植栽間隔は樹間7m×列間7mとなります。
10aあたり約80本(最終は20本)の植え付けができますが、間隔が狭いと成長後に梨の木の枝どおしがぶつかってしまい、お互いの成長を邪魔してしまう可能性があるので注意が必要です。
植えつけ直後は、水をたっぷり与えておきましょう。
植え付けから7~10年後を目安に間伐(間の樹を切ること)を行いましょう。
栽培適地や苗木から育てる方法についてはこちらをご覧ください
「うちでも育てられますか?梨栽培の適地を教えてください」
「梨を苗木から育てる場合、どのように栽培すれば良いですか?」
剪定
植えつけ後2年ほど経過して成長した梨の木は、剪定という作業を行っていきます。
剪定とは、枝を切って形を整えたり、木のバランスを整えたりする作業です。
梨の場合は、12月から2月下旬に剪定を行います。
枝が混み合っている部分や、成長して伸びすぎた枝を切ってあげましょう。
また、切り口から病気の原因となる菌が入る可能性もあるので、剪定後は保護剤の塗布を行うことも重要です。
植えつけ後1~2年ほどで実が成る場合もありますが、栽培初期にできた実は取り除いておきましょう。
早く実をつけると、その後の樹の生育が緩慢になります。
受粉
梨は主に虫によって受粉しますが、栽培環境の影響でうまく受粉しない場合もあります。
そのため、人工受粉を行って確実に受粉をさせる方法を取る農家も多いです。
雄しべの先にある葯(やく)という花粉の袋が開いたタイミングで花粉を集めましょう。
ただし、一般的には花が開く前の花を集めて、その後、専用の機器を用いて花粉を採取します。
したがって、新規で梨栽培を始められる方々は、難しいかもしれません。
上記のようにして集めた花粉を、別の品種の花のめしべの先にある柱頭につけて受粉します。
適当な温度があると受粉しやすく、4月初旬から中旬が適期です。
日中の気温が15℃以上の晴れの日に行いましょう。
摘果
梨の実が成り始めた頃には、摘果という作業が必要になります。
摘果は、果実と果実の間隔を開けて、養分の奪い合いを避けるために間引く作業で、早ければ早いほど良いですが、あまりに早いときちんと受粉していない果実が落ちることもあるので受粉して10~14日後頃から始めると良いでしょう。
健全な花芽(花そう;花のかたまり)に結実した3~5番目にできた果実の中から、傷の無い形の良い果実を残して、残りは取り除くようにしましょう。
摘果は数回にわけて行いますので、1回で完全に果実を落とす必要はありません。
降雹のある地域などでは、雹により果実が被害を受けることがあるために、一度に不要な果実を全て落とすことで、充分な収穫ができない可能性もあります。
1回目の摘果が完了して、10~20日ほど期間を開けて、実がピンポン玉くらいに成長した頃に2回目の摘果を行いましょう。
袋掛け
2回目の摘果が終わったタイミングで、すぐに袋掛けという作業を行います。
梨の実1個1個に袋をかける作業で、病害虫の被害の防止や実の品質向上に繋がります。
袋掛けの際は、袋の中に虫が入らないように注意しましょう。
また、袋の口をしっかり閉じて、雨が侵入しないようにしてください。
5~6月にかけて全ての梨に袋をかけるといった重労働ですが、袋をかけない無袋栽培も可能です。
しかし、袋がけを行わない場合には、病気にかかるリスクも高まるため、農薬の使用回数が増加する可能性もあります。
接ぎ木
梨栽培では、接ぎ木という方法で梨の木を増やす事ができます。
接ぎ木とは、土台となる台木に、異なる品種の梨の木の枝(穂木)を繋げる作業です。
3〜4月が適期とされています。
1、台木を地際から5~10cm程度で切る。
2、台木に切り込みを入れる
3、異なる品種の枝の皮を削って切り込みに差し込む
4、その際、台木と穂木の形成層(黄緑色の部分)どおしをくっつける。
5、接ぎ木用のテープで固定する
6、袋を被せて直射日光を遮る
接ぎ木をして増やした苗木は、3~5年ほどで収穫ができるようになります。
接ぎ木の詳しいやり方はこちらをご覧ください
「梨の木を新品種に更新したい。接ぎ木するにはどの方法がいい?」
梨の栽培管理
梨栽培時の水やりは、雨で対応可能なので、基本的には自身で行う必要はありません。
しかし、夏場の高温時など雨量が少ない場合や、しばらく雨予報がない場合は、土の状態を見て自身の手で水を与えると良いです。
栽培時に与える肥料は、有機質肥料か速効性化成肥料を使用します。
5月(または6月)、9月 11~12月の3回に分けて肥料をまき、過不足にならないようにしましょう。
梨の収穫時期
梨の収穫時期は、品種や栽培する地域などで若干の違いがあります。
品種ごとで見ると、以下の収穫時期が目安です。
品種
収穫時期
幸水
8月中下旬
豊水
9月上中旬
二十世紀
9月
喜水
7月下旬~8月上旬
あきづき
9月中下旬
梨は、実が大きくなり成熟し、収穫時期を迎えると、果実を支える軸が外れやすくなります。
果実が落下する前に、収穫を行いましょう。
収穫の際は、果実を軽く持ち上げると簡単に収穫できます。
無理に引っ張って収穫すると、新芽が傷ついてしまい、翌年の収量に影響する可能性もあるので注意しましょう。
どの品種でも共通して、苗木の定植から3~4年で収穫期を迎えます。
その他の品種についてはこちらをご覧ください
「梨の品種「王秋」の栽培のポイントを教えて」
梨の栽培時に注意すべき病害
梨栽培では、栽培期間中に菌や虫によって病害を引き起こす場合もあります。
以下のような病害に注意して栽培を行いましょう。
病害虫
症状・特徴
黒星病(病害)
葉や果実に黒い斑点が現れる。放置すると、果実や葉が落ちる。果実が小さい時に感染すると、徐々に果実が大きくなるにつれて果実が奇形になったり割れたりする
赤星病(病害)
主に葉に発生する。橙黄色の鮮やかな小斑点が現われる。小さい果実にも現れることがある。西洋梨では、赤星病に抵抗性を示すものが多く、ほとんど発生しない
アブラムシ類、カイガラムシ類、カメムシなど(害虫)
樹液、葉、果実を吸汁して、樹勢低下の原因になる
対策方法
病害や病害虫は、殺菌剤や殺虫剤などの薬剤での防除が一般的です。
黒星病には、以下のような農薬が登録されています。
農薬名
使用時期
使用回数
ダコニール1000
収穫45日前まで
3回以内
カスミンボルドー
収穫後(10月~11月)
2回以内
ベルクート水和剤
収穫14日前まで
5回以内
石灰硫黄合剤
発芽前
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黒星病の対策方法についてはこちらもご覧ください
「梨の黒星病の症状や対策方法について調べています」
「梨の黒星病を防ぐ土壌改良方法を教えてください」
また、赤星病には以下のような農薬が登録されています。
農薬名
使用時期
使用回数
オーソサイド水和剤80
収穫3日前まで
9回以内
エムダイファー水和剤
収穫45日前まで
3回以内
カナメフロアブル
収穫前日まで
3回以内
赤星病やそれ以外の病害への対策についてはこちらもご覧ください
「梨の赤星病を初期段階で防止するには、どう対策すればいい?」
「梨が胴枯病に。どう見極めてどう防ぐ?症状や対策を教えて」
「梨を栽培していますが「白紋羽病」「萎縮病」が発生しました。対策方法を教えてください」
黒星病と赤星病の両方で登録されている農薬も多いですが、片方の病害にしか登録されていないものもあります。
害虫の防除では、以下のような農薬が有効です。
農薬名
使用時期
使用回数
サンマイト水和剤
収穫21日前まで
1回
アディオンフロアブル
収穫前日まで
2回以内
日農マラソン乳剤
収穫14日前まで
5回以内
梨栽培時の使用として登録されている農薬を、適切な散布量で使用しましょう。
また、農薬の散布後に雨が降り、流されることで、効果が弱まる可能性があるので、晴天時や雨予報のない時期を狙って散布すると良いでしょう。
耕種的防除も重要
梨を栽培する際は、薬剤での防除に加えて耕種的防除(栽培管理の工夫によって病害虫の防除と拡大を防ぐ方法)を行うことも大事です。
風通しが悪く湿気の多い環境では、病害が発生しやすくなります。
剪定を充分に行って風通しを良くしたうえで、日当たりの良い環境での栽培を心がけてください。
また、雑草は害虫のすみかになる場合があるので、除草を徹底しておきましょう。
梨に病斑が見られたら、病気の感染拡大を防ぐためにすぐ取り除いてほ場(園地)外で処分することも重要となります。
梨の栽培で発生しやすい問題
梨の栽培では、以下のような問題が発生しやすいです。
・梨の花が咲かない
・梨の実がならない
・梨の実が小さい
花が咲かない場合は、肥料の与えすぎや剪定のしすぎで発生するケースが多いです。
肥料を与えすぎると、梨の樹の枝葉ばかりが茂って、花が咲きにくくなってしまいます。
土の状態が良い(梨の樹の葉の緑色が濃く、枝葉が生い茂っている)場合は肥料を与えずにしばらく様子をみても良いでしょう。
また、最近では地球温暖化現象により、冬場の寒さが足りず、花が咲きにくくなってきています。
梨の実がならない場合は、日当たりの悪さが原因になっている可能性があります。日当たり条件や環境を考慮したうえでの剪定を行うと良いです。
実が大きくならない場合は、摘果が不充分であるケースが多いです。
実が多くなると、栄養が梨の実全体に行きわたらなくなることもあるので、充分な摘果を行いましょう。
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。