まだまだ新米ですが、サバを養殖している漁師です。
先日、漁師仲間から「養殖しているサバに、眼球が脱落したり、死んだりする病気がある」と聞きました。
これまで赤潮などが原因で養殖しているサバが大量死したことはありましたが、ゴマサバなどは病気に強いイメージがあり、この話が本当であれば、注意しなくてはいけないと思います。
しかし、先輩たちからそのような話を聞いたことはなく、嘘なのではないかと疑ってもいます。
サバの眼球が脱落し、死んでしまう病気というのは、本当にあるのでしょうか?
もしあるのであれば、症状や対策について教えてください。
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
養殖サバの眼球炎は、細菌の繁殖が原因で発生します
養殖サバの眼球炎
福井県水産試験場が2020年に報告した、マサバの養殖(飼育)で起きた「眼球炎」とみられる病気の発生事例を紹介します。
福井県水産試験場の事例
福井県水産試験場は2016年に、天然の海域で採捕したマサバの稚魚の養殖に着手しました。
ただ養殖といっても期間は6~10月短く、実験・研究的な飼育という位置づけになります。
養殖している魚を人工授精させて稚魚を生産する人工種苗に対し、海で採った稚魚は天然種苗といいます。
人工種苗による魚の生産は費用と時間がかかるため、マサバのような需要が高い魚では天然種苗が重要な種苗確保の手法になります。
それで今回は天然種苗を使った養殖を研究対象にしました。
研究内容
サバの稚魚は2,900尾で、いずれも地元の定置網で獲れたものです。それを活魚車を使って施設内の生簀に移しました。
サバを生簀に入れたのが6月26~28日で、最初に異常が発見されたのは6月30日でした。
異常というのは、サバの眼球が突出するしている、異常な旋回の後に死んでしまうといったものです。30日だけでも、死んだサバは60尾にのぼりました。
その後、飼育密度を下げるため7月14、15日により大きな水槽(容量50トン×2面)に移しましたが、死んでしまうサバがさらに増えてしまいました。
死んだサバの推移は以下のとおりです。
■死んだマサバの数
●7月19日:70尾
●7月21日:126尾(期間中最多)
死亡率
その後も、しばらくの期間1日数十尾が死ぬ期間がつづき、9月に入ると死ぬ数が1日数尾まで減りました。
6月26日から始めた飼育(養殖)は10月7日に終了し、この間1,436尾のサバが死んでしまい、死亡率は49.5%でした。
眼球炎の症状
福井県水産試験場は、マサバの眼球の異常の原因は眼球炎であると推測しました。
眼球炎を疑ったのは、今回のマサバの症状が、養殖カンパチが発症する眼球炎と酷似していたからです。
眼球炎と推測される病気の症状の特徴は次のとおりです。
・眼球が突出する
・眼球が赤くなる
・眼球が脱落する
・眼球以外に目立った外傷がない
これらの症状は、養殖カンパチで発生した眼球炎に見られる症状とかなり似ていました。
サバの養殖で起こった病気・異常の原因
福井県水産試験場は、養殖マサバに眼球炎が疑われる症状が発生した原因を次のように推測しました。
・マサバの稚魚を輸送したときに眼球を傷つけたのではないか
・その傷口からビブリオ属の細菌「Vibrio harveyi」が侵入し、眼球炎を引き起こしたのではないか
原因として細菌感染を疑った理由は、異常な症状を起こしたサバ1尾から細菌が検出されたためです。
この最近は、養殖カンパチで発生した眼球炎においても、同じものが発見されています。
さらに、今回養殖中のサバに異常が出た水槽の海水温は比較的高く、細菌が繁殖しやすい条件下にあったと考えられています。
また細菌が原因であるという推測を支えるもう1つの根拠は、眼球に異常が起きたサバから細菌は発見されたものの、ウイルスが検出されなかったことです。
これにより、ウイルス性神経壊死症(VNN)が否定されました。
サバの養殖で起きる病気の対策
福井県水産試験場は、養殖していたサバを水槽に移した直後に死ぬ個体が多かったことから、輸送時に眼球に傷がついて、そこから細菌が侵入したと考えています。
そのため、養殖マサバの眼球炎対策として、魚体の擦れなど輸送体制を見直す必要があると指摘しています。
また、養殖カンパチで起きた眼球炎では水温が高かったことも要因として挙げられるため、水温管理も重要なポイントとなるでしょう。
輸送方法や水温に注意が必要
天然のマサバの稚魚を使った養殖(飼育)で、眼球炎とみられる症状が発生し、半数近くが死んだ事例を紹介しました。
原因は、眼球についた傷から細菌が侵入し眼球炎を起こしたものと推測されます。
サバはうろこが取れやすく擦れに弱いので、輸送時や水槽に移す際には体表や特に傷をつけないようにシート製たも網を使用するなど取扱いに注意し、水温管理を徹底した上で養殖を行いましょう。
このお悩みの監修者
中平博史
全国海水養魚協会 専務理事
全国海水養魚協会の専務理事や一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会の理事を務める、魚類養殖業のプロフェッショナル。養殖水産物の輸出や赤潮などの環境保全対策活動にも携わっている。