これまで技能実習生を受け入れて農作業を手伝ってもらっていましたが、特定技能1号という制度があることを知り、今年から切り替えようかと検討している農業経営者です。
特定技能1号では日本語や専門知識がある人材を受け入れられると聞き、さらに長期間働いてくれるので、活用してみたいと思っています。
しかし、技能実習生と違い、特定技能1号の外国人は転職できるらしいという話を聞きました。
もし転職できるのであれば、せっかく受け入れても、すぐに転職されてしまうかもしれません。
でも反対に、他の農家で働いている人材を引っ張ってくることも可能なのではとも思います。
実際のところ、特定技能1号は転職できるのでしょうか?
堀口健治
早稲田大学名誉教授
特定技能1号でも転職は可能です!ただし、手続きに手間や時間がかかるので注意しましょう
特定技能1号は転職可能
特定技能1号は、技能実習生と違い転職することができます。
しかし、手続きが多く新たに試験を課せられる場合もあり、特定技能1号の転職は簡単にはできません。
また、新旧の受け入れ先の企業が行わなければならない手続きもあるため、周りの協力も不可欠です。
特定技能1号を取得した人材の転職は、手続きや書類が多く、申請から承認までに時間がかかるので、日本人が転職をするようにスムーズな転職活動ができないことも多いと覚えておきましょう。
農業・漁業分野における「特定技能」と「技能実習」の違いはこちらをご覧ください
「特定技能制度と技能実習制度の違いを教えてください」
「在留資格の一つである特定技能1号について詳しく教えて」
特定技能1号の人材が転職するための手続き
特定技能1号取得者がすべきこと
特定技能1号の取得者が転職の際にすべきことは、所属機関に関する届出と在留資格変更許可申請をすることです。
所属機関に関する届出は、会社を退社したり新しい会社に入社したりする場合に提出します。それぞれの提出期限は14日以内と定められているので、期限に遅れないよう気をつけましょう。
在留資格変更許可申請は、在留目的を変更する場合に提出するものです。申請で用意する書類も多いため、早めの準備を心がけましょう。
また、転職で住所が変わる場合には、役所や郵便局で手続きをする必要もあります。
前職の受け入れ先の企業がすべきこと
特定技能1号の取得者が働いていた前職の受け入れ先の企業も、やるべきことがあります。
前職の受け入れ先の企業は、地方出入国在留管理局へ「特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出」や「特定技能所属機関による特定技能雇用契約に係る届出」などの、受け入れていた特定技能1号との契約を変更するための届け出を提出する必要があります。
「特定技能所属機関による受入れ困難に係る届出」などは、変更があった日から14日以内に届出る必要があるため、早急な対応が求められます。
また、特定技能1号を取得した人材が退職する際には、日本人と同じように源泉徴収票を発行するなどの対応もしなければなりません。
新しい受け入れ先の企業がすべきこと
新しい受け入れ先の企業は、雇用する前に特定技能の資格を持った人材を受け入れる準備をしておきましょう。
具体的には、「外国人支援計画ができており、特定技能所属機関としての適性を地方出入国在留管理局から認められている」などの体制が必要です。
また、特定技能1号を取得した人材を採用する前には、新たに採用する特定技能1号の残りの在留期間や前の職場を退職した経緯を確認して、スムーズな雇用につなげましょう。
そして、特定技能1号を取得した人材の雇用が決まったら、「特定技能所属機関による特定技能雇用契約に係る届出」を提出します。
特定技能1号の転職で気をつけること
分野や区分が合致していること
特定技能1号取得者の転職では、受け入れ分野や区分の一致に気をつけましょう。
違う分野や区分への転職であれば、今までの技術が活かせないため、改めて技能試験を受ける必要があります。
例えば、農業分野の「耕種農業全般」区分で業務を行っていた場合、別の企業で同じ農業分野の「耕種農業全般」区分への転職では新たに試験を受ける必要はありません。
しかし、農業分野の「耕種農業全般」区分から農業分野の「畜産農業全般」区分へ転職したり、別分野の建設分野などへ転職したりする場合には、新たに技能試験が課せられます。
そのため、特定技能1号の転職の際には、新しい職場の分野や区分を再確認しておきましょう。
特定技能の職種についてはこちらをご覧ください
「特定技能1号に該当する職種が知りたい。どの作業を任せていいの?」
転職活動中は働けないこと
特定技能1号取得者は、「在留資格変更許可申請」を提出して転職をします。
在留資格変更許可申請は、認可されるまでに時間がかかり、準備期間を合わせると2〜3ヵ月かかることもあります。
そして、前の職場を退職してから在留資格変更申請を提出して認可されるまでは、特定技能1号取得者は働くことができません。
さらに、働けない期間に働くことは違法となるため、新旧の受け入れ先の企業は注意しておきましょう。
特定技能への引き抜きは自粛要請があること
特定技能取得者の転職では、前職からの引き抜きを任意で自粛するよう求められています。
これは、地方から都市圏へ外国人が過度に集中することを避け、大企業へ特定技能が偏らないことを配慮して各分野の特定技能協議会によって定められています。
違反をすると、転職先の機関が特定技能の受け入れができなくなるペナルティを受けることもあるため、特定技能1号取得者も受け入れ先の企業側も注意しておきたいポイントです。
特定技能1号の転職について理解して特定技能1号の受け入れを検討しよう
特定技能1号取得者は転職できますが、手続きや条件が複雑です。
もし、特定技能1号が転職する場合には、特定技能1号取得者である本人に加えて、新旧の受け入れ先の企業も手続きや必要な書類を提出する必要があります。
特定技能1号取得者の転職に関する知識をつけて、受け入れを検討してみてはいかがでしょうか。
このお悩みの監修者
堀口健治
早稲田大学名誉教授
専門は経済学(農業経済学・農業政策)。2002年から2004年まで日本農業経済学会会長を務め、2015年から2022年まで日本農業経営大学校校長。山形県高畠町の屋代村塾および同県寒河江市の葉山村塾の塾長も務めた。