特定技能1号外国人の受け入れを考えている農家です。
これまで技能実習生を受け入れてきましたが、最近、技能実習生が廃止になるかもしれないというニュースを見て、特定技能に切り替えようかと悩んでいます。
しかし、建設業者の親戚に相談したところ、特定技能1号は正社員かフルタイムでしか雇用できないと言われました。
農業は、冬の間はオフシーズンとなるので、できれば期間を限定した形で受け入れたいです。
派遣で特定技能の外国人を受け入れることができるという話も聞いたことがあるのですが、特定技能1号の派遣雇用は可能でしょうか?
堀口健治
早稲田大学名誉教授
特定技能1号の派遣雇用は、農業・漁業分野でのみ可能です
特定技能1号とは
「特定技能」とは、日本の深刻な人手不足を解消するために設けられた在留資格の一種で、技能試験と日本語試験に合格すれば1号資格を取得することができます。在留期間は1年〜最長5年までです。
よく似た在留資格に「技能実習」がありますが、制度の目的と従事できる職種が異なります。
まず「特定技能」は日本で人材不足に陥っている職種の労力確保が目的ですが、「技能実習」の目的は開発途上国出身者に日本の高い技術を習得してもらい、母国で広めて活用してもらうことを目的としています。
その他、受け入れ可能人数や転職の可否などの違いもあり、雇用する側は目的や環境に応じた適切な制度を利用しなければなりません。
特定技能と技能実習の違いについては、こちらをご覧ください
「特定技能制度と技能実習制度の違いを教えてください」
農業・漁業分野での特定技能1号は派遣雇用が可能
特定技能1号は原則、週5日30時間以上の勤務が可能なフルタイムもしくは正社員雇用のみとなっています。
ただし、農業分野または漁業分野に限り、派遣での雇用が認められています。
理由は、農業・漁業には季節や地域によって繁忙期と閑散期があるためです。
また、たとえ同地区であっても事業所ごとに人手が必要となるピーク期間が異なるため、農業・漁業分野においては労働力に融通を効かせられるようになっています。
特定技能1号を派遣雇用するための条件
特定技能1号を派遣雇用する場合、派遣先と派遣元のいずれも所定の要件を満たす必要があります。派遣先である受け入れ機関(所属機関)の要件は以下の4つです。
1、労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守していること。
2、過去1年以内に、特定技能外国人が従事することとされている業務と同種の業務に従事していた労働者を離職させていないこと。
3、過去1年以内に、当該機関の責めに帰すべき事由により行方不明の外国人を発生させていないこと。
4、刑罰法令違反による罰則を受けていないことなどの欠格事由に該当しないこと。
※引用参考元:外国人材の受入れ制度に係るQ&A
また、特定技能制度では特定技能外国人の受け入れ機関(所属機関)は、「各分野の特定技能協議会」への入会が必須ですが、派遣雇用の場合は特定技能外国人と直接雇用契約を結ぶ派遣元の企業が入会する必要があります。
労働保険や受け入れ機関についてはこちらをご覧ください
「特定技能制度を使って外国人を受け入れたいが、労働保険の加入が必要になるの?」
「特定技能人材の受け入れには外国人支援が義務になっていますが、注意点はありますか?」
特定技能1号の雇用形態ごとのメリット・デメリット
特定技能1号を派遣雇用と正社員雇用のどちらで雇用すべきなのか、それぞれのメリット・デメリットを確認しておきましょう。
特定技能1号を正社員雇用するメリット・デメリット
派遣雇用の場合、独自の作業方法や手順をその都度説明する必要がありますが、正社員雇用の場合は長く従事することで作業を覚えてもらえるため、その労力が少なくて済みます。
外国人労働者の雇用でどうしても課題となるコミュニケーション問題も、長く従事してもらうことで派遣雇用よりもお互いを理解する時間が短くなるでしょう。
また、従事できる作業が一つに限られている技能実習とは異なり、特定技能は作業の自由度が高いです。
手が空いたら他の業務をお願いすることができるため、閑散期でも暇を持て余す心配はないでしょう。
あえてデメリットを挙げるとするならば、派遣雇用よりも人件費がかかる点です。
派遣と正社員では単純に雇用期間が異なるため、作業量とコストのバランスを考慮した雇用を検討する必要があります。
受け入れるための方法や書類はこちらをご覧ください
「特定技能外国人を受け入れたい!雇用するのに必要な書類は?」
「特定技能制度の雇用契約と労働条件とは?」
「特定技能制度の外国人材は漁業分野でも受け入れられる?」
「農業分野で特定技能を取得するためには、どんな試験があるのですか?」
特定技能1号を派遣雇用するメリット・デメリット
前述の通り、農業・漁業分野では年間を通して繫忙期・閑散期があり、時期によって必要な人手が異なります。
派遣雇用なら必要な時期にのみ必要な人材を雇用することができるため、人件費を調整できるのが最大のメリットです。
例えば、繁忙期は収穫や出荷作業で通常よりも作業量が多くなりますが、特定技能制度では労働基準法に則った雇用形態が求められているため、時間外の作業は不可です。
しかし、派遣雇用であれば、そのような場合も受け入れ人数を増やすことで労働基準法に問題なく対処することができるのです。
さらに、派遣雇用なら特定技能外国人とミスマッチがあった場合も一定期間で契約を解除することができ、受け入れ側のリスクを抑えられるでしょう。
一方、特定技能外国人と雇用契約を直接結ぶのは派遣元になるため、煩雑な事務作業の手間が減るというメリットがある反面、派遣元への手数料が必要になるのがデメリットと言えます。
このお悩みの監修者
堀口健治
早稲田大学名誉教授
専門は経済学(農業経済学・農業政策)。2002年から2004年まで日本農業経済学会会長を務め、2015年から2022年まで日本農業経営大学校校長。山形県高畠町の屋代村塾および同県寒河江市の葉山村塾の塾長も務めた。