さまざまな野菜を育てている農家です。これまで地元のスーパーや道の駅を中心に出荷してきましたが、目玉となる品目がないことに悩んでいます。
そこで、新たにピーマンを育てようと計画中です。
しかし、夏野菜は初めて取り組むため、どのような土壌にすれば良いのか悩んでいます。
ピーマンにしょうと思ったキッカケは、妻が好きな野菜だからで、料理として使う家庭も多いので、ゆくゆくはブランド化して販売できたらと考えています。
まずは基本的な部分をしっかり勉強したいので、ピーマン栽培の土作りの手順やコツを教えてください。
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
ピーマンは石灰、堆肥、元肥で土作りを。マルチや高畝栽培もおすすめ
ピーマン栽培に適した土壌とは
まずはピーマンを育てるのに向いている畑の立地や土壌条件について確認しておきましょう。
栽培に向いている畑の条件
まずは「日当たりが良い場所」が何より大事です。
南向きまたは東向きに開けていて、可能な限り、周りに日光を遮るものがない環境を選んでください。
具体的には「1日あたり4時間以上の日照がある場所」を用意しましょう。
日陰になる時間が多い場所は避けてください。またトウモロコシなどピーマンよりも背丈が高くなる作物も、近くで育てないようにしましょう。
適度な日光を確保するためのポイントはこちらをご覧ください
「ピーマンにはどのくらい日当たりが必要?日焼け対策のやり方は?」
高畝栽培やマルチ栽培もおすすめ
畝(苗を植えるために土を盛って作る、細長く直線状の山)を高めにする高畝(たかうね)栽培にはメリットが多くあります。
一般的にはピーマンの畝の高さは15センチメートル程度が目安ですが、40センチ程度で栽培する農家もあります。
これにより土の表面積が多くなり、日当たりや風通し、水はけが向上するためです。
畝を(マルチ、ポリまたはビニール)フィルムや敷き藁などで覆うマルチ栽培もさまざまな効果があります。
地温や水分を適度に保つほか、雨滴による土の跳ね上がりなどを防ぎ、ピーマンを病気から守ることが期待できます。
ピーマン畑の土作りの手順
続いてはピーマン栽培に必要な土作りについて、具体的な手順を説明しましょう。
植え付けの2~3週間前 石灰を入れる
ピーマンに最適な土壌ph(土壌が酸性かアルカリ性かを表す数値基準:数値が低ければ酸性、高ければアルカリ性を示す)は「6.0~6.5」です。日本の土壌はやや酸性に傾いているので、まずは最適なphへと整える必要があります。
苗を植え付ける2~3週間前を目安に、「苦土石灰(くどせっかい)」を畑全体に入れて耕すと、植え付け時期には良いphバランスになります。
苦土石灰は「苦土(マグネシウム)」と「石灰(カルシウム)」を含む、土のアルカリ性を強める農業資材です。
●1平方メートルあたり施用量の一例
・苦土石灰:100~150グラム
植え付けの1週間前 堆肥、元肥を入れる
次は植え付け1週間前をめどに、堆肥(たいひ=わらや糞(牛糞・豚糞・鶏糞)などの有機物を微生物の力で分解した農業資材)、元肥(もとごえ=栽培開始前にあらかじめ与える肥料)を入れます。
ピーマンの堆肥には、「完熟堆肥」といわれる「有機物が十分に発酵・分解された堆肥」が適しています(十分に発酵・分解されていない堆肥は畑に入れないように注意して下さい。発酵途中であれば、堆肥の臭いがきついです)。
中でも牛ふんなどはよく使われます。
また同時に、油かすや魚粉などの有機質肥料(動植物由来の原料から作った肥料)を施す農家もあります。
元肥は化成肥料(鉱物など無機物を原料に、化学的に作られた肥料)を使うことが多く、植物の3大栄養素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)がバランスよく配合された「N:P:K=8:8:8」タイプが基本です。またピーマンには、実つきを良くする効果のあるリン酸肥料(過リン酸石灰など)を加えても良いでしょう。
リン酸は実肥(みごえ)とも言われます。
量は以下を目安にしてください。
●1平方メートルあたり施用量の一例
・堆肥:完熟堆肥 3キログラム、油かす 100グラム、魚粉 60グラム
・元肥:化成肥料 150グラム、リン酸肥料(過リン酸石灰) 30グラム
畝立てとマルチングの方法
続いて畝の立て方とマルチングの手順を説明します。
畝の立て方
最適な畝幅は、1つの畝に対し、ピーマンを「1列で植えるか」「2列で植えるか」によって異なります。
ここでは1条植え(1列で植える)の場合の畝の立て方を解説します。
軽く掘った土を、幅60~70センチ、高さ10~20センチの山を作るように、直線型に寄せます。
その隣に管理作業をするための通路を設けます。
通路幅は30~50センチほどを見ておきましょう。
畝幅と通路の合計で、畝間は120センチ前後とりましょう。
マルチの張り方
次に、畝をポリフィルムなどで覆います。
土が湿った状態で作業をし、土壌の乾燥を防ぎながら地温を上げるのがポイントです。
このとき銀色、白色が含まれる資材を選ぶと、光の反射を嫌うアブラムシやアザミウマの飛来を抑える効果があります。
マルチを敷くことによって、太陽光が反射され、ピーマンに対する害虫(アザミウマなど)の被害を抑えることができます。
まずは畝を平らにし、畝の周囲にフィルムを埋め込むための溝を掘りましょう。
フィルムのロールを畝の始点に置き、終点まで伸ばします。
シート押さえ(シート類を地面に固定する農業資材)で仮止めをした後にフィルムをカットし、端を土に埋め込みます。
植え穴がないタイプのフィルムであれば、最後に穴あけカッターなどの道具を使って、50センチメートル間隔を目安に穴を開けましょう。
ピーマン栽培で注意すべき害虫についてはこちらをご覧ください
「ピーマン栽培で気をつけるべき害虫は?特徴や防除方法を教えて」
ピーマン栽培の土作りで気をつけること
最後に土作りでの注意事項を確認しておきましょう。
ナス科の植物を育てた直後の土は厳禁
ナス科のピーマンは連作障害を起こしやすい作物です。
ピーマンはもちろん、トマトやナス、ジャガイモなど、同じナス科の野菜を育てた直後の土には植え付けないよう注意してください。
ピーマンを同じ場所で栽培する場合は、最低でも3~4年の間隔を空けてください。
栽培終了後は土壌消毒も有効
栽培が終わった土壌を消毒して、次に育てる作物の病害虫リスクを減らしましょう。
土壌消毒は太陽熱による方法が最も一般的ですが、気温の高い時期によく採用される方法のため、ピーマンの場合は条件的にやや難しい可能性があります。
冬期に全体を掘り起こして寒さに当てる方法や、専用の薬剤を使う方法、高温の蒸気を当てる方法などもあります。
畑に最適な方法で土壌消毒を行いましょう。
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。