ナスの栽培を始めたいと思っていますが、摘芯作業が大変そうだなというイメージです。
しかし、摘芯をしないと収量も多くならないと聞いたので、悩んでいます。
さらに、摘芯作業の経験も多くないので、ちゃんとできるのか不安に感じています。
収量を増やすためにも、なすの摘芯作業について、手順や注意点を詳しく教えてください。
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前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
ナスは長期間収穫するために「摘芯」作業が必要です
「摘芯」とは
「摘芯」は「てきしん」と読みます。植物の株にたくさんの花を咲かせたり、実を付けさせるために行う作業です。
枝の先端部分を切り取ることで、栄養分が運ばれる先を調整し、わき芽(=茎と葉の付け根の部分から出てくる新しい芽)を伸ばします。
残したわき芽が伸びた先に2番花や3番花が付き、より多くの実を収穫することにつながるという仕組みです。
「摘芯」は「摘心」と表記されることもあります。また、同じ作業を「ピンチ」や「芯止め」と呼ぶ場合もあります。
ナスの栽培で摘芯をしないとどうなる?
ナスはインドが原産の野菜で、高温多湿の環境でよく育ちます。
夏場の日本でも育てやすい植物ですが、その分、こまめに剪定をしないとどんどん茎や葉が広がってしまい、結果として付く実の数が増えません。
栽培管理のうち摘芯を含めた剪定作業を怠ると、以下のような結果につながる可能性があります。
(1)実ではなく枝や葉に栄養が分散してしまうので、1シーズンあたりの収穫個数が減る
(2)付いた実にも十分な養分が行きわたらないため、実の大きさや味などが劣る
(3)株の風通しが悪くなるため、病気や害虫が付きやすくなる
したがって、摘芯することで「より長い期間、数多くの実を収穫できる」「1つ1つの実を大きくし、おいしいナスをつくる」「ナス(実や株全体)の病害虫の発生リスクを下げる」ことにつながります。
注意すべき病害虫についてはこちらをご覧ください
「ナスを青枯病から守るためにはどのような方法があるのかを知りたい」
「ナスによく発生する虫の種類や防除方法は?」
「ナスが萎凋病になってしまった。どう対策すべきか教えて」
「ナス栽培で被害をもたらすアブラムシの防除方法は?」
摘芯を行うタイミングはいつ?
ナスの栽培スケジュールでは、2~3月に種をまいて苗を育て、5月に畑へ植え替えするのが一般的です。
摘芯などの作業は、茎や葉が伸びる5月から8月にかけて行います。
ナスに必要な作業の種類は、おおまかにいうと「わき芽かき」「摘芯」「更新剪定」の3つになります。
作業もこの順ですので、1セットで覚えておくと良いでしょう。
剪定について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
「ナス栽培の剪定作業はどのように行えばいいのでしょうか?」
摘芯に必要な道具
摘芯を含むナスの剪定作業には、軍手を着用し、剪定用ハサミを使うのがおすすめです。
ナスの作業に適した剪定ハサミも販売されています。
剪定用ハサミはホームセンターやネットショップなどで購入できますので、チェックしてみてください。
ナスの摘芯の作業手順
ナスの摘芯手順(1) 側枝に花が付いたら、先端を切除する
摘芯は、栽培管理の中で「わき芽かき」をした後の株に対して行います。
ナスの株全体のうち、一番最初に花が咲いたのを確認したら、花の1つ下と2つ下の枝だけ残し、その他のわき芽はすべて切除します。
これが「わき芽かき」です。
この状態で一番花が付いた枝を「主枝(しゅし)」、残った2つの枝(一番花が付いた下の2枝)を「側枝(そくし)」と呼びます。
主枝と側枝に対して、支柱を立てたり紐で吊るしたりするなどで、植物が成長する方向を調整(=誘引)します。
誘引すると、摘芯を始めその後に必要な剪定作業がしやすくなります。
一般的にわき芽かきは、株が一番最初に花を付ける(=一番花)5~6月頃、摘芯は7月頃に行います。
側枝に花が付いたら、その度に成長点である枝の先端の芽の部分を切除してください(花より先端に1枚葉を残して下さい)。
切り落とすことで、栄養を花(実)の部分へ誘導します。
ナスの摘芯作業(2) 収穫後、根元の枝のみ残して短く切り詰める
側枝に実が付いたら収穫します。
このとき、枝の根元にある芽だけ残し、他の伸びた枝は短く切り詰めます(=切り戻し)(上の図では株に一番近い芽から側枝が伸びていませんが、切り戻した後は、その側枝を用います)。
こうすると、切った箇所の下の枝(新しい側枝)に栄養が集中します。
ナスはその枝(新しい側枝)に新たな花を付け、着果することを繰り返します。
ナスの摘芯作業(3) わき芽が伸びて花を付けたら摘芯する
残した芽が伸びて花を付けたら、再度(1)と(2)の手順を繰り返します。
「摘芯」、「収穫」、「切り戻し」。基本はこの3つの作業の繰り返しで、ナスは同じ枝に着果しつづけます。
剪定によって、1つの同じ側枝から収穫を続ける栽培方法を「一枝一果法(いっしいっかほう)」と呼びます。
ナス農家の多くが、この方法でナスを収穫しています。
例えば、一枝一果法で1つの枝あたり10回ナスが実を付けると仮定すると、3本仕立て(主枝1本と側枝2本)にした場合、1株あたり30個が収穫できます。
わき芽の残し方次第で1株あたりの収量はさらに増やすことができます。
熟練のナス農家は、うまくわき芽を伸ばして多くの収量を上げています。
ナスの摘芯作業を行う際の注意点
摘芯のポイントは、「主枝は残すこと」と、「花の先に1枚葉を残す箇所でカットすること」です。
また、栽培する圃場の条件などにより、剪定作業の計画の立て方が異なることに注意してください。
ナスを長く、多く収穫するために必要な作業は、一番花が付いてから摘芯と切り戻しを繰り返すことと、盛夏の「更新剪定」(秋ナスを収穫するために株を大幅に切りつめること)の2つです。
ただ、更新剪定を行った後に十分に株の勢いが戻るかどうかは、栽培する地域の気候などの条件によって異なります。
寒冷地などでは、更新剪定をせずに、摘芯と切り戻しを繰り返すだけの方が、1シーズンでの収量が多くなる場合があります。
このお悩みの監修者
前田隆昭
南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。