水産会社に勤めていて、ブリ養殖を行っている漁師です。
うちの会社では、今後ブリ以外の魚種の養殖も行っていこうと検討しているところで、私もどんな魚を養殖すれば採算が取れるのか、調べています。
また、養殖施設も確保しなければいけないので、うちの海域で育てられる魚種なのか、施設を整備するのにどれくらいのコストがかかるのかなど、いろいろと調査しています。
個人的にいま気になっているのはマグロで、日本だけでなく海外の需要もあるので、制限はありますが、もし養殖できれば、採算が取れるのではないかと考えています。
しかし、一番大きな問題は養殖する場所です。果たしてうちの海域で養殖できるのでしょうか?
マグロ養殖にはどのような場所が適しているのか、教えていただきたいです。
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
マグロ養殖は適切な水温を管理できる場所で行います
養殖マグロに適している場所の条件
日本で養殖されているマグロは、クロマグロやミナミマグロなどで、自然界に生息しているヨコワ(マグロの幼魚)を引き縄や巻き網で漁獲し、2~3年かけて成魚(30~50キロ)まで飼育するのが一般的です。
養殖に適している場所は、
・水温10度以上(安定した飼育のためには最低13度以上)
・水深30~50m
・大きな河川からの流入がない
・波浪5メートル以下(北西の季節風を受けない)
・溶存酸素が充分で塩分濃度の安定した外洋に面している海域
・直径20~30m、40m~80m角の生簀
が条件となっています。
その他にも、種苗(ヨコワ)や生餌が周辺海域で確保できるか、地元の漁協と信頼関係を保てているかなど、条件は多岐に渡ります。
さらに、完全養殖(人工種苗)の場合には、採卵や孵化、初期飼育のために陸上養殖の設備が必要となります。
マグロは他の魚と比べてデリケートな魚です。少しの環境変化でも敏感に反応し、暴れてしまいます。
暴れ回ったマグロは体温が上がり、乳酸が分泌されるため味が落ちてしまいます。飼育管理を徹底しながら、マグロにストレスを与えないように注意しましょう。
マグロ養殖に適した環境についてはこちらもご覧ください
「マグロ養殖に適した環境を教えてください」
マグロの養殖を実施している地域
日本国内では鹿児島県、長崎県、大分県、和歌山県、三重県、愛媛県、高知県などでマグロ養殖が行われています。
天然種苗を使用する場合、大きく分けて種苗の採捕、中間魚育成、成魚育成に分業されており、地元の漁業者が種苗の採捕を行い、協業体や水産会社が中間魚育成や成魚育成を行っています。
そのため、地元の漁業者と密接に連携を取る必要があります。
多くの場合、天然種苗が採取できる海域でマグロ養殖は行われていますが、海水温が高い沖縄県や、鹿児島県の奄美大島では、中間魚を他県から搬入して、成魚まで飼育しています。
また、人工種苗を使用する完全養殖では、親魚の育成から採卵、養殖までひとつの業態で実施している場合が多く、奄美大島南部や和歌山県串本町などで行われています。
養殖マグロの主な産地と特徴についてはこちらをご覧ください
「養殖マグロの生産量が多い産地を教えてください」
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。