ピーマンを栽培して15年になる農家です。私の集落の畑はほとんどが田んぼを転作した農地です。そのため、なかなか水が抜けず困っています。
「湿田」というわけではなく、暗渠排水(地下に溝を作り土管を埋めて排水すること)などもしっかり行っています。
しかし、そこまでしても土壌の影響なのか、大雨が一度でも降ると、畝と畝の間に水がたまってしまいます。
このような状況なので、うちのピーマンは毎年のように斑点病にかかってしまいます。
水はけを改善することができれば、斑点病にかかることもなくなると思うのですが、すでに暗渠排水も作っているので、これ以上、大規模な工事をするのは不可能だと思います。
なんとか、ピーマンの斑点病を抑えることができないでしょうか?
(京都府・嶋野さん/仮名・60代)
イチロウのゼロイチ農業(旧さいこうやさい)
水はけを改善するためには、100cmの明渠を掘るのがおすすめです
ぜひとも私の経験をお伝えして、相談者さんの圃場の水はけを改善していただければと思います。
結論から申しますと、水はけを改善することで病気は起こらなくなります。
私の本業は、にんじん、キャベツ、白菜の栽培ですが、長年、圃場の水はけの悪さで悩まされてきました。ピーマンは自家消費用に家庭菜園でしか作っていませんが、畑の水はけを改善してから、いずれも病気に悩まされたことはありません。
暗渠排水を作ったのに、うまくいかないという問題を抱えている相談者さんにも、お役立ていただける方法だと思います。
まずは、私の農地についてご紹介します。私の畑は田園地域にありますが、土壌は酸素が入りにくい重粘土質です。
今の畑で農業を始めて10年近く経ちましたが、水はけにはずっと悩まされてきました。梅雨時期ともなると、根腐れして収量が低下したり、2週間以上続く長雨で、収量がかなり減ってしまったり……。作付前でも、雨のせいで耕運の予定が1週間遅れたりと、悪条件だらけ。
このような条件下も、次に紹介するふたつの方法をすることで、収量を上げることが可能になりました。
ひとつめの対策は、明渠排水(めいきょ/用水路や放水路など地上に見える状態で掘った水路)を掘ることです。
私の畑では、5年ほど前に圃場を取り囲むようにグルリと明渠を掘ったことで、根腐れ被害が軽減され、2週間以上、雨が降り続く梅雨時でも、田んぼのように水が溜まることがなくなりました。
明渠を掘る深さは100cm程度が良いでしょう。大雨が降ったときに、膝上くらいまでの深さ50cmの水路と、100cmの水路では被害の深刻度がかなり変わってきます。
もし明渠がなかった場合、大雨が降ると、畝のてっぺんがやっと顔をのぞかせるくらい水没してしまいます。
これが深さ50cmの明渠を掘った場合、畝と畝の間に雨水がたまります。台風などのように雨量が増えると、やはり水没します。
しかし、明渠の深さが100cmあると、大雨が降っても畑の水没リスクは軽減します。明渠には雨水が流れていくので、畝間にたまる水は少なくて済みます。
明渠を掘って5年以上経過しましたが、今でも十分機能してくれています。
ただ、明渠は土砂が流入するたびに次第に浅くなっていくので、長持ちさせるためにも、最初に100cmの深さまで掘っておくことといいと思います。
次に、明渠を掘ることで、圃場の水はけが良くなる原理について話します。
圃場の周囲を取り囲むように明渠を掘ることで、圃場全体がひとつの大きな畝として機能するようになるのです。
大きな畝でも大雨が降れば、水は畝間に流れ込みます。
水はけが悪い圃場は、言い換えると、水が流れ出す場所がない、排水能力が追いついていないということですから、大きな溝を掘ることで、この問題を改善することができるのです。
また、排水口を明渠よりも低い場所につなげることができれば、排水問題も解決できます。
とはいえ、深さ100cmの明渠を掘るのは、人力では不可能です。規模の大きな農家であれば、「ユンボ」の通称で知られる油圧ショベル(バックホウ)を所有しているところもありますので、お願いしてみるとか、重機のレンタル会社からリースで借りることも検討してみてください。
油圧ショベルには、出力の違いで、さまざまなサイズ展開がありますが、圃場に入るサイズなら問題ありません。サイズが大きいほど作業効率は楽になり、作業時間も短くなることを覚えておくといいでしょう。
また油圧ショベルを操縦する際には、操縦資格が必要です(公道を走る際には、車両のサイズに応じて、中型・大型普通免許が必要とされます)。農家の場合、農機具を操縦するので、資格を持っている方も少なくありませんが、ご自分で操縦できない場合は、作業員も含めてリースすると、この問題が解決します。コストを安く済ませるには、地元の農家さんにご協力いただくのも良いでしょう。
くわえて、明渠を掘ったときに困るのが、掘り起こした土をどう処分するか、です。私の場合、露地栽培の野菜であれば、明渠を掘った後の土はすべて圃場の内側に入れています。
畑の表層に固い粘土質の土を入れることで、表層の土壌の質が変わってしまうことを恐れていましたが、私の畑では栽培に大きな影響はありませんでした。
それに、時間の経過と共に土壌の質も変化するので、ずっと悪いままということはありません。ここまでは露地に明渠を掘ることを想定した土の処理の話です。
ハウス栽培の場合は、ハウスの外周を掘ることになりますが、掘削した土をハウス内に持ち運ぶことは、とても骨が折れますので、明渠の外側に土砂を盛ることになります。
気をつけなければならないのは、掘削土を溝の内側、つまりハウス側に堆積してしまうと、風の通りが悪くなるなど悪影響がありますから、必ずハウスから離れた溝の外側に土砂を持ってください。
ご質問を見る限り、相談者の畑は、私の農地と条件が似ていますので、できる限り深さ100cmの明渠を掘ることをおすすめします。大がかりな土木工事になると思われるでしょうが、水はけの悪さを改善し、生育を良くするためには、最もコストがかからない方法です。もし不安なら、全部の畑ではなく、複数ある畑の1枚から始めてはいかがでしょうか。
ふたつめの対策は、畝を25cmの高さに上げる方法です。
ハウス栽培の場合は、明渠を作れば、水はけはかなり良くなります。これまでだったら、大雨が降るたびに水没していた圃場が、8割ほど収穫できるようになるまで改善されます。
しかし露地の場合、水没を起こす根本は解決できますが、畝と畝の間に水がたまる症状は残ってしまいます。
そこで、畝立て時に畝の高さを25cmにするのです。さらに、30cmにすれば、キャベツや白菜も水没することが無くなります。高さ35cmにした場合は、ニンジンも根が20〜25cm長の立派なものが収穫されるようになります。根の色も、赤やオレンジと鮮やかになり、水没して白い根になる心配もなくなります。
これらの理由から、畝の高さの25cmは最低ラインだとお考えください。
相談者はピーマンを栽培されているので、マルチを張る際に、畝を高くすることで、根が伸びる範囲(根域)を広くすることができます。
大雨が降っても、高い畝で根域が確保されているため水没するおそれが少なく、長雨の時期でも深い明渠によって、圃場が水浸しになることが避けられます。
さらに、明渠にたまった水を排出する排水口があれば完璧です。
圃場が冠水してから根に被害が出るまでの期間は、にんじんの場合、8時間で根が死滅します。その8時間を耐えるのが私が紹介した方法です。
私はピーマンを栽培していないので、ピーマンの根が死滅するまでの時間はわかりませんが、相談者さんも試す効果はあると思います。
私の農家歴のなかで最も効果があった方法です。お役に立てれば幸いです。