定年を数年後に控え、高齢の親から果樹園(桃、ぶどう、梨)の経営を引き継ぐために、作業を手伝いながら勉強中です。
このうち梨園は20アールほどで、面積としてはあまり広くありませんが、品種は豊水と南水を半々くらい栽培しています。
これら2種類の梨は収穫が9月から10月にかけて行っていますが、ぶどうと収穫時期が重なるので、一部を「豊水」の木(樹齢は約40年ほど)を台木にして、晩生種の「新高」か「甘太」を接ぎ木したいと考えています。
接ぎ木の方法には芽接ぎや枝接ぎ(切り接ぎ)があり、接続部の切り方にもいくつかあるようですが、初心者でもやりやすく、確実に接ぎ木ができて、成功率が高い方法を教えてください。
(山梨県・堀内一茂さん/仮名・50代)
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
梨の成木の枝に品種更新したい穂木を接ぎ木する「高接ぎ」がおすすめです
果樹を繁殖させる場合に、一般的な接ぎ木としては「枝接ぎ」と「芽接ぎ」に分けられます。
枝接ぎにはいろいろなやり方がありますが、切り接ぎが主流となっています。一方、芽接ぎは「T字芽接ぎ」と「そぎ芽接ぎ」に分けることができます。
ご相談の内容は豊水の成木を更新されたいとのことですが、その場合は現在の成木の枝に品種更新したい穂木を接ぎ木(高接ぎ)することになります。
この方法を「高接ぎ更新」といいますが、苗木から育てるよりも早く結実して樹の大きさも早く元に戻ります。
ただし、すべての枝に接ぎ木していくことになるため、品種更新する品種の穂木がたくさん必要となります。
①の写真は若木を品種更新した接ぎ木後の樹の様子です。まだ若木であるため、主枝単位で接ぎ木していますが、ご相談者さんの樹は40年生ですから、もっと高い位置で多くの枝に接ぎ木をしていくことになります。
接ぎ木後は、枝の切り口や太い枝の表面は、葉がない裸の状態になり、陰がなくなるために日焼けします。
したがって、切断した木部の陽光面(太陽の当たる部分)にホワイトンパウダーなどをモップや洗車ブラシで塗布して日焼け防止に努めましょう。
なお、太い枝の場合は、1ケ所に2本ほど接ぎ木された方がよいかと思います。その際に、太い枝をどうしても横向きで切らざるを得ない場合は、②の写真のように枝の上側に穂木を接ぎ木して下さい。
もし下側に接ぎ木した場合、接ぎ木が活着して新梢が伸長してくると、その重みで接ぎ木部が剥がれ落ちる可能性があります。
今回のご相談で気になるのは、樹齢が40年生という老木であることです。ナシの場合、一般的に25~30年で収量がピークになり、その後は徐々に収量が減少していきます。
したがって、今回この方法で接ぎ木を行って成功し、活着したとしても、今までのように収量はとれないと思われます。そのため、高接ぎと並行して新しい苗木も定植され、数年後のために準備されることをおすすめします。
最後に、接ぎ木を行う際の注意点ですが、露地栽培の場合には接ぎ木を行う前後の数日間は雨が降らないことが望ましいでしょう。雨が多いと、接ぎ木後に樹が根から水を吸い上げるので、接ぎ木部に水がたまってしまい、腐敗の原因になります。
ポット栽培で苗木を育てている場合も同様に、接ぎ木前後の水やりは控えましょう。
接ぎ木の方法については以下の通りです(写真はマンゴーの例)。
①台木は地表5cm程度の高さで切る。
②穂木は枝の中央部の充実した部分を使う。
③穂木には1~2芽つけ、基部の3cm程度を接ぎ木ナイフで表面を削るようにそいで、形成層が見えるようにする。
④削った反対側は1 cm程度、45度くらいの急な角度で斜めに切る。
⑤穂木の形成層の幅と同じ幅になるように、台木の部分を接ぎ木ナイフでまっすぐ下に切る。
⑥⑤で切れ込みを入れた台木の部分に、台木と穂木の形成層をあわせて穂木をさし込む。
⑦台木と穂木を接ぎ木テープ(下記写真参照)でしっかり固定する。
⑧接ぎ木用の伸長性のあるテープ(メデールまたはパラフィルム)を伸ばしながら接ぎ木部分をしっかり縛り、穂木全体を覆う。
⑨接ぎ木部分をテープなどで固定した後は、茶封筒などを被せて直射日光を遮る。
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