8棟のビニールハウスで、ほうれん草をはじめ小松菜やチンゲン菜、水菜など青菜の栽培に力を入れています。
使っている肥料は牛糞や、もみ殻など有機肥料が中心です。
うちの土壌は粘土質で、葉物に適していると感じています。
とくにほうれん草の収量をできるだけ多くしたいので、春には「トリトン」、秋には「スーパーヒルズ」といった葉長の揃いが良く、大きくなる品種を育てています。
しかし、他の先輩農家の品物と比べると全体的に見劣りします。
先輩農家に相談してみると「思い切って間引かないとダメだよ」と言われました。
私の場合、間引きは2回。
1回目は双葉の時期、2回目は本葉が4枚程度の時に行っています。
最終的な株間は5〜6センチほどにしています。
ちなみに先輩農家さんの株間は8〜10センチくらいで、間引きも状況を見ながら3回やることもあるそうです。
しかし、あまり間引くと収量が落ちてしまいそうで心配です。
最大収量を確保しつつ、1株のサイズをできるだけ大きく育てるような間引きのコツについて教えてください。
(福井県・長谷川さん/仮名・20代)
龍 慶介
てしまの苗屋/てしま農園
間引きではなく土壌が原因の場合も。広い視野で理由を考えてみましょう
見劣りする原因は間引きとは限りません。
まずはもっと広い視野で理由を考えた方が良いと思います。
質問から想像する限り、葉長の揃いが悪いことを見劣りをすると感じているようですが、生育がまばらになる原因は、土中のミネラルや土質などが影響している可能性もあります。
栽培品目が重複している先輩農家さんには、突っ込んで聞きづらいところもあるでしょう。
一度、協力してくれそうな先輩農家さんに相談して、互いの土壌をJAなどで行っている土壌診断にかけてみるのも良いかもしれません。
多品目栽培を行い、さらに高回転で栽培を回している場合では、NPK(チッ素・リン酸・カリ)以外の微量要素が少なく、土が痩せてしまうことがあります。
間引きの間隔としては本葉1、2枚のときに3cm程度目安で1回目、本葉3、4枚目のときに6cm程度で2回目が基本です。
ご相談者さまは、すでにそのぐらいは間引いているようですので、間引きというよりも土壌の影響を疑った方が良い気がします。
大事なことは先輩農家といえども、常に正解を言っているわけではないということです。繰り返しになりますが、できるだけ多くの原因を疑っていくことが大切です。
五十嵐大造
東京農業大学国際食料情報学部 国際食料情報学部(前教授)
播種量を少なくして、さらに不織布でベタ掛けすれば生育が良好になります
先輩農家に「思い切って間引きしなさい」と言われたということは、ほうれん草がかなり密の状態だったことを指しているのでしょう。
播種量が多かったか、または間引きを少なくして、結果的に混み合った状態になっていると想像します。
このような状態ですと、株数は当然多くなりますが、逆に個々の株の生育が劣る傾向にあります。
つまり、播種量を多くしたり、間引きを控えめにしても、思ったように増収にはならないということになります。
ただし、これはあくまでも一般論ですから、実際に栽培されている畑の状況を見ながら栽植密度(一定面積あたりに植えつける株数)を広げる工夫をされるのが良いでしょう。
間引きのコツですが、労力的にも大変ですから、これまでよりも播種量を少なくしてみてはいかがでしょうか。
適正な間隔で種が封入された「シードテープ(シーダーテープとも)」を使って播種すると、高密度にならず、その後の間引きが行いやすくなりますので、選択肢のひとつとして考えてみてください。
一方、株間が極端に狭くなると、お互いの株同士が競争しあって「共育ち」となり、生育がよくなるという話を聞くことがあります。
確かに株が多ければ、強風などによる物理的な障害や害虫による被害が生じても、無事な株が生き残る確率が高くなることはあります。
しかし、「密になっていれば生育が良くなる」を裏付けるような、しっかりとしたデータはありません。
やはり個々の株にとっては、密でない方が太陽光が差し込むなど有利な条件になると言えます。
栽植密度を低くすると、その後の欠株(定植後に枯死した株)の発生や生育状況が心配になりますが、そのような場合には、生育半ばごろまで不織布などで、直接野菜の上を覆う「ベタ掛け」をすると、生育も良くなって立派なほうれん草になると思います。