これまで勤めている水産会社の巻き網漁船に乗っていましたが、漁獲量が減ってきていて、今後のことを考えると不安です。
将来のことを考えると養殖の方が儲かるのではないかと感じていて、転職するのもアリかなと思っています。
うちの地域では養殖をしている漁師はいないものの、隣町の漁協では、サバ養殖をやっている水産会社があると聞きました。
サバであれば需要もありますし、安定した収入が得られるのではないかと勝手に期待していますが、デメリットはあるのでしょうか?
養殖が難しい、餌代が高騰しているなど、サバ養殖の実情が知りたいので、何か課題があるのであれば、教えていただきたいです。
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
サバ養殖には、種苗の安定確保や生産コストの増加、寄生虫対策などの課題があります
サバの養殖における課題とは
天然種苗の場合、安定仕入れが難しい
サバの養殖では種苗をどのように確保するかが課題となっています。
養殖における種苗とは、養殖する魚の基となる稚魚のことで、天然種苗と人工種苗の2種類があります。
天然種苗とは、自然界にいる稚魚のことで、人工種苗とは、養殖や漁獲した親魚を人の手で育て、そこから生まれた稚魚を指します。
天然種苗の場合、不漁などが原因で稚魚の価格が高騰してしまうと、仕入れコストが高くなり、経営に影響を及ぼす可能性があります。
また、天然種苗は個体ごとのサイズにばらつきがあることも課題です。
さらに、捕獲できる時期も限られているため、育てた魚のサイズが異なったり、出荷できる時期が限られてしまったりする問題もあります。
生産コストの増加
サバの養殖の課題の一つに餌の高騰があげられます。
餌となる配合飼料は主に魚粉を原料として作られていますが、魚粉が高騰しているため、生産コストが増えています。
ほかにも、人件費や燃料費、設備などの購入費も増加しているため、全体として生産コストは増加傾向にあります。
サバの養殖に使用する餌についてはこちらをご覧ください
「サバの養殖に使用する餌は?餌の種類と特徴を教えて欲しい」
寄生虫への感染
サバに寄生する代表的な寄生虫はアニサキスです。
アニサキスに寄生されたオキアミや小魚などの生餌を、養殖しているサバが食べてしまうと、アニサキスに感染してしまいます。
また、クソボルス・アカンソゴビイという寄生虫は、サバの背骨を湾曲させてしまいます。
見た目が変形すると、出荷できなくなるため、漁師にとっては厄介な寄生虫です。
他にも、ディディモゾイド類という寄生虫は人体に影響はありませんが、サバの筋肉を黄色く変色させるため、商品価値を落としてしまう可能性があります。
寄生虫や病害対策についてはこちらもご覧ください
「養殖しているサバがアニサキスに寄生される可能性はありますか?」
「養殖しているサバの眼球が脱落し、死んでしまう病気がある?」
サバの養殖の課題の解決方法
人工種苗の開発
サバ養殖の種苗確保の課題を解決する方法として、人工種苗を利用する方法があります。
人工種苗は、天然種苗と違い自然環境の影響を受けないため、安定的に仕入れることが可能です。
さらに、季節を問わずに確保できるため、一年中サバの出荷が可能になります。天然種苗に比べて種苗の個体差も少ないため、サイズのバラつきも少なくなります。
しかしながら、人工種苗は、受精卵を孵化させるまでのコストや、管理作業が発生するため、天然種苗よりも仕入れ値が高くなる可能性があります。
低コスト技術の活用
サバ養殖の餌となる配合飼料に、低魚粉で効率よくサバが育つ飼料を活用すれば、生産コストを抑えることが可能です。
さらに、人件費の高騰に関しては、自動給餌器などのIT技術を活用することも選択肢の一つです。
これまで人間が行ってきた作業を自動化することで、人件費の削減や作業の効率化が可能になります。
陸上養殖の導入
サバが寄生虫へ感染するリスクを減らす方法として、陸上養殖があります。
陸上養殖は、陸上に設置した水槽で養殖する方法です。
海上に生け簀を設置して育てる海上養殖に比べて、サバがアニサキスなどの寄生虫に触れる機会を少なくすることができるため、感染リスクを減らすことが可能です。
さらに、水槽の水を浄化する閉鎖循環式施設で人工種苗・配合餌料を用いて養殖を行えば、アニサキスの心配がないと言われており、サバを生食できるとして、ブランド化している養殖業者もいます。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。