私はみかん農家に嫁ぎ、複数のかんきつ系果実の栽培に携わっています。
地元の農園でイチジクの甘さに魅了され、自分でも栽培してみたいと思い立って、昨年から栽培を始めました。
今年初めて収穫できる見込みです。
まずは近くの道の駅で完熟状態で販売させようと考えているのですが、イチジクは追熟させる必要はあるのでしょうか?
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前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
イチジクは追熟不要 日持ちしないので迅速に収穫・出荷を
イチジクは追熟しない
結論からいうと、イチジクは追熟を必要としない作物です。
まずは果物栽培における追熟についての基礎知識を確認しておきましょう。
果実には追熟型と非追熟型とがある
果実には「追熟型」と「非追熟型」とがあります。
追熟型の果物は、収穫後に最適な条件で保存することにより、甘みや柔らかさが増します。
例えばバナナやキウイフルーツなどはこれに該当します。
一方、非追熟型の果物は収穫後も熟度が変わりません。
つまり、収穫直後が食べ頃の状態です。
非追熟型の作物には、リンゴやブドウがあります。
イチジクを追熟しない理由
イチジクは非追熟型に当たるため、収穫後にそれ以上品質が向上することはありません。
イチジクの実は樹の上で熟して、その甘みと風味が最大になります。
最適なタイミングを見極めて収穫し、新鮮なうちに消費者に届けることがベストな方法です。
イチジクの収穫時期の見極め方
それではイチジクの収穫時期の見極めや収穫作業は、どのように進めればよいのでしょうか。
見極めには色より弾力性・香りが重要
収穫適期の目安は、夏果で「6月〜8月」、秋果で「8月~11月」です。
イチジクの実は、樹の根元側に付いている果実から順々に上に向かって熟していきます。
果実が果梗(かこう=果実の軸部分(樹にくっついている方))から少し下向きに垂れてくるのも、熟しているサインの1つです。
収穫期には果実1つ1つの弾力性と香りに注目してください。
皮の表面を軽く押した時に、柔らかさを感じる程度であれば理想的です。
「耳たぶほど」の弾力性を基準にする農家もあります。
また同時に、甘い香りの程度も確認してみてください。
果皮の色も熟度の判断の1つにはなりますが、厳密には品種などによって異なるため、色だけで判断するのは避けましょう。
収穫方法とポイント
イチジクは手でもぎ取っても、ハサミなどでカットしてもかまいません。
もぎ取る場合は、果実本体ではなく軸の部分を、根元側にひねることで収穫できます。
本体に強い力を加えると、皮がむけたり果肉が崩れたりして、外観を損ねますので注意してください。
ハサミを使う場合は、果実が落ちないように手を添えながらカットするとよいでしょう。
切断面から出てくる白い樹液に触れると、肌にかゆみやかぶれを引き起こす可能性があります。
収穫作業では、手袋などをつけるのがおすすめです。
収穫・出荷タイミングや温度管理による品質への影響
続いて収穫後の管理や作業と、それらがイチジクにもたらす影響について解説します。
収穫のタイミングによる品質の違い
イチジクの収穫のタイミングは、果実の品質に大きな影響を与えます。
適切な収穫時期を逃すと、果実は熟しすぎてしまい、輸送中に傷みやすくなります。
一方、早すぎる収穫は、果実の糖度などが不足していて、風味が落ちる原因となります。
温度管理のポイント
イチジクの旬は気温が高い季節のため、収穫から出荷に至るまでの温度管理にも気を配らなければなりません。
夏場の日が昇りきった昼間は、イチジクにとっても暑すぎます。
早朝や夕方といった比較的涼しい時間帯に収穫すると、イチジクの品質維持につながります。
収穫直後にはできるだけ低温の環境で出荷までの作業を行うのが理想的です。
冷蔵輸送のうえ、ケースに断熱材を使うなどの工夫をするとよいでしょう。
迅速な出荷や販路確保のための工夫
これまで述べてきたように、収穫から出荷までは迅速であることが第一です。
したがって収穫前に、販売先もしっかりと確保しておかなければなりません。
農家単体で取り組むよりも、地域の出荷組織に加入したり、共同の選果場を利用したりするほうが効率的なケースが多いです。
また品種によっては果実そのものの販売だけでなく、食材として納入できる販路も開拓しておくと安心でしょう。
例えば地域の菓子店・飲食店などと契約できれば、収穫後すぐに届けられ、輸送時のダメージも最小限に抑えられます。
イチジクの収穫・出荷の注意点
イチジクは収穫期間が長い作物でありながら保存性が低いため、選果や袋詰めなどの作業にも多くの時間がかけられません。
収穫期の人手や作業スケジュールを、事前にしっかり計画しておくことが大切です。
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。