現在都市部で会社員をしていますが、地元に帰って舞茸農家になることを検討しています。
現在は栽培計画や経営計画を立てながら、実現へ向けて準備を進めている段階です。
そこで改めて、舞茸を収穫する準備はどの時期に始めて、その後どのような作業の流れになるのか、専門の方に伺いたいと思い、質問させていただきました。
おいしい舞茸を育てるコツや、気をつけるべきポイントも合わせて教えてください。
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大賀祥治
九州大学 名誉教授、中国吉林農業大学 教授
舞茸は11月頃原木を準備して翌年10月頃に収穫できる
舞茸は約1年で初収穫、以降3~5年は同じ木から収穫可能
キノコ栽培は、伐採した木を使う「原木栽培」と、おがくずなどで人工的に準備した土台を使う「菌床栽培」とがあります。
舞茸は、どちらの方法でも栽培できるキノコです。スーパーなどで見かける舞茸はほぼ菌床栽培で収穫されたものです。
原木栽培の舞茸は天然ものに近い風味が人気で、希少価値があります。
舞茸はほだ木から3~5年程度は収穫可能
原木栽培の舞茸は、野菜のようにすぐに収穫はできません。原木を準備してから収穫まで最低1年はかかり、収穫の適期も3週間と短いです。
しかし1度仕込んだ原木(=ほだ木)から5年ほど連続で発生しつづけるというメリットがあります。
原木栽培で舞茸を収穫するまでに必要な作業工程
舞茸の原木栽培の工程は、大まかにいうと以下のような流れになります。
1、樹木を伐採して原木を用意する
2、原木を切り分け、殺菌する
3、舞茸の菌を原木に植え付けて培養(=木の中に菌糸を広げる)
4、菌糸の広がったほだ木を伏せ込む(=野外に配置する)
5、発生した舞茸を収穫する
舞茸栽培のほだ木についてはこちらをご覧ください
「舞茸栽培に必要なほだ木となる原木の種類や管理方法を教えてほしい」
舞茸栽培・月ごとの手順
それでは舞茸の原木栽培の具体的なスケジュールについて説明しましょう。
11~12月頃 原木を伐採する
まずは舞茸を発生させる原木を準備します。
天然の舞茸が生えるのと同様、ミズナラ、コナラ、クリやカシなど、ブナ科の原木が必要です。
伐採した原木を玉切り(=枝を落とし所定の長さの丸太に切り取ること)します。長さの目安は15~20センチメートル程度です。
キノコに乾燥は大敵です。原木の切り置きはできません。玉切りしたものはすぐに使うようにしましょう。
1~3月頃 殺菌
舞茸が長らく人工的に栽培不可能だといわれていたのは、舞茸が雑菌に弱く、椎茸やなめこの栽培方法では発生しなかったためです。
ところが原木を殺菌することで舞茸も人工栽培できると分かり、栽培技術が普及しました。したがって、舞茸栽培には原木の殺菌が不可欠です。
ドラム缶や釜に熱湯を沸かし、ぐらぐらと煮え立った状態を保ち4時間以上煮沸します。
高温蒸気装置があれば、それを利用するのも良いでしょう。
殺菌を終えた原木は、雑菌が入らない清潔な空間で20℃以下になるまで放冷してください。
舞茸のほだ木は専用袋に入れて培養しますが、殺菌前に袋に入れて、袋ごと殺菌する農家もあります。
1~3月頃 菌の植え付け~培養
殺菌を終えた原木に、舞茸の菌を植え付けます。
舞茸の種菌は「種駒」と呼ばれる弾丸型の木片です。原木にドリルで穴を開けて、種駒が原木の中に入るように打ち込みます。
種駒を打つ作業も、舞茸の菌糸以外の雑菌が原木に入らないよう、クリーンな場所で行ってください。
ほだ木は栽培袋に入れて培養します。袋に入れたら上部を折り込み、ステープラーで止めたり、クリップで挟んだりして封をし、培養します。
培養を行う場所は20~25℃、施設内の薄暗い空間が最適です。
2週間ほどすると菌糸が原木に広がり始めます。4カ月ほどたつと、ほだ木は菌糸で白くなります。これがほだ木の「熟成」です。
6月~7月頃 伏せ込み
袋の中で原木に菌糸が広がったら、屋外で天然舞茸が自生するのに近い環境にほだ木を配置します。この工程を「伏せ込み」と呼び、時期は梅雨と重なります。
場所は完全な日陰ではなく、ときどき木漏れ日が入るような森林、畑の土の上が理想的です。
水はけや風通しの良いところを選びましょう。
9~10月頃 発生・収穫
9~10月頃になると原木の中の菌糸が完全に蔓延し、芽が出始めます。舞茸の芽は原基(げんき)とも呼びます。
収穫は原基が現れてから約2週間、カサの裏に管孔(かんこう=小さな穴)を確認したら適期です。
ほだ木から株を切り取り、箱やトレイなどに移して出荷してください。
収穫時期は3週間~1カ月ほどと短めです。見逃しがないか、ほだ木をしっかり確認しましょう。
舞茸の栽培方法についてはこちらをご覧ください
「舞茸の栽培方法が知りたい。手順やスケジュールについて教えて」
菌床栽培の舞茸は3カ月程度で収穫できる
菌床栽培の舞茸は空調や光で環境ををコントロールした施設内で育てるため、原木栽培よりも短い期間、約3カ月程度で収穫できます。
おがくずなどで培地(ばいち=キノコが育つ土台)を作り、殺菌後、そこに菌を植え付けて施設内で培養し、発生させて収穫します。
菌床栽培は、最初にある程度の規模の設備投資が必要ですが、栽培が季節や天候に左右されず、年に複数回の収穫・出荷も可能で、作業に身体的負荷が少なく人材確保しやすいというメリットがあります。
菌床栽培、原木栽培のメリット・デメリットはこちらをご覧ください
「舞茸を菌床栽培する際のメリット・デメリットを知りたい」
「舞茸を原木栽培する際のメリット・デメリットを知りたい」
舞茸栽培で気をつけるポイント
最後に、舞茸の原木栽培で気をつけるポイントを説明します。
発生までは約1年、初年度は余裕をもって資金などの計画を
舞茸は原木の伐採から初収穫まで約1年の時間必要なため、数カ月で収穫できる野菜等と比較すると、収益化にも相応の時間がかかります。
新規で舞茸の原木栽培を始める場合は、余裕を持って資金や設備投資を計画しましょう。
伏せ込み場所の選定や遮光や雨対策などの調整も必要
伏せ込みを行う場所の選定・調整も重要なポイントです。
菌糸が十分に育つためには、水分が多すぎても乾燥しすぎていてもいけません。また、光が当たり過ぎる場合は遮光ネットなどを用いて日照を調整する必要があります。
発芽後は雨が当たってはねた土が付くと出荷できないため、遮光ネットを掛けるなどで対策してください。
舞茸の栽培期間についてはこちらもご覧ください
「舞茸の栽培期間を教えてほしいです」
このお悩みの監修者
大賀祥治
九州大学 名誉教授、中国吉林農業大学 教授
農学博士。専門は、きのこ学、森林資源学。とくに食用・薬用キノコの生理特性や生産技術、森林の木材腐朽菌および菌根菌を研究し、九州大学発ベンチャー企業「株式会社マッシュピア」「ヒマラヤンバイオ・ジャパン株式会社」の各々会長、代表も務めている。