就農して3年目、露地野菜を作っています。3カ所ある畑のうち、1カ所は元水田の粘土質の土地です。
毎年、牛糞堆肥やバーク堆肥、籾殻くん炭を入れ、土壌改良を行ったところ、以前よりは良くなってきていると思いますが、雨が降ると畝間に数日にわたって水がたまってしまい、この状態はいまだに改善されていません。
もしかすると、耕うんの仕方にも問題があるのかもしれないと思い始めています。
現在、トラクターの耕うん用アタッチメントはロータリーしかないため、基本的に作付け前の耕うんはロータリー耕を2回行っています。
1回目は高速で荒く起こし、2回目は中・低速で細かく砕いて整地するようにしています。
粘土質の土壌なので、ロータリー耕ばかりだと土が細かく砕かれすぎて、透水性が悪くなるのかもしれません…。
粘土質の土はどう耕うんするのがよいのか教えてください。
(千葉県・石井耕さん/仮名・30代)
イチロウのゼロイチ農業(旧さいこうやさい)
粘土質の土壌は明渠を作って排水性を改善し、土がゴロゴロするよう耕します
ご相談者が農業している千葉県は、有機農業の代名詞だと感じています。僕が「有機JAS認証」を受けた時にも、千葉の農家にアドバイスをいただいた過去があるので、大変感謝しています。
今回の相談で、千葉県にも粘土質の農地があるんだなあと感慨深いです。
ご相談内容は、僕の過去の状況とかなり似ている部分があるので、僕の経験がお役に立てば幸いです。
この回答では、利益をしっかりあげることを前提にお話ししていますので、有機JAS農法については触れませんが、ご了承ください。
ポイントは2つ。
・過不足なく適切な化成肥料と農薬を使う
・粘土質土壌での根本を学ぶことで、生産・収穫できる結果につながればと思います。
ここからは、粘土質土壌への対応策を1つ、1つ挙げていきます。
1:畑の周囲が水田地帯で、畑作をしている人がいない→農地の返却も検討しては?
最初に確認したいのですが、ご相談者さんの畑の周囲はどんな環境ですか?
もし周囲が水田地区で、畑作をしている方がいない地域ならば、根本的に土壌改良が無理かもしれないことを念頭においてください。(僕もそういう農地を100aほど返した経験があります)
無理なら、その農地はやめた方がいいでしょう。
農業は初期投資が大きいので「確実に作れる」という可能性が高い土地以外は基本的に返していきます。
新規就農したばかりの頃は、農地面積も小さいですから、判断が厳しいのですが、畑作の可能性が低い土地での耕作は、毎年支出が増えるばかりで、黒字転換まで先が見えません。
最終的に土地を返すことになれば、これまでのコストは無駄になるため「無理だ」と思った時点で、農地を返却するのは経営判断の一つ。
地主との関係は、いろいろな事情もありますが、どうしても管理を断れない状況ならば「農地の維持管理費をもらう」という内容の契約にすることで利益をあげましょう。
そうしなければ僕たち農家は、疲弊してしまいますので、上手にお付き合いしていく必要がありますね。
2:土壌改良に5年かかる場合→排水性を改善して、1年で耕作可能な状態にする
粘土質土壌の改良は「5年かかる」と言われることも珍しくありません。しかし、そんなに待っていられません。僕のブログではちょうど、粘土質の土をフカフカした団粒構造の土に変える方法を紹介していますので、合わせてご覧ください。
今回の相談は「耕うん方法」についてなのですが、先に着手すべきは「水を減らす方法」、つまり排水性の改善です。
排水させなければ、どんな肥料を入れても、緑肥を植えても、耕盤を破砕しても意味がありません。
僕の経験では、5年待ってもダメでした。弾丸暗渠を作っても、深さ100cmの明渠(めいきょ)とつなげて初めて暗渠が役に立つのです。ありとあらゆることを試しましたが、一番は"排水"です。ここからようやく、根本的な解決策を教えます。
2-1 圃場の周囲に深さ100cmの明渠排水を作る
畑から出る水の7割は表面排水ですから、圃場の周囲を取り囲むように深さ100cmの明渠排水を作ることで、水はけの大部分が改善します。明渠排水とは用水路のように、地上に見える形で掘られた排水路のことです。
YUIME Japanでは以前、ピーマンの斑点病を抑えるために、水田転作した畑の水はけを改善する方法を紹介しています。詳しくはこちらを参考にしてください。
明渠を作るにはユンボが必要ですが、所有していない方も多いでしょう。僕が就農して3年目には、近所のコメ農家から貸してもらいました。
重機を借りる際、ふだんから親しくお付き合いしている方しか貸してくれないと思います。特に、農地を借りている場合、配慮が必要なので、明渠を掘ってもいいか根回しをしておくのも地域社会で生活するためのコツです。
近所で重機が借りられない場合はリースもいいでしょう。地域や機種によって異なりますが、ユンボのリースなら回送費などを入れると、2日間で5万円ほどかかります。
施工は自分(「車両系建設機械運転技能講習」の受講などが必要)で行いますが、作業員ごとリースも可能です。5万円で、畑をこの先10年間使えるようになるなら、これまでの失敗にかかった種代や肥料代などの経費を回収できる範囲だと思います。
しかし、重機が用意できなかったり、地主の許可が得られないのであれば、その畑は不採算なので撤退時期も検討します。僕の場合、粘土質の水田を転作した畑では、ここまで徹底しないとうまくいきませんでした。
僕は、新規就農してから10年かけてあちこちから農地を集めたので、圃場が点在しています。粘土質土壌で悩んでいるところもありますし、どの圃場でも良いところもあれば、悪いところもあります。
規模の拡大に一生懸命だった時期は、一気に空き農地を紹介されたので、条件の良し悪しに関わらず、全部ひっくるめて引き受けてきました。
そのため、これらの土地のうち、まったく手をいれずに耕作できた農地は1割、残りの9割は土壌の特性を分析して、改良してから耕作できるようになりました。
ご相談者さんは粘土質土壌の水はけの悪さで悩んでいますが、今後、規模拡大を考える時には、僕と同じように、近隣から農地を請け負うことになると思います。
同じ地区であれば、土壌の性質は似通っているでしょうから、今回と同じ問題にぶち当たるでしょう。つまり今、土壌の改良方法を会得していなければ、今後も近隣で農地を広げるのは難しいだろうと予測できます。
僕自身は今、年間100トンを超える農作物を出荷しています。ここでは、僕自身の経験から、同じ悩みを持つ皆さんに役立ててほしいという気持ちでお話ししています。
ただ長くなるので、詳しい土壌改良や畝間に溜まった水を抜く方法については、僕のブログをご覧ください。
僕は今でもふだんからこの作業を繰り返していますが、常に水が溜まる水田の場合は、深さ100cmの明渠を作ってからにしてください。
3:キャベツを粘土質土壌で作るための耕し方
4つのポイント
①さらさらに細かく耕さない
②でも土壌の表面は細かい方が植えやすい
③根が張る部分の土壌はゴロゴロが良い
④畝の高さは25cm以上
粘土質土壌で作物を栽培するための土づくりは、水没して根腐れしないようにすることがポイントなので「とにかく気相(きそう)を増やす」必要があります。細かく耕すと失敗します。
「気相」とは、根が呼吸するための空気の層ですから、根が張る地下の土壌は、隙間がたくさんあるゴロゴロした構造でないと、雨水の逃げ場がなく、畑が水没して根が腐ってしまいます。この問題を一発で解決できるのが「畝立て機」です。
もし、読者の皆さんが25馬力以上のトラクターを持っていれば、畝立て専用成型機を購入することで、農作物の秀品率が上がって儲けになります。
僕が粘土質土壌で、どんな天候でも安定して野菜を栽培できるのは、水田での転作・裏作の野菜移植に適した畝づくりとマルチ作業ができるスキガラ農機さんの「スーパーエイブル平高PH-R143M」のおかげです。
僕がこれを選んだのは、雨が多い年に水がたまる畑は、畝の高さを30~35cmにすると秀品率が安定するというこれまでのデータがあるからです。つまり、畝高25cmが損益分岐点です。
したがって、畝高を25~35cm以上で調整できて、ベッドの頂点が800mm以上あるものを選びます。粘土質土壌の場合、ロータリーにアタッチメントで取り付けるタイプはあまり向いていません。
これで畝を立てた畑で野菜を栽培する方法は、僕のブログ「ゴロゴロ畑の土を細かく耕して、野菜の育つ土にかえる」でも紹介しています。粘土質土壌でも、こちらを実践すれば、年間を通じて儲かる農業を目指すことができます。
最後になりますが、粘土質土壌で秀品率が上がる作物を教えます。王道は「キャベツ」「白菜」「ブロッコリー」で、根菜類はNGです。
日々の更新はTwitterでピンポイントに解説したりしていますので、この回答が役に立てばそちらもご覧になっていただくと日々のご参考になると思います。