近くのみかん農家さんが廃業するとのことで、農地を貸してもらうことにしました。
農地にはまだみかんの木が植えたままになっているので、そのまま育てようと考えていますが、実はみかんの栽培をした経験がありません。
品種は「せとか」だそうで、以前は道の駅に出荷して売れ行きもよかったと聞きました。
ゆくゆくは収穫して、売上もあげていきたいので、栽培するうえでの注意点を教えていただけないでしょうか。
近くのみかん農家さんが廃業するとのことで、農地を貸してもらうことにしました。
農地にはまだみかんの木が植えたままになっているので、そのまま育てようと考えていますが、実はみかんの栽培をした経験がありません。
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前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
みかんの品種「せとか」は、肥培管理による樹勢維持を徹底し、低温障害に注意しながら栽培します
せとかの栽培のコツ
せとかは、育成系統「清見×アンコールNo. 2(母親)」に「マーコット(父親:花粉親)」を交雑した品種です。
やや樹勢が弱いために、適正着果(あまり果実を結実させ過ぎない)を心がけ、肥培管理を徹底することが重要です。
せとかの若木にはトゲが多いため、剪定時や収穫時の作業が難しいことが特徴です。
ただし、樹齢を重ねるごとにとげは短く少なくなっていく傾向がみられます。
特に接ぎ木をした後、1~2年のうちに発生する大きなトゲの除去は、徹底した方が良いでしょう。
病害の予防について
みかん栽培では、そうか病やかいよう病、黒点病などの病害に注意する必要があります。
せとかはそうか病、かいよう病に抵抗性があります。
しかし、黒点病や灰色かび病の発生リスクは高いので注意しましょう。
黒点病は、枯れ枝から伝染するので、日当たり良好な場所を選び、樹体環境を良好にすることが重要です。
また、剪定により枯れ枝は徹底的に除去し、圃外に持ち出すことも重要です。
せとかの栽培方法
せとかの栽培は、他の品種に比べて栽培時の手間が多い品種です。
せとか独自で注意すべきポイントも含めて、栽培方法を見ていきます。
苗木の定植
定植は 3 月中旬~ 4月中旬頃に行うのが一般的です。
定植後の1年生苗は、地上部の接ぎ木部より30~40㎝上部、2年生以上の大苗は枝が充実した位置での切り返し(枝の先端部を切り落とす作業)を行いましょう。
せとかの1年生苗には、弱い枝が増えやすく、早期に結実しやすいです。
このような状況では、苗木が大きく育たない場合があります。
したがって、十分に樹を大きくした後に、結実させる方が良いでしょう(通常は4年目から結実させる)。
苗木を定植する際は、地上部の接ぎ木部から30~40 cm上部で切り返しを行わないと、弱い枝が伸びて、大きな樹に生長しません。
したがって、定植時の切り返し剪定は重要な作業です。
若木の管理
せとかは新梢の発生数が多い品種です。
新梢の発生により、樹の生育が緩やかになる場合があります。
そのため、苗木を定植した後は接ぎ木部分から上10~15cmにあるすべての枝を取り除きましょう。
その上部は1節1本で5~6本残して、他は芽かきをしましょう。
その後、夏~秋に出た枝(夏・秋梢)は、先端近くから出た枝(枝分かれした分岐部)を常に一つだけ残しておき、他は放任で葉数を確保しましょう。
あまり枝分かれ(分岐)させないようにします。
先端部の夏梢または秋梢は、常に1本にして葉12~15枚ほどで摘芯(芽かき)しましょう。
植え付け 2 年目の主枝(樹の骨格となる枝)の先端は、良く充実した夏梢の先端1/2から1/3まで切り返します。
植えつけ後、2~3年で結実する場合もありますが、若木での結実は樹の成長速度を遅くさせるので、3年目までは結実させないように、開花しても摘蕾(蕾を落とす)・摘花(花を落とす)し、結実した場合には摘果する(果実を落とす)ことが重要です。
肥培管理
せとかの樹勢は、弱い上に成熟期が年明けと遅いため、肥培管理により樹勢維持の徹底が重要です。
せとかは、樹勢が弱いので肥料を多く施用しようとしますが、定植後に施肥量が多すぎると細根を枯死させる可能性があります。
施肥量は温州ミカンなどの品種に比べては約20%多めに与えるのが一般的です。
また、温州みかんなどは、夏から秋にかけて土壌を乾燥させて糖度を上げる場合がありますが、せとかの場合は、その時期に乾燥させると細根が少なくなって、樹が弱る恐れがあります。
栽培に適した肥料やphについてはこちらをご覧ください
「みかん栽培時に行う肥料の施用法を知りたい」
「みかん栽培をやることになりましたが、土壌管理はどうすべき?」
せとかの剪定について
せとかは、新梢の発生が多いことから、他の品種に比べて剪定する枝の数が多いです。
1本の主枝(樹の骨格)に対して、2本の亜主枝(主な枝から水平からやや上向きに発生している枝)を交互に2段程度配置しましょう。
若木の剪定時には、着花が少なくなるように、花芽のついた枝は切り落とすことが一般的です。
せとかの栽培に適した環境
せとかは、収穫期が3月頃であることから、冬の最低気温がマイナス3℃以下にまで下がる環境での栽培が困難です。
低温障害を受けやすく、年平均気温が 16.5℃以上と年間を通じて温暖な地域で栽培されています。
温度要求量は、「アンコール」や「マーコット」と比べてそこまで高くないですが、低温には弱いので注意してください。
マイナス3℃以下に2時間以上さらされると、果実の凍結によりす上がりの発生がみられ、果皮がやや軟化したり、葉が巻く恐れがあります。
そのため、商品性の高い果実を生産する場合は、露地ではなくハウス栽培が望ましいです。
また、土壌の条件は排水が良好で、有機質の多い肥沃な土壌で、保水性のある園地が適しています。
みかん栽培の北限や栽培適地についてはこちらをご覧ください
「みかんの栽培地の北限はどこ?」
「みかん栽培の適地って?どんな場所だと適しているの?」
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。