和歌山の1ヘクタールほどの畑で温州みかん栽培をしています。父の引退をきっかけに会社を辞めて就農し、今年でちょうど10年目になります。
技術面も経営面も父より地域の先輩農家に教わったことが多く、今でも感謝しています。
しかし、その師匠に誘われて大阪市内で定期開催されているマルシェイベントに二度ほど参加しましたが、実は接客が大の苦手です。
試食などお客さんの声を聞ける貴重な機会だということは理解しています。
自分なりに頑張って対応はしてはいますが、翌日にどっと疲れが出てしまいます。そもそも都会の人の多さも苦手なんです。
かといって、参加するマルシェは平日の昼間に開催されるので、家族に代わってもらうことはできません。私より年齢が上の師匠に代わりに対応してもらうわけにもいかないので、非常に困っています。どうしたらよいでしょうか?
(和歌山県・川口和彦さん/仮名・50代)
脇坂真吏
AgriInnovation Design/東神楽大学学長
POPの活用や意識を変えてみてはいかがでしょうか
接客と人混みが苦手な中でのマルシェ出店は大変ですね。
いきなり接客が上手になったり対面販売が得意になったりすることは難しいですが、戦うための「武器をもっていく」か「戦い方を変える」ことで、苦手意識を減らすことはできるのではないでしょうか。
まずは、「武器」の方から説明します。
いざ接客というときに「何を話せばいいか分からない」という丸腰状態だとより怖く感じ、苦手になります。
対面でのコミュニケーションが得意な方は、それを武器にその場で臨機応変に戦えますが、そうじゃないと難しいですよね。
そこでもてる武器が「POP」です。
商品名と価格だけでは、お客様からどんな角度で質問がくるか分かりませんよね。
例えば「販売している商品の美味しい食べ方やレシピを書いたPOPを用意する」「どんな思いで農業をしているかが伝わるPOPを用意する」など、売り場に最初から情報をどんどん出すことで、語らなくても理解を促すことはできます。
また、そうしたPOPがあると、質問もその内容に沿ったものが多くなるので、POPに書いたことについてを事前にしっかり理解し、話せるようにしておけば、接客もしやすくなるのではと思います。
「絵や字を書くのも苦手」という場合はパソコンなどでつくることもできますし、デザインセンスがないなと感じたら「伝わるPOP」などで検索するだけで事例は山のようにでてきます。
そうしたものをどんどん参考にしちゃいましょう!
そうしたところから、じょじょにお客さんと会話をしてみてください。
どんな質問が多いのか、それに対して自分がどう回答をしたか、回数を重ねることで身をもってわかってきたら、きっと戦いやすくなります。
「接客が苦手ですけど新鮮で自慢の野菜は持ってきてます」なんてPOPがあってもいいかもですね。
もう1つは「戦い方を変えてしまう方法」があります。
相談者さんは「マルシェ=販売場所」と認識しているために、「売らなくては」「お客様と話さなければ」と思っているのではないでしょうか。
もちろん商品を売る場であることには変わりないですが、出店中の意識を「売ること」ではなく「観察すること」に変えてみてはどうでしょうか。
まずは、そのマルシェ全体を見て、「どこから来られた方が」「どんな興味でマルシェに来られ」「どんな商品を多く買われているのか」を観察してください。
そして次に、マルシェを訪れたお客様が、自分のお店では、「どんな質問をして」「どんな商品に興味を持つのか」を観察していくのです。
そうして、「売りに行くこと」への苦手意識から「人間観察」へと戦い方を変化させていきます。
苦手意識を減らしていくのと同時に、お客さんについての理解をすすめます。そうすることが、先ほど説明したようなPOPなどの道具や、当日の自分自身の気持ちの準備など、当日戦いやすくなるヒントにつながるのではないでしょうか。
私が運営しているマルシェでも、初めての出店のときは全然売れなくて引っ込み思案だったけども、今では得意とまではいかなくても、しっかりと売り場を作って頑張っている方もいらっしゃいます。
他にも、「売ること」をメインではなく商品や農園を知ってもらうことに重きを置いたり、マルシェ出店自体を半分息抜きにしているとおっしゃる方もいますので、出店する目的や意識は人それぞれでいいと思います。
これまでご説明した以外でも、お付き合いでの出店で気が進まない部分を引きずるよりも「マルシェを通じて自分が楽しめそうな戦い方」を探っていってください。