長野県で100年ほど続いている果樹園の4代目です。農地の広さは1ヘクタールほどで、夏場は桃や梨が中心、秋はりんごをメインに育てています。
一旦は就職してサラリーマンをやっていたのですが、大自然の中で仕事をする素晴らしさに気づき、家を継ぐことにしました。
学校を卒業してすぐに農業を継がなかったのは、昔ながらのやり方に父が固執していたからです。
しかし最近は性格も丸くなり、新しいことを取り入れることにも反対されないようになりました。
最近では、父からいろいろと相談を受けるようになりました。最近は梨の人工授粉をなんとか簡単にする方法を見つけてほしいと言われています。
うちは梨の取り扱いがもっとも多く、60アールほどの農地で幸水、20世紀、豊水、南水などを育てています。
いままではアルバイトさんを雇って人工受粉をこなしてきましたが、かなり大変な作業です。使う花粉の量もかなりなものです。
なんとかして少しでも省力化したいです。いい方法やアイデアを教えてほしいです。
(長野県・中島さん/仮名・30代)
橋本哲弥
橋本梨園
トレードオフの観点で求める優先順位を決定し、作業内容を決めましょう
授粉作業は園主が「何を第一に求めるか」で選択肢は大きく変わってきます。そのためにはトレードオフという観点を持った方がいいと思います。
要は「どれにも良いところもあれば悪いところもある」ということです。では、いくつかの目的に合わせた具体的な方法をご紹介します。
単純に省力化したいのであれば、媒介昆虫の導入をおすすめします。ミツバチ、マルハナバチなどの媒介昆虫を導入し、人工授粉は行わないという方法です。
6反の面積ならば十分にカバーできるはずですし、圃場の分散程度にもよりますが1~3群あれば大丈夫でしょう。
授粉作業がなくなることで摘蕾や摘花などに注力でき、花粉を準備する手間や購入するコストも削減できます。
しかし、まんべんなくは着果するものの、人工授粉に比べると狙ったところに着果しなかったり、生育の揃いや果形が悪くなったりします。
省力化に加えて、着果率も求めるのならば、花粉をまとった毛ばたきで側枝を撫でて授粉させる機具を使うのがいいでしょう。
こちらは授粉作業が比較的スピーディーになり作業効率が高まります。梵天に比べて人が要らず、花粉も花にまんべんなくつくため、媒介昆虫に比べて果形も良くなります。
しかし、梵天に比べて使用する花粉量は2~3倍必要になります。人件費は最低限に抑えられますが、機具の代金含め、花粉関係のコストは増大します。
撫でた側枝の花のほとんどが着果してしまうため、摘果にかかる人件費も増えてしまいます。花芽整理や摘蕾を徹底する必要があります。
さらにスピードを求めるなら、スピードスプレーヤー(SS)で花粉を散布するという方法があります。
花粉を溶かした溶液を散布したり、ファンに専用の噴射機を取り付けて希釈した純花粉を直接散布したりする方法です。
一人で作業が可能で、雨後に花弁が濡れていても授粉がおこなえるのが最大のメリットです。抜けや漏れも起こりませんが、一方で大量に無駄な花粉を使うこととなり、着果数も増えてしまいます。
さらにSSが故障するリスクも考えなければいけません。まだ身近なところで実例が少ないのも不安材料です。
冒頭でも申し上げましたが、トレードオフの観点が大切です。人件費を減らしたいのか、花粉代を減らしたいのか、短時間で作業を終わらせたいのか、着果数がほしいのか、キレイな果形を求めるのか……。
「これが絶対いい!」とは軽々に申し上げられません。最後に判断するのは園主です。ご自身の優先順位を明確にしてください。
また、すぐにひとつの方法に絞り込むのではなく、いくつかの方法を組み合わせてみるのもいいでしょう。ちなみに全国的には媒介昆虫を入れて、梵天で手授粉もするというのが一番多い選択肢のようです。