山間部で食用米をメインに育てている農家です。10年ほど前に、会社勤めの傍ら80アールの土地を借りて農業を始めました。
私の地域でも農家の担い手は年々減ってきており、人に依頼されて借り受け耕作するうちにどんどん依頼が集まり、規模が4.5ヘクタールほどになったので、5年前から専業農家になりました。
昨年から、近隣に住む義弟も手伝ってくれています。
近隣の農家から手伝って欲しいとお願いされることは、今後も増えていくと見込んでいるので、設備投資や雇用を計画して、できるだけ応じていきたいと考えています。
食用米の納品先は米屋がメインで、飲食店や個人にも販売していますが、米屋の買い取り価格が低迷しています。
そこで、新しい販路として酒蔵と契約して酒米を作ることに興味を持っていますが、酒米を作っている農家は近くにはなく、現状ではつてもない状況です。
酒蔵には、どのように営業するのが良いのでしょうか?
(奈良県・吉川朗さん/仮名・50代)
仲野真人
株式会社食農夢創 代表取締役
酒蔵のニーズや悩みを聞き出し、一緒により良い商品を作るスタンスで臨んでください
新型コロナウイルス感染症の影響によって、外食向けのコメ需要が落ち込んでからお米の価格の下落が止まりません。
少しずつ飲食や観光の需要は戻っていますが、コロナ前の状況になるにはまだまだ時間がかかります。お米の在庫も増えている分、価格がすぐに上がるとは考えにくいのが現状です。
質問者様は新しい販路として酒蔵に興味があるとのことですが、まさにチャンスはあると思います。
実際、日本酒の国内の需要は伸び悩んでいるものの、海外への輸出は伸びています。日本政府も2030年に農林水産物・食品の輸出額5兆円を目標に掲げているので、日本酒原料の酒米に興味を持つ酒蔵もいると思います。
一方で気になるのが、質問者様が現在栽培しているコメの品種が、酒蔵が使用する酒米の品種と同じなのか、品質も同じレベルであるかどうかという点です。
酒蔵は歴史のあるところが多く、代々使用してきた酒米がある場合もあります。その酒米と変えてまで、乗り換えるかは考えなければなりません。
だからといって可能性がないわけではありません。
酒蔵に営業したいということなので、まずは組みたい酒蔵が求める品種や品質などをヒアリングすることから始めてください。
その酒米を日本酒にした際に従来品よりも良いものが完成すれば、酒蔵にとっても生産者にとっても、WIN-WINの関係になります。
また、こだわった品種の酒米に特化して、こだわりの日本酒としてブランディングする方法もあります。
すでに取り組まれているビジネスには、必ず既存の仕入先や取引先があります。
もし新しい販路を切り開くなら、相手にとっても既存の取引先以上のメリットを示せるようにしましょう。そうでないと、仕入側も乗り換えるリスクは負いません。
だからこそ、しっかりと相手のニーズや悩みを聞き、一緒に商品を作っていくスタンスで営業に臨みましょう。それが販路を切り開くきっかけになり、長く取引を続けていく鍵になると思います。