香川県さぬき市長尾の山間部で、30アールのハウスでいちご、路地でにんにく(10アール)とトマト(5アール)を栽培しています。
人手不足なので、できるだけコストをかけず、省力化するために、ソバージュ栽培(トンネル状に設置したパイプにネットをかけて、トマトの脇芽を伸ばして育てる農法)で増産したいのですが、販路と買取価格が安定しないのが悩みです。にんにくの加工品も同じです。いちごは特に問題ありません。
売り上げが安定しないので、 トマトやにんにくの販売を強くする方法があれば教えてほしいです。
理想としては圃場面積をあまり変えずに、売上を3倍(もしくは少しでも増加)に増やしたいと思っています。
ただ、一般の消費者向け(to C)に販売すると手間がかかってしまうので、企業やレストランなど企業向け(to B)向けに販売したいと思っています。
SNSでお客さんを増やすのも、人手が足りないので外注することになるので、できるだけ使いたくありません。もし使うなら売上の3%程度までなら投資してもいいかなと思っています。
現在の販路は、にんにくを8割ほど農協に卸し、2割は黒にんにくに加工しています。相場はだいたい1キロあたり800〜1,000円です。
トマトはすべて仲卸業者に卸していて、キロ単価1,200円ほど。
現状の売上はいちごの売上を入れても800万程度ですが、トマトとにんにくだけなら300万円以下の売上になります。
(香川県・南さん/仮名・30歳代後半)
山下弘幸
株式会社農テラス代表取締役、農業経営戦略家
お客さまが求めている食品を作ることで利益をあげてみては?
圃場面積はあまり変えずに売り上げを3倍にする方法は、ふたつあります。
(1) 反当たり収量を3倍にする栽培技術を身に付ける
(2)あなたの作物が、手に入らない希少な商品になる
(1)の栽培技術の強化では、その品目で一番収量を上げている人を探して師事すると良いでしょう。
(2)は少しだけ手間がかかります。手に入らない希少な商品を作るには、あなたが特別な人になるか、特別な商品にしなければいけないためです。
ところで、販売にはふたつあります。
・業者と取引するB to B
・個人と取引するB to C
売上を安定させるには、B to Bで規模を拡大する方法と、B to Cで顧客を安定させる方法のふた通りが考えられます。
以上を踏まえると、経営を安定させながらトマトとにんにくの販売面や集客面を強化させるには次のみっつの方法があります。
1、反当たり収量を3倍にする栽培技術を身に付ける
2、インターネットで直販を始めてファンを増やし、注文数が生産量より多くなる状態を作る
3、規模を拡大してB to Bで取引してもらえる安定した量を確保する
とはいえ、それぞれの方法にも難点はあります。
1は地域性、農地、風土なのどの環境の影響が大きい
2はSNSを上手に活用する必要がある
3は相談者さまが行いたくない
そうなると、最後の手段は加工になります。加工といっても6次産業化などではなく、しっかりと食品を作るのがポイントです。
これから農家が作る食品にはかなり需要があります。しかし、農家がやりがちな6次化は避けなければなりません。
「6次化は100%失敗」すると考えて良いでしょう。
それでは「食品化」とは具体的にどのようなことかを解説いたします。
食品は、農家が「材料が余ったから」「規格外品があるから」「これらの作物がもったいないから」作るわけではありません。
しっかりと商品コンセプト、ネーミング、コピー、デザインを考えてお客様に喜んでいただける商品を作るのです。
これを実行できれば、圃場面積は変えずに売上は3倍でも5倍でも10倍にもなりますし、販売も安定します。
ちなみに、愛媛県のみかん農家さんは、デザイナーやwebサイトディレクターと組んでミカンジュースを作って、自分の農園の3倍の園地があるみかん農家さんより売上や利益を上げています。
商品化で成功を収めている農家さんについて、一度調べてみると参考になるかもしれません。
仲野真人
株式会社食農夢創 代表取締役
「量」を増やすか、「単価」をあげるか、もしくは両方増やすかです
圃場面積を変えず、低コストでto B向けの販路を開拓するというのは、誰もが憧れる理想ですよね。
それでは、具体的にどうすればできるのか考えてみましょう。
売上は「量×単価」になりますので、圃場面積を変えないというのであれば、「量」を増やすか「単価」を上げるかのどちらかになります。
質問者様は売上を3倍にしたいということなので、単純に量を3倍にするのか、単価を3倍にするのか、もしくは両方を増やすかという形になります。
一方で、かなり高級なto Bの販路を開拓できない限り、to B向けはto C向けよりも、どうしても単価は安くなってしまいます。
また、現在の販路を見ると、にんにくもトマトも決して単価は低くありません。
トマトはむしろ高い印象を受けたので、それをさらに高く売るためにはかなりの工夫が必要になるかと思います。
例えば、トマトで言えば茨城県水戸市の「ドロップファーム」さんは、「美容トマト」として「甘くて宝石のようなフレットトマト」や「健康・美容」をコンセプトに販売しています。
このようなブランディングができれば百貨店などの高級店を開拓することができるかもしれません。
また、にんにくも自分で黒にんにくにして、to B向けに卸すことを考えれば、単価を上げることができるかもしれません。
もちろん、黒にんにくに加工する設備や技術は必要になりますが、高く売るためには有効な選択肢のひとつです。
そして、何よりこれからの時代は「個人」が発信できる時代です。
質問者さまはSNSをやっておらず、やるなら売上の3%までのコストでと考えていらっしゃるようですが、コストをかければ売れるという時代でもありません。
SNSを活用して売り上げを伸ばすなら、質問者さまが「何を実現したいのか」「どうこだわっているのか」「誰に届けたいのか」を考えながら発信することも忘れてはいけません。
結局のところ、今のまま簡単に売り上げを増やすことは難しいという回答になるかもしれません。
ただひとつ言えるのは、to B、to Cに関わらず、高く売るためには努力は必要だということです。ご理解いただけますと幸いです。