JAの直売所に育てた野菜を出荷しています。
最近は物価高の影響もあり、安い農産物を求めて直売所を訪れるお客さんが増えていると聞きました。実際、出荷している野菜も以前より売れ残ることが少なくなった気がします。
JAの担当者の話では、直売所には高齢者の一人世帯やシングルマザーなどのお客さんも少なくないそうです。
物価高騰の今、私たちも肥料や燃料費などが値上がりして大変ですが、それ以上にこうした世帯の方々は大変だと思います。
少しでも、困っている家計の助けになるような商品を増やしていきたいと思っています。
そこで私も、店頭に置く商品は、袋に詰める個数や本数を他の生産者より多めにして、お買い得感が増すように作っています。
また、個数や本数を少なくした小袋にしたり、カボチャやキャベツのような大型野菜を半分や4分の1に切って販売したりして、商品の単価を下げようかとも検討しています。
私たちの売上も上げていかなければならないので、利益を出しつつ、苦しい家計を助けられるような商品開発のアイデアをいただけないでしょうか?
(神奈川県・加藤あずささん/仮名・50代)
本多英二
aula brand design(アウラブランドデザイン)
"家計応援"や"おひとりさまパック"など販促ツールでアピールし、食べ切りサイズのコーナーを設けてもらっては?
もともと直売所に来るお客さんの動機は、近所のスーパーに比べると「産直なので新鮮」「割安な商品があるから」という理由が大半でした。生産者もその期待に応えるべく、大入り袋を並べていたのが今に至る直売所の姿です。直売所ビジネスが注目を浴びた当時は、景気が良かったことも、このような業態の成長を後押ししました。
時代が変わり、長引く不景気、増える少人数世帯、それに伴う個食化と少食化が進んだ現在、一般量販店では小分けパックが登場。「そうそう、この量でいいんだわ」という方が増えてきました。割高なのは承知の上です。
大入り袋の需要は衰えることは無いとして、高い、安い、多め、少なめという商品バリエーションが増えて選択肢が広がりました。道の駅や直売所のありようも変化し、今後はスーパーマーケット化が進んでいくように感じています。
そして昨今の物価高騰は、「まとめ買いによる少し先のお得感」より「少量で良いから今この場での安値」を優先するユーザーの増加につながっています。ひとり暮らしの高齢者、シングルマザー家庭だけにとどまらず、夫婦+子供の家庭でも少量パックのほうがありがたがられる風潮です。ご相談をくださった加藤さんのお考えは的を得ていると思います。
問題は、加藤さんも懸念されておられるように「売上(利益率)の低下」でしょう。それを防ぐには「数を売る」ことです。半分に切ったものを半値で売っていたのでは手間賃が賄えませんので、ある程度は価格に上乗せしなくてはなりません。それを補って余りある「心に刺さる売りコトバ」を考えましょう。大入り袋だけが正義ではなく、"意味ある小分け”をアピール、言わば「価値観の転換」です。
例えば、「家計応援菜」「おひとりさま応援パック」「食べ切りパック(残さないのがSDGs)」などのアピールシールを貼り付けて、告知POPを置きます。「肉じゃが2人前」というような具体的数値も効き目があります。量が少なくてもお客さまに「こういうメリットがあるのね」と納得してもらえば大丈夫。このような販売促進ツールを活用して購買意欲を喚起し、売り上げを増やします。
また、小分けパックは“有料の試食品”というとらえ方もできます。まず少量でお試しいただいて、「いいね」となれば稼ぎ頭である大袋へという導線も考えておいてください。
さらに、直売所に「少量食べ切りサイズコーナー」を設けてもらう働きかけもアリかと思います。他の生産者さんと共同で、少量パックの野菜果物を並べ、個から集団で存在をアピール。目立ち方が格段に上がるので売り上げアップが期待できます。
もう一つ、売上数を増やす方法は販売拠点を増やすことです。自家配送が可能な範囲で営業をかけてみてはいかがでしょうか。
商品の形態や値付けの感覚は世相を反映します。今の物価高、これが当たり前になる世の中を想像し、さらに加速する少子高齢化社会に適応する直売所の姿、そこに置かれる商品のあり方を、イチ消費者の目線で考えておくのはとても大事なことだと思います。