山梨県で巨峰や甲州、ナイアガラ、デラウェアなどを中心に10数種類の生食用ぶどうを生産して30年ほどになります。
後継ぎとなる予定の息子の提案もあり、3年ほど前からインターネットで一般の方々に向けて直販も行っています。
先日のこと、インターネットでの販売の注文が急に落ちました。
原因がまったくわからなかったので、不思議に思っていると、しばらくして仲間から「こんなブログ記事がネットに出ているよ!」と教えられました。
確認してみると、グチャグチャに潰れた商品の写真と農園名がネットでさらされていました。
さらにツイッター(SNS)でもその記事が拡散されてしまっていたようです。
この記事を書いた人は匿名でしたが、該当する時期のお客さまに連絡を入れて書いた人をつきとめ、謝罪ならびに返金をして記事を削除してもらいました。
一応解決したわけですが、まさかこんなことが起きるとは思っていませんでした。
商品が潰れてしまったのは運送屋さんの運び方が原因だと思いますが、証明できるわけではありません。
とはいえ、この一件を思い出す度に悲しさと怒りが湧いてきます。
このまま泣き寝入りしたくはないので、運送屋さんへの対処法を教えてください。
ちなみに記事は消してもらいましたが、内容は印刷して残してあります。
また、残念なことに注文は以前より減ったままです。
なんとか信用回復に努めたいのですが、具体的にどうすればいいでしょうか。
(山梨県・清水さん/仮名・50代)
弁護士法人中村・大城国際法律事務所
弁護士法人中村・大城国際法律事務所
事故を今後に活かすためにも、新たに事前対策を検討してみよう
農家さんと運送業者との間には、農家が運送料金を支払うのと引き換えに運送業者が商品を運ぶという契約(運送契約)があります。
運送業者は「約款」や「規約」といった契約の内容・条件をまとめて記載したものを用意しており、最初の取引を始めるときなどに、「約款」や「規約」に従って取引するということを約束(契約)していることが多いです。
まずは運送業者とどのような約束をしていたか、「約款」や「規約」があるかどうかを確認してください。
一般的には、運送中に商品が破損すれば運送業者の責任であるのが原則です。ただし、「約款」や「規約」のなかには、農産物や生鮮食品、壊れやすかったり変質、腐敗しやすかったりなど、運ぶ際に注意が必要な荷物については、荷物を送る側がその注意を記載する必要があると書いてあることがあります。
注意を記載せずに、運送業者が注意すべき荷物であることを知らなかった場合には、運送中に荷物(商品)が破損しても運送業者の責任は無いとされることもあるのです。
荷物がどのような性質の商品であり、運ぶうえでどのような注意が必要なのかを送り状や外箱に記載し、しっかりと運送業者へ伝わるようにしてください。
また、破損が運送中に生じたものか、梱包に問題はなかったかをめぐって争いになることもあります。発送前の状態を確認し、可能であれば写真撮影するといった対応を取ることも検討してください。
今回のように実際に運送中に商品が破損した場合には、運送業者にも速やかに伝えて、原因がどこにあったのかを報告してもらうようにしましょう。
注意が分かりにくく伝わっていなかった、梱包が十分ではなかった、単に運送業者の作業員の不注意など、原因はさまざま考えられます。
原因に応じて再発防止の具体策を考えましょう。もし運送業者の不注意が大きい場合には、再発防止策の提示を求めたり、損害賠償を請求したりすることもありえます。
信用回復については、まずお客さまの気持ちを想像してみてください。今回潰れた商品が届いたお客さまは、どうして販売元へすぐに連絡せずにネットのブログ記事に書いてしまったのでしょうか。
そもそも悪意のある方ではなく、もしかすると事故が起こることもあるということを思い浮かばず、対応もしてもらえないと思い込んでしまい、不満が大きく膨らんでブログに書いてしまったのかもしれません。
そうであれば配送途中で事故が起こることもあるという注意喚起を行い、万一起こった場合には返金・商品交換などどのように対応するかを明確にし、実際どこに連絡をすれば良いかなどが、お客さまにあらかじめ伝わっていれば、書き込みの前に対応ができ、今回のような事態になることは防げたかもしれません。
そこで今回の事故とその対応について説明するとともに、今後、事故が起こった場合にはどのように対応するかを具体的に決めて公表しておくことが大切だと考えます。
ネットの通販サイトで掲示する、あるいは商品に説明のペーパーを同封するなどして、お客さまへなるべくわかりやすい形での周知を図るのが良いでしょう。
ネットで拡散された内容を消去はできませんが、事故が起こったとしてもしっかりと対応してくれるという評判が広まれば、むしろ信用をさらに高めることにも繋がると思います。