高齢の祖父から梨園を引き継いで、最近、新規就農しました。
祖父の梨園では、2~3本の主枝と亜主枝を四方に広げて棚にする、昔ながらの仕立て方で育てていますが、作業効率が悪い気がします。
最近はいろんな仕立て方があると聞いてます。
特に、「樹体ジョイント型」という仕立て方がさまざまな産地で広がっているようですが、私の地域でもこの方法を取り入れる農園が増えていると聞いています。
ほかにも主枝を4本出して、主枝から同じ方向に結果枝を出すやり方などもあるようです。
作業の効率性を考えた場合、どのような仕立て方がよいのでしょうか?
(岡山県・松田一哉さん/仮名・30代)
橋本哲弥
橋本梨園
主枝が平行になる樹形が良いが、自然な状態から剪定するのは樹に負担がかかります
農業・園芸専門のライターをしながら、千葉県白井市で橋本梨園を経営しています。
近年は、どの業界においても合理化や生産性の向上が課題として挙げられています。
ナシの栽培でも然りで、「ジョイント型」「二本主枝一文字型」「H型」などといった省力化樹形の導入が進んでおり、国も補助金を用意して推進しています。
このほかにも、さまざまな省力化樹形がありますが、共通して言えることはすべて「並行整枝」、つまり主枝や亜主枝といった骨格枝が平行に配置されています。
園内で骨格枝がすべて同じ方向に向いていれば、果実をつける結果枝も同じ方向に向いているため、作業動線が一定方向のみになります。
従来の3~4本主枝(自然系整枝)の場合、さまざまな方向から結果枝を配置する必要がありました。
並行整枝ではそのような複雑に入り組んだ、パズルのような整枝剪定から開放されます。
樹形がシンプルになれば、考える時間が減って作業が早くなります。
季節雇用のパートさんたちの作業もスピーディーになり、見落としが減ることで授粉や摘果の抜け漏れを抑えることもできます。
ただし、質問者さんのように既存の樹、いわゆる自然系整枝から並行整枝に変更する場合は注意が必要です。
まだ若い樹の場合、骨格が未完成なので、ある程度の矯正は可能ですが、既に樹形が完成している成木~老木の場合だと樹体に大きな負荷がかかります。
今ある太い主枝や亜主枝を無理に間引いてしまうことで、地上部と地下部のバランスが崩れて、最悪の場合、その樹が枯死してしまいます。
ある程度の樹齢を重ねてきた樹を改造する場合は、段階的に行なっていく必要がありますが、勘所が難しいため、初心者にはオススメできません。
地域の普及員や営農指導員などのアドバイスを仰いでから実行に移してください。
中長期的な目線で考えて、改植が可能ならば、自然系の既存樹を構っているよりも、ある程度まとまったエリアを一挙に植え替えてしまう、面的な改植(ブロック改植)をオススメします。
具合が悪かったり、枯れたりした樹を適宜植え替える点的な改植(漸次縮伐改植)では、どうしても既存樹の樹形とのバランスを考えねばならず、本来の並行整枝のメリットを享受できません。
いろいろな樹形が混在することで、逆に生産性を落とすことにもなりかねません。
改植時の未収穫期間の損失を補う事業(果樹農業生産力増強総合対策)もあります。
未収穫期間の収入を補償してもらいながら、将来的な理想の形を目指す、部分最適化ではなく全体最適化を図ることがベターだと思います。
各種樹形や抜根についてはリンク先をご参照ください。
千葉県「ニホンナシ2本主枝一文字整枝 互の目植え栽培の手引き」
農研機構「ニホンナシをはじめとした省力樹形による果樹の省力生産技術」
最後に、過去に寄せられた相談「梨の老木化を遅らせて、収量の減少を抑える栽培方法が知りたいです!」をご紹介しますので、こちらも合わせて参考にしてください。