大雨で畑が水没し、押し寄せた土砂で畑が壊滅的な状態になってしまいました。
まるで泥土のような状況で、途方に暮れている状態です。
今回の場合は雨水だけではなく汚泥も混ざっているので、作物にとって有害な土になっている可能性もあります。
しかし、このままでは先に進めないので、なんとかしたいです。
現状は雨が降ると足がズブズブと埋まってしまう状態で、晴れると干拓地のようにひび割れが出てきてしまいます。
こういった泥土と化した畑の土壌改良を行う場合、どのような手順で対応するのがいいのでしょうか?
(秋田県・伊藤さん/仮名・60代)
イチロウのゼロイチ農業(旧さいこうやさい)
土壌の排水性を改良し、病気の可能性をチェックしたうえで、工夫できることを考えて
とても大変な出来事に、心が痛みます。具体的にどのように対処し、作物を作れるようにまで復旧できるかということをお伝えしたいと思います.
ご相談は「水害被害のあった土をどう対処するか」ですが、まずは、文面からある程度状況を予測したうえで、どのように対処して、何を目指すか書いていこうと思います。
いただいたご相談から、予測できる状況は次の3つです。
①泥土ということで、以前よりかなり水はけが悪くなっているかもしれない。
②水害が新しい病気をもたらしたかもしれない。
③これからどのようなものが作れるか不安を解消したい。
具体的な土壌改良の手順を説明する前に、土壌に問題がある圃場を攻略する時の考え方を述べます。
水害にあった後も、基本的には、ご自身が作られている地域の作物を作るのは変わらないでしょう。
生産品目を変えてしまうことにより、最も大切な”販売”面で不利になってしまうのを防ぐためです。
とはいえ、①で指摘したように、圃場の水はけがかなり悪くなっているのが予想されます。
相談内容からは、何を生産していらっしゃるのかわからないのですが、ここでは仮に、ご相談者さんが、「ニンジン(仮にA)」と「タマネギ(仮にB)」の2品目を栽培していると想定して考えてみましょう。
2品目のうち、ニンジンは水はけが悪くなった影響で、収穫時の秀品率が90%から70%に下がったとしたら、栽培をやめるべきかもしれません。
しかし、タマネギであれば畝を25cm程度の高畝にすることで、秀品率が高止まりできます。
言い換えれば、水害の影響で、この圃場ではA=ニンジンの栽培には向かなくなったが、B=タマネギは農法を変えることで、以前と同じように作ることができる=適することになります。
Aは作れなくなっても、Bのタマネギに転作することで、農地を遊ばせないで、利益につなげることができるということを念頭に置いてこれからの文章を参考にしてください
「土壌改良の方法」
では、①~③の問題を具体的に解説していきます。
①水はけの改良
水害で圃場環境がさまざまに変化されたと思いますが、一番は、水の流れによって傾斜角度など地形が変化し、水はけも変わった可能性があります。
水が引いた後も特に問題がないようであれば良いのですが、水はけについては、明渠を掘ることで改善可能です。
よければ僕が以前にYUIMEで回答した「水はけを改善するためには、100cmの明渠を掘るのがおすすめです」という記事を参考にしてみてください。
②病気の心配
圃場が水浸しになったことで、新たな病原菌をもたらされた不安があります。
土壌消毒するという方法もありますが、それができない場合、酷な言い方ですが、実際に作ってみて病気が出たら対処するしかありません。
もちろん「失敗したら」「病気が出たら」という心配はつきものですから、例えば水害にあった部分が10aだとしたら、失敗してもダメージがない一部(2a程度)で試すのがおススメです。
この場合、問題なさそうに見える場所と、リスクのありそうな場所では、土の状況が異なると思います。
経営的には問題なさそうな場所で、少量から試すことをオススメします。リスクの高い場所でやると、おそらく予想通りの結果になります。
そうやって、水害にあった場所での栽培範囲を少しずつ広げながら、リスクのありそうな場所はほんの少し手間を加えるだけにとどめておきましょう。
そうすれば、他の作物の作業を圧迫せずに進められると思います。
ここまでが土壌改良の部分になりますが、何か特別な資材を導入するというより、根本の環境を整えるという考え方です。
③これからどのようなものが作れるか?
この問題は、実際には「作れるかどうか」「秀品率が下がらないかどうか」の2点が重要です。
僕自身の具体例をあげて解説していきますが、僕は現在、愛知県の知多半島でニンジンやタマネギ、キャベツを造っっていますが、就農するときに研修を受けたのは、同じ愛知県の碧南市でした。
河口に近い碧南市にある師匠の農園は、圃場が砂地であるにもかかわらず、海抜が低いので、大雨が降って増水すると水没する問題を抱えていました。
そのため、排水性を良くするために、ニンジンの栽培では、畝を20cm以上の高畝にして、増水に対応していました。
そして、乾燥してしまう問題に対してはスプリンクラーを設置することで保水性を保つ工夫をして、ニンジン、タマネギ、トウモロコシが順調に生育し、高い秀品率を維持していました。
一方、僕が独立就農したのは、周囲が水田ばかりの重粘土質の土壌です。粘土質なので、基本的にニンジン栽培には向いていませんが、タマネギやキャベツなどの上物野菜は生育可能です。
このような農地でニンジンを作る場合、畝を35cm以上の高畝にすることで栽培が可能になります。
秀品率も高いのですが、35cmの高畝だとハーベスターが圃場に入れず、秀品率が高くとも収益化が難しいという難点があるのです。あちらを立てれば、こちらが立たずの典型です。
そこで、タマネギやキャベツなどの上物の作物に変更することで、秀品率を9割~9割5分ほどに保っています。これらは、地域の作物でもあるため出荷にも問題がありません。
最後になりますが、圃場の土の状態によって栽培品目を変更しなければならなくなる必要はありますが、土壌の性質によって栽培環境を工夫し、作物を秀品率と販売しやすいもので選ぶことで、農地が持つ特徴を活かすことも可能です。
参考になれば幸いです。