次期からピーマンの栽培を始めようかと計画しています。これまで果菜を育てたことはあるものの、ピーマンの栽培ははじめてです。
栽培方法については心配していませんが、問題は害虫対策。
「ピーマンは多くの害虫が好む」と知り合った農家さんから聞き、対策をしっかりしたほうがいいよ、とアドバイスをもらいました。
そこで、基本的なことではあるものの、ピーマンの栽培特に気をつけるべき虫の種類や、対策について教えていただけますか?
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前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
ピーマンの栽培はブラムシやなどの害虫に注意、薬剤や防虫ネットで対策を
ピーマンによく付く虫とその被害例
まずはピーマンによく付く害虫と、その被害例を確認しておきましょう。
アブラムシ
アブラムシはピーマンに限らず、ナス科やウリ科、アブラナ科など多くの作物に発生します。
活動は3〜10月に活発になり、葉の裏や茎に集まります。いつのまにか大量発生して植物の汁を吸うため、次第に株が弱ってきます。
アブラムシの排泄物には糖分が含まれており、これを餌にするカビが付くのが原因で「すす病」を発症することもあります。
さらにアブラムシはさまざまな別の植物から飛来するので、外部からウイルスを運んで、モザイク病などを持ち込むリスクもあります。
ヨトウムシ
ヨトウムシはガの幼虫です。小さい頃は緑色ですが、成長するにしたがって黒や褐色に変化することもあります。体長は3~5センチメートル程度に至ります。
アブラナ科やナス科の植物を好み、葉の裏に発生します。放っておくと葉脈を残してほとんどの部分を食べ尽くすほど、よく食べる害虫です。
ヨトウは「夜盗」の意味で、昼間にはなかなか見つけられず、土の中に潜んでいるのが厄介な点です。
カメムシ
カメムシにはさまざまな種類が存在しますが、特にナス科の植物を好むのが「ホオズキカメムシ」です。幼虫の頃は白っぽく、成長すると1.2センチメートルほどの黒褐色の個体となります。
活動時期は6月~10月頃で、ピーマンの栽培スケジュールと重なります。アブラムシと同様に集団で汁を吸い、植物を弱らせます。
葉の裏に10〜30粒ほど卵が産み付けられることもあります。
タバコガ、オオタバコガ
タバコガの幼虫にも注意してください。タバコガは体長2~4センチメートルで、初期はアオムシですが、成長すると背に黒い斑点模様が見られるようになります。
タバコガの困ったところは、果実に穴を開けて侵入し、内側から食害する点です。中に入ってしまうと、人の目ではなかなか見つけられません。さらにタバコガが内部に入り込んだ果実は落ちやすくなります。1匹が複数の果実を渡り歩く性質を持っているため、気づくのが遅れると被害が広がってしまいます。
タバコガの被害は、ピーマンが着果するピークである6月~9月頃に多く報告されています。
アザミウマ
アザミウマは細長い形の害虫で、葉などを食害(吸汁)します。
ピーマンでよく見られるのは「ミナミキイロアザミウマ」という種類のものです。体色は名前の通り黄色く、体長は1センチ台という小ささのため、肉眼では見つけにくいかもしれません。
アザミウマは葉や果実を食害(吸汁)して跡を残し、ひどくなると落葉せず枯死することもあります。
世代交代のサイクルが早く繁殖力が旺盛なため、薬剤へも高い抵抗性を持ちます。ピーマン以外にもさまざまな作物を加害し、「黄化(おうか)えそ病」など、ウイルス媒介者になるのも問題です。
特にハウス栽培では、1年中アザミウマが発生する可能性があります。
ハダニ・ホコリダニ
ハダニ、ホコリダニはいずれもダニの一種で、体長が1ミリメートルにも満たない微小な虫です。
ハダニは名前の通り葉を食害します。葉の裏から汁を吸って栄養分を奪い、白っぽい斑点のような跡を残します。
ホコリダニは新芽を食害し、見落として放っておくと芯止まり(=成長点から茎がそれ以上伸びなくなってしまうこと)を引き起こします。
どちらも肉眼では見つけにくいので、このような被害を見つけたら、ハダニやホコリダニの発生を疑いましょう。
コナジラミ
主なコナジラミ類は体長1ミリ前後の黄白色の虫で、白い羽を持ちます。
アブラムシやアザミウマと同様、中の養分を吸い取って、植物の生長を鈍らせます。また糖分を含む排泄物で、すす病をもたらします。その上、ウイルスを誘引する点も、アブラムシと同じです。
ピーマンの害虫の防除方法
続いてはピーマンを害虫から守る方法を説明します。
防除方法1 防虫ネットを張る
最も取り入れやすく効果も見えやすい対策は、畑や株に防虫ネットを張ることです。
苗を植え付ける際、畝(うね=植物を栽培する目的で、土を盛って細長く直線状に作った山)にトンネル型になるアーチ状の支柱を立てて枠を作り、その上に防虫ネットを掛けておくと、外部からの侵入を防止できます。
株の生長を見越して大きめに枠を作り、特に地面に差し込む部分などに隙間を作らないよう、しっかりと覆いましょう。
防除方法2 銀色のシートを敷く
アブラムシやアザミウマは、光を反射する銀色を嫌う性質があります。
したがって、畝を銀色のポリフィルムなどでマルチング(=覆って植物を栽培すること)してみてはいかがでしょうか。
マルチ栽培を導入すると、害虫防除だけでなく、畑の地温や湿度を保つ効果も期待できます。
防除方法3 薬剤を使う
慣行栽培(農薬や化学肥料を使う栽培方法)であれば、速効性の高い薬剤を使うのが最も効果的です。
ただし同じ系統の薬剤を使い続けていると、虫がその成分に対して耐性を持つようになってしまいます。系統の異なる複数の薬剤を組み合わせて使うのが良いでしょう。
例えば、ピーマンのアザミウマ類にモスピラン顆粒水溶剤(ネオニコチノイド系)を散布したとしましょう。次にアザミウマ類に農薬を散布する際にアドマイヤ―顆粒水和剤を用いると、農薬名は異なるのですが系統は同じ「ネオニコチノイド系」になりますので、他の系統の農薬を散布するようにしましょう。
防除薬剤は、商品ラベルの注意事項や地域での指導に従い、必ず正しい用法を守って使用してください。
害虫が発生しやすい環境を作らないのが第一
畑の近くに害虫が棲みつきやすい雑草があると、そこから害虫が飛んできやすくなりますので、雑草は可能な限り取り除くようにしましょう。
取り除いた雑草を単に畑から遠ざけるだけでは不十分です。しっかりとごみとして処分するなどで、飛来の可能性を断ち切りましょう。
また病害虫の被害を抑えるため、栽培終了後に土壌は殺菌・消毒してください。太陽光などを利用する方法や、薬剤を使う方法などがあります。
害虫が発生しやすい環境にならないよう、普段から気を配るようにしましょう。
栽培計画の立て方や栽培終了後の土壌消毒についてはこちらをご覧ください
「ピーマン栽培の時期ごとの作業やポイントを教えてほしいです」
「ピーマン栽培の土作りで重要なポイントは?」
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。