これまで無農薬栽培をしている農家さんの元で修行を積み、地元の沖縄に帰って農家になることになりました。
耕作放棄地や後継者がいない農地を借りれたので、いくつかの品目を栽培しようと考えているのですが、地主さんから農機具を借りれたので、まずはサトウキビの栽培をはじめたいと考えています。
サトウキビの栽培については周辺の農家さんから学ぶことになっていますが、気になっているのは農薬です。
もし無農薬で育てることができれば、差別化して売ることができると思うのですが、周辺のサトウキビ農家さんで無農薬栽培をしているところはないようです。
そこで、サトウキビの栽培で農薬は必ず使用すべきなのか、使うとすればどんなタイミングで撒くのかを教えていただきたいです。
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
サトウキビの栽培では、雑草防除や害虫防除を目的として農薬が活用されています
サトウキビ栽培で農薬を使う目的
サトウキビ栽培では、以下のような目的で農薬を使用します。
・雑草防除
・害虫防除
両方とも、サトウキビの栽培環境を整える目的として重要な役割を担います。
雑草や害虫の存在は、サトウキビの生育を阻害してしまう恐れがあり、対策として農薬の散布が有効です。
サトウキビ栽培で使用する農薬の種類
栽培時に散布する農薬は、雑草、害虫の防除といった用途別に開発されているので、目的に応じて適したものを必ず散布しましょう。
雑草防除の場合
雑草防除の場合は、除草剤と呼ばれる農薬を散布します。
サトウキビ栽培における除草剤では、以下のような目的に応じた除草剤の散布が有効です。
土壌処理:植付から一週間後をめどに施用
除草剤名
適用雑草
10aあたりの使用量
10aあたりの希釈水量
使用回数
センコル水和剤
一年生雑草
300g
100ℓ
1回
カーメックスD
一年生雑草
100~150g
70~100ℓ
1回
・センコル水和剤:植付45日後まで(雑草2葉期まで)施用可能
・カーメックスD:萌芽前まで施用可能
茎葉処理:雑草が発芽した際に散布
除草剤名
適用雑草
10aあたりの使用量
10aあたりの希釈水量
使用回数
センコル水和剤
一年生雑草
100~200g
100ℓ
1回
アージラン液剤
一年生雑草、多年生雑草
800~1000ml
150~200ℓ
本剤と有効成分であるアシュラムを含む総使用回数3回以内
カーメックスD
一年生及び多年生広葉雑草
100~150g
100ℓ
2回以内
シャドー水和剤
一年生広葉雑草
150~200g
100ℓ
2回以内
・センコル水和剤:収穫30日前まで(雑草2葉期まで)施用可能
・アージラン液剤:収穫30日前まで施用可能
・カーメックスD:収穫90日前まで施用可能
・シャドー水和剤:収穫90日前まで施用可能
植付直後は、土壌処理目的の農薬を散布します。植付後に、雑草が10㎝程度に伸びたら、適用雑草に応じた茎葉処理の除草剤を散布する流れです。
害虫防除の場合
サトウキビ栽培で注意すべき害虫はさまざまで、使用する農薬も異なります。
除草剤名
適用害虫
使用時期
使用量または希釈倍数(kg/10aあたり)
使用回数
アドバンテージS粒剤
・ハリガネムシ類
・メイチュウ類
植付時(植溝処理土壌混和)
培土時(株元処理土壌混和)
6~9
1回
オンコルOK粒剤
・ハリガネムシ類
・メイコバネ類
植付時
6~9
1回
サンケイスミチオン乳剤
・メイチュウ類
・カンシャワタアブラムシ
・カンシャコバネナガカメムシ
・セスジツチイナゴ
収穫45日まで
1000倍(100~300ℓ/10a)
4回以内
トクチオン乳剤
・ハリガネムシ類
収穫90日まで
1000倍(1.8ℓ/1㎡)
2回以内
農薬の種類によって、希釈倍数や使用時期、散布回数も異なるので注意しましょう。
害虫対策についてはこちらもご覧ください
「サトウキビ栽培で注意すべき害虫を知りたい」
農薬使用時の注意点
農薬使用時は、以下のポイントに注意して使用しましょう。
・農薬を使用しても良い時期
・使用回数
・使用する農薬の量と希釈倍数
・農薬ごとの使用方法
農薬によっては、散布するタイプのものや株元処理など、使用方法も大きく異なる場合もあります。使用する農薬のラベルに記載された用法・容量を必ず守って使用するようにしましょう。
また、農薬の散布時は防護服やゴム手袋類を必ず着用します。
風向きや時間帯に注意しながら、近隣住民や農作物等への配慮も必要です。
サトウキビを無農薬で栽培する方法
サトウキビ栽培では、全ての農家が農薬を使った害虫や雑草防除をしているわけではありません。
収穫の際に落としたキビの葉や穂先を株元に敷きつめて雑草防除を行い、農薬なしでの栽培を行う農家もあります。
また、敷きつめた葉や穂が分解され肥料となります。
化学肥料等を過剰に施用すると、害虫がつきやすくなります。
しかし、循環型農業で収穫の際に落とした葉や穂を用い、余計な栄養分が付かず雑草や害虫の問題が発生しない仕組みです。
農薬は栽培管理において重要な役割を担いますが、必ずしも使用しないといけないわけではありません。
サトウキビの栽培方法や栽培適地についてはこちらをご覧ください
「サトウキビの栽培方法が知りたいです!育て方や注意点を教えて」
「サトウキビ栽培に適した畑の条件を教えてください」
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。