畜産系の高校で出会った妻と結婚し、妻の実家である北海道の牧場に婿入りしたのが20年ほど前のこと。
それ以来、一家で力を合わせて酪農家としての実績を積んできました。
牛たちは我が子のように可愛いですし、収入はそれなりに安定しているのですが、生乳製造だけでは取引先のタンクローリーがきて生乳を回収するだけなので、「消費者とのつながりがまったくなくて、やりがいが薄いな」と感じていました。
そこで数年前に、夫婦でチーズ作りを学び、乳製品を製造、販売する許可を取って、消費者の反応を見ることができる自家製チーズの販売所をオープンしました。
しかし独自ブランドとして売り出しはしたものの、売り上げがまったく伸びません。
北海道は酪農王国ですから、道内を見回せば数多くの「自家製チーズ」が売られています。
競争率の高い場所で独自ブランドのチーズを販売するにはどうすればいいのか…。
オンラインでそういったことを学べる講習があるなら、ぜひ教えてください!
(北海道・高橋さん/仮名・40代)
桝田規夫
NPO法人チーズプロフェッショナル協会
当協会でも情報交換や技術セミナーを行っています。新しいセンスを加え、差別化を図ってください
北海道には100を超えるチーズ生産者(酪農兼業や工房専業など)がいまして、自家製チーズにおいて他社との差別化を行うため試行錯誤されています。
その中からいくつかのアプローチ方法をご紹介したいと思います。
おいしいチーズはいいミルクから作られますので、まずは原材料であるミルク乳(生乳)の品質を追求することが大切です。
例えば、ある特定の期間に限定して放牧を行う「季節放牧」の生乳から作られるチーズには、草の種類やその生育する季節などによっていくつかの機能性成分が豊富に含まれています。
日本草地畜産種子協会では「放牧認証基準制度」を策定し、放牧畜産物(乳・乳製品・肉など)の普及を図っていますので、参考になさってください。
また放牧を行わなくても、相談者さんのように単一農場の生乳でチーズを作るのであれば、餌の管理によって生乳の品質を向上させることが可能です。
生乳を発酵させる際に使用する「乳酸菌」で独自色を出すのもいいでしょう。
一例として、機能性成分をもった乳酸菌や、自家培養の乳酸菌などがありますが、安全性が担保されなければ商品として売り出すことはできませんので、検査機関等に事前に相談することをおすすめします。
農研機構が産学共同開発した「Jチーズ 乳酸菌」というものがありますので、こちらも参考にしてみてください。
チーズにはとても多くの種類があり、なかには特別な技術が必要なものもあります。
例えば「モッツァレラチーズ」や「さけるチーズ」などに代表されるパスタフィラータ系と呼ばれるチーズは、職人の作り方次第で大きく美味しさが左右されてしまいます。
美味しくするためには技術を磨くことが最も有効で、その技術を有したうえで、ワイン漬け、みそ漬け、昆布だし入りなど、地元産品と融合させて相乗効果を得ることが、さらなる差別化を生み特色あるチーズ作りにつながるはずです。
乳酸菌を使用しないタイプのチーズを開発したいということでしたら、商品化しやすい「酸凝固タイプ」はいかがでしょうか。
脂肪分を高めてリッチな口当たりに仕上げたり、ドライフルーツをまぶして「スイーツ感覚」のチーズを開発したりするなど、いろんなアイデアが浮かんでくると思います。
世界に目を向けますと、チーズの産地として有名なオランダでは古くから、チーズを砕いたりキューブ状にしたりしてアーモンドやクルミなどを混ぜ合わせたものが「スナックチーズ」としてプラ容器に入れて販売され、親しまれています。
このように、チーズをチーズ単体として売るのではなく、お惣菜やスナックの要素を取り入れるといった新たなセンスを加えることが大切なのです。
相談者さんのように、製造や販売に関する悩みを抱えるチーズ生産者はたくさんいらっしゃいます。
私たち「一般社団法人日本チーズ協会」は、そんな小規模生産者の皆さんがともに発展していくために設立されたチーズ生産者の団体です。
オンラインでの情報交換や技術セミナーも行っておりますので、ぜひご参加ください。