結婚して婿養子に入りましたが、妻の実家が漁師をやっているので、自分も見習いとして働き始めました。
いまは毎日定置網漁船に乗って、勉強しながら働いていますが、ようやく仕事に慣れてきたところです。
元々サラリーマンをしていたので、現場仕事にはついていくのに必死ですが、経営面ではいろいろと改善できる部分があることを知りました。
なるべく単価が高い魚を出荷するためにも、漁業関係者から情報を集めていますが、個人的にはホッケに興味を持っています。
スーパーだけでなく、居酒屋にも卸すことができますし、漁獲量も安定しているようなので、効率良く漁獲できれば、経営も安定するのではないかと思います。
そのため、ホッケの定置網漁について、具体的にどうすればいいのかアドバイスをいただけないでしょうか?
石戸谷 博範
海と定置網の研究室
ホッケの定置網漁は主に餌を求めて沿岸に回遊してきた頃を狙います
ホッケは定置網漁で漁獲する
ホッケは幼魚期から漁獲対象とされ、大きさや生息域の変化に合わせて、様々な漁獲方法により水揚げされてきました。
令和3年漁業・養殖業生産統計によると、北海道では、大型定置網漁や、さけ定置網漁、小型定置網漁によって、各4,000~5,500tの水揚げ量があります。
そのほか、底引き網漁、刺し網漁、一本釣り漁でも漁獲されています。
定置網漁で獲れるホッケ
ホッケは、茨城県以北の太平洋、対馬海峡以北の日本海、オホーツク海南部、千島列島に分布しています。
沿岸から沖合の水深100mほどの岩礁帯が生息域です。
ホッケの産卵期は、秋から冬です。
北海道では9月から12月にかけて、青森県や秋田県では11月から2月にかけて産卵します。
産卵場所は、水深30m前後の岩礁帯で、潮通しの良い沖合に産みつけることが多いです。
ふ化して間もない稚魚は、産卵場所周辺の表層部で生活します。この頃は、動物性プランクトンを食べて成長します。
稚魚は冬から春にかけて、体調が4センチを超えたくらいから、沖合の表層部へと移動していきます。
10ヵ月を過ぎるくらいから、徐々に沿岸域に移動して餌を探すため群れで行動し始めます。その後再び、沖合の海底部に移動して生息します。
生後1年半を過ぎると、春にオキアミ類を食べるため、沿岸域を回遊するのが特徴です。
体長は1年目で20cmほどに成長し、2年目で30cm程度になります。3年目を過ぎると、1年で数cmの成長が見られます。
オホーツク海域の定置網漁についてはこちらをご覧ください
「知床の定置網漁業について情報を集めています」
ホッケの産地
令和3年農林水産漁業統計によると、ホッケの国内漁獲量は45,480tです。都道府県別では、北海道が44,218tで、全国シェアの97%以上を占めています。
そのほか、青森県が587t、秋田県が156tになっています。
北海道では、ほとんどの海域でホッケが漁獲できます。
なかでも主要な漁場は、オホーツク海のイース場と呼ばれる稚内沖合や、羅臼沿岸部、紋別沖合です。
また、北部日本海では、ノース場と呼ばれる稚内沖合や、利尻島や礼文島周辺、武蔵帯周辺で多く漁獲されています。
オホーツク海の沿岸や、利尻島・礼文島周辺では、特に底建網を含む定置網漁によって多くのホッケを水揚げしています。
例えば、斜里町の斜里漁港や、ウトロ漁港が有名です。6月前後の春漁では、餌を求めて沿岸に回遊してきた1歳半ごろのホッケを狙います。
11月前後の秋漁では、0歳魚を中心に漁が営まれます。
他にも、寿都町の有戸漁港や、寿都漁港、北斗市の北斗漁港(上磯地区や茂辺地地区)なども定置網漁が行われている漁港です。
定置網で漁獲できるホッケの種類
ホッケは、真ホッケと縞ホッケの2種類があり、国内で獲れるのは真ホッケです。
縞ホッケは、ベーリング海やオホーツク海の寒い海域に生息しており、日本で流通している縞ホッケは、ロシアやアメリカなどからの輸入物がほとんどです。
ホッケは、成長ごとに呼び名が変わる出世魚で、青ボッケ、ロウソクボッケ、春ボッケ、根ボッケと、大きくなるにつれて順に呼び名が変わっていきます。
ホッケを漁獲する定置網の種類
大型定置網
大型定置網漁とは、身網の設置される位置の最も深いところが、最高潮時に水深27mよりも深くなる規模の定置網を指します。
漁業権漁業で、知事の免許に基づいて操業しています。
日本に設置されている大型定置網は、地域や経営者によって多種多様です。
魚を水揚げする前に網を手繰り寄せる「網おこし」の作業では、20トン未満の船舶を1〜5隻使用して操業を行っています。
代表的な構造は落し網で、魚は垣網と呼ばれる誘導部を通り、身網に入っていきます。
身網は、さらに運動場、昇網、箱網に分かれており、箱網に入った魚は出られずに漁獲されます。
函館市の臼尻漁港で見られる大謀網も、大型定置網の一種です。
さけ定置網
さけ定置網とは、大型定置網の中でもさけを狙った、海底や中層部に設置されている定置網です。
斜里海域でよく見られる底建網も、さけ定置網の一部です。
底建網は左右対照の形をしており、上り潮と下り潮で、どちらも同程度のホッケが通過する場合に、合理的に漁獲できる構造をもっています。
アキアジ(サケ)の定置網漁についてはこちらをご覧ください
「アキアジ(サケ)の定置網漁はどこで行われていますか?」
小型定置網
小型定置網漁は、身網の設置される位置の最も深いところが、最高潮時に水深27mよりも浅い場所に設置された定置網をいいます。
落し網、底建網など、地域によってさまざまな構造となっています。
都道府県知事の許可を受けて操業されており、網の規模が小さいので、数人程度から操業できる点がメリットです。
小型定置網漁についてはこちらをご覧ください
「小型定置網漁とはどんな漁法か教えてください」
定置網でホッケを漁獲する方法
定置網漁でホッケを漁獲する方法の一例です。
まず、およそ未明に、事前に網を仕掛けておいた漁場に向けて出港します。
漁場では、箱網に入ったホッケを船内に取り込むため、網起こしを行います。
数隻の船の乗組員が協力して、クレーンも使いながら、徐々に魚を一箇所に手繰り寄せますが、ここではチームワークが最重要です。
魚が集まったら、タモなどですくい上げます。この作業は1〜2時間程度が目安です。
漁場で再び網を設置したら、明け方ごろ港に戻ります。
獲れた魚の選別、出荷作業を行ったら、次の漁に向けて、漁船や漁具の掃除、網の補修などを行います。
このお悩みの監修者
石戸谷 博範
海と定置網の研究室
定置網漁業学の専門家。2009年水産海洋学会より「相模湾における急潮と定置網漁業防災対策に関する研究」で宇田賞を授与。定置網漁業に関する国、地方、業界の各委員を務め、日本沿岸各地の地域活性化に取り組んでいる。博士(東京大学農学)。