野菜の露地栽培をメインで行っていますが、先日同じ集落の農家さんから、農園の管理を依頼されました。
その農家さんはイチジクをメインで育てていますが、高齢で作業が難しくなってきたので、若手に管理を任せたいとのことです。
果樹の栽培に興味はあったので、やってみたいと思う反面、どのような作業が発生するのか気になります。
自分の畑の作業もあるので、作業が大変な時期は被らないか、自分だけで管理できるかなど、事前に考えておかなければなりません。
また、利益も出していかなければ行けませんが、農園はあまり管理されていないような状態なので、どれくらいで収穫できるのかも気になります。
イチジクの生産方法について、基本的な流れを教えていただけないでしょうか。
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
イチジクの収穫まではおよそ2年!適切な剪定と水やり、施肥がポイントです
イチジクの基礎知識と特徴
まずはイチジクについて、基礎知識と特徴を確認しておきましょう。
イチジクは果樹栽培未経験の農家でも育てやすい?
イチジクが育てやすい作物といわれる理由は、以下の3点にあります。
1、最短で植え付けの2年目から収穫できる
2、露地でも施設でも栽培可能
3、手入れがしやすく比較的作業負荷が少ない
ただし、亜熱帯性の果樹なので寒さにやや弱い点に注意が必要です。
日本では和歌山県や愛知県などの地域で盛んに栽培されています。
主な品種とその栽培時期
イチジクの品種は世界に数百あるといわれています。
中でも日本でよく見られる品種は、「桝井(ますい)ドーフィン」と、‟蓬莱柿・(ほうらいし)”とも呼ばれる「在来種(ざいらいしゅ)(日本でもっとも古い品種)の2つです。
収穫時期により果実を、夏果(なつか)と秋果(あきか)と呼び分けます。
地域により差はあるものの、一般的に夏果は「7月」、秋果は「8~10月」が収穫期です。
夏もしくは秋にだけ実る品種と、夏秋兼用種とがあり、桝井ドーフィンは兼用種、蓬莱柿は秋果がメインの品種です。
品種選びの基礎知識についてはこちらをご覧ください
「イチジクの品種にはどんなものがある?特徴は?」
イチジク栽培の流れと管理のコツ
続いてイチジク栽培の流れと管理のコツについて説明しましょう。
植え付けから収穫までの流れ
まずは全体スケジュールをざっと紹介しましょう。以下は露地栽培の一例として考えてください。
▼1年目
・2月:土やほ場などの準備
・3月:植え付け(12月~1月に植え付ける場合もあります)
・12月~2月:冬剪定・仕立て
▼2年目以降
・5月:芽かき
・5月~6月:追肥
・7月:摘心
・7月:夏果収穫
・8月~10月:秋果収穫
・10月:施肥
ほ場と土の準備
植え付け1か月前までを目安に、土やほ場の準備を行います。
日当たりと排水性の良い場所を選び、土壌を整えてください。
イチジクに最適な土壌酸性度は「ph7.0」前後です。
土に苦土石灰(くどせっかい=土のアルカリ性を強める農業資材)を入れて、この値に近づくよう調整しましょう。
一般的にpHを1上げるためには、苦土石灰を1m2当たり150g程度施用します。
したがって、皆さんが栽培しようとしている圃場のpHがどの程度か確認する必要があります。
最近では、ホームセンター等でも簡易なpH計が販売されています。
また完熟堆肥(かんじゅくたいひ=有機物が十分に発酵・分解された堆肥)も必要です。
1本あたり20㎏を土壌に加えてください。
植え付け
次は苗木の植え付けです。
植え付け箇所には、30cmの深さで直径50~100cmの穴を掘っておきましょう。
植える間隔は、仕立てる形状によっても異なりますが、4~6mほどが良いでしょう。
例えば、一文字仕立てに仕立てる場合は2m×5m、杯状仕立てに仕立てる場合は4m×3~4mの間隔となります。
苗木を植える際、鉢から苗を取り出して、根がぐるぐる巻きになっていたら、根鉢(ねばち=根と土とが一緒になった部分)は崩して、根を伸ばして穴に入れ込み、土を寄せて固定します。
深植えにならないようにするのがポイントです。
剪定と仕立て
定植する際は、苗木は40~50cmの高さで先端を切り戻し、支柱を立てて紐などで固定しながら育ててください。
イチジクは新梢(しんしょう=今年伸びた枝)の各葉腋(葉が枝についているところ)に付く果実を収穫するため、次のシーズンに向けた冬剪定は必要不可欠な作業です。
前年に実を付けた枝は切り落とし、栄養や水分が新しく発生してくる新梢に行き渡るようにするためです。
主な仕立て方には「一文字仕立て」と「杯状(はいじょう)仕立て」の2種類があります。
同時に誘引(ゆういん=支柱などに伸長する枝を紐などで縛りながら、伸長方向を調整していく)を行っても良いでしょう。
芽かき・摘心
おいしい果実をたくさん付けるためには、芽かきと摘心も重要です。
「芽かき」は不要な新芽を取り除く作業です。イチジクでは新梢が発生後、葉が2~3枚以上開いたときに1回目の芽かきを行います。
また新梢の先端を切る「摘心(てきしん、摘芯)」作業により、果実の肥大を促進したり樹冠内の日当たりを良くします。
水と肥料の与え方
日本のイチジク生産は、生食用がほとんどのため、特に花や実が付く時期に、しっかり水やりを行います。
土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えてください。
ただし根腐れにならないよう、やりすぎや水はけには注意しましょう。
肥料は緩効性化成(かんこうせいかせい)肥料、有機肥料がおすすめです。
いずれもゆっくり効き目が現れて長期間持続します。
果実が付いて大きくなる時期には、追肥を与えましょう。
収穫後には「お礼肥(おれいごえ=収穫後の感謝の意味を込めて与える肥料)」を施します。
お礼肥は樹の養分回復と翌年の生育準備にもつながります。
果実のサイズを大きくする方法についてはこちらをご覧ください
「イチジクの摘果は必須ですか?判断基準や作業のポイントは?」
イチジク栽培の注意点
最後に病害虫や温度・気候など、イチジク栽培の注意点を2つ紹介します。
病害虫対策・防除方法
イチジクで特に気をつけたい病害には、サビ病、疫病、株枯病、黒かび病などがあります。
主な害虫は、カミキリムシ類、アザミウマ類、ネコブセンチュウなどです。
薬剤を使って予防するだけでなく、日光や風がよく当たるようこまめに剪定し、畑の湿度が上がりすぎないように気を配りましょう。
同じ土で栽培を続けていると、土壌中にセンチュウが増加します。
適宜土壌消毒を行ってください。
イチジクを植え替える際は、計画的に水田化してイチジク栽培を続ける農家もあります。
また鳥害にも注意が必要です。防鳥ネットなどで工夫しましょう。
イチジクによく付く虫と被害例はこちらをご覧ください
「イチジクによく付く害虫や防除方法は?」
気をつけるべき温度や気候
冬季の低温や霜はイチジクにとって大きなリスクとなります。
稲わらをイチジクの主枝に巻きつけておくと、凍害や霜害から防げます。
果実が実り育つ時期が、梅雨・台風のシーズンと重なります。
収量や品質への被害を最小限にするために、支柱への固定や排水管理に努めましょう。
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。