私は、長崎県でアジやサバを中心に養殖している会社で働いています。最近、出荷数が徐々に減少しており、先行きに不安を感じています。
また、出荷数の減少に伴い、出荷できる状態の魚が売れ残ってしまうので、余計にエサ代がかかり、コストも膨んでいます。
そこで、出荷数を増やすために、インターネットを使って販路を拡大しようと考えました。しかし、私たちが取り扱っている魚は青魚なので、傷みやすく、生の状態のまま遠方へ出荷するには、鮮度維持が難しいのです。
「万が一出荷先でお客様が食中毒になったら責任がとれん」。社内でそういった声が上がり、インターネットでの販売を諦めることになってしまいました。もちろん、缶詰やフライなどに加工すれば、青魚でも遠方へ出荷することは可能なのですが、自社でその設備を整えるには資金面で難しいです。
会社としてはそういった状況なのですが、今後ますますインターネットを使った販売は増えていくと思うので、模索し続ける必要があると思っています。何か良い方法があれば取り入れたいと思っているのですが、アドバイスをいただけるとありがたいです。
(長崎県・大岩修二さん/仮名・40代)
田中憲壮
ケンソウ・ネットワーク・オフィス代表
ネットに限定せず、シーフードショーなどで積極的に知名度を上げましょう
まず、遠方への出荷を見越した鮮度保持について説明します。養殖だと活魚状態で水揚げができるので、活締め脱血処理を行ったり、冷却方法の工夫などで鮮度保持をおよそ24時間程度延長できれば、運送時間・距離共に長く遠くなると考えられます。
さらに、そうした処理をすることで、ユーザーも日持ちが延びることで販売にも有利となります。また、鮮度(K値)が定量的に示されると消費者への証明となり、安心安全にも繋がります。
養殖マサバ「長崎ハーブサバ」の鮮度保持方法は、水揚げ後、即首折脱血処理を施し、砕氷と海水による野締めを行っています。
そして、搬送間の30分程度魚体を冷やし、死後硬直する前に発砲スチロール箱に氷を敷き、そこに計量したマサバを並べ、パーチにして魚の上に軽く氷を乗せてふたをし、配送となります。
参考までにですが、鮮度保持には、漁獲直後に砕氷と海水による野締めを行い、魚体をできるだけ氷温で硬直を早め、砕氷で保持すると良いでしょう。
また、漁獲後、活締めと脱血を行い、5~7度の温度帯で死後硬直を遅らせるという方法もあります。活締め脱血処理を用いた鮮度保持は、おそらく氷など令媒体のない時代に行われていた方法で、漁業者の間で伝えられ、今でも行われているのだと思います。
また、鮮度保持として、神経抜きの方法もありますが、アジやサバのように大量になる場合は不可能であり、まき網漁業などでは氷締めがほとんどです。
近年、高いレベルの鮮度保持が期待できる海水氷(スラリー氷)が普及しています。実際、西の大型まき網漁業では、魚倉の中の砕氷に海水と並塩を投入して温度を下げることをしています。
そうしたことからも、スラリー氷(-2℃)による活締めでの鮮度保持の有効性が実証されています。
次に販売について説明します。「長崎ハーブサバ」の販売では、養殖業者3名と荷受け(西日本魚市)が、それぞれ得意先を持ち販売しています。
養殖業者が地元および得意先を持ち、独自に販売しているのです。それに対して、西日本魚市は、東京の販売会社「ニシウオマーケティング」を通して、全国から注文を受け、出荷・販売しています。
商標登録を行い、生産者・飼料・育成期間など、情報提供ができる環境ができています。また、養殖履歴、飼料、出荷マニュアルは各社共通にしており、そうした管理も徹底されています。
さらに、全国から注文を受ける以上、供給不足とならないよう、養殖場を1カ所ではなく、複数設置しています。そうすることで、赤潮などの被害があれば他の養殖場でカバーし、ユーザーに迷惑を掛けないように対処しているのです。
現在は、コロナ禍で販売先は苦戦していますが、養殖は天候に左右されず安定供給が可能なことが強みです。いずれにせよ、ネット販売でのビジネスには限界があります。首都圏でのシーフードショーなどで積極的に知名度を上げる工夫も必要でしょう。