最近、「SDGs」や「脱酸素」など環境問題をテーマにしたテレビ番組が増えていると思います。
農家も孫の世代の将来が明るいものになるよう、できるだけ自然に優しい農業を目指していかなければならないと考えています。
しかし、イチ農家が個人で何かできるのか、そして何から始めればいいのか…。
そんなことを考えていたとき、「魚に餌をあげると野菜が育つ」という、面白いシステムが注目されているというテレビ番組を見ました。
水槽の中の魚に餌をあげると、その魚から排出された糞などのアンモニアが微生物によって分解され、その結果、分解されたものを植物が肥料として活用するという循環型農業が可能になるそうです。
水槽の水替えをする必要もほとんどなく、通常の栽培より80%も節水が可能なのだとか。
サラリーマンが副業で始められるくらいの初期投資でいいというので、とても興味があります。
良いものならうちでも取り入れたいので、どんな野菜が作れるとか、採算性はどうなのかなど、詳しいことを知りたいです。
(埼玉県・川越さん/仮名・40代)
山本祐二
株式会社プラントフォーム代表取締役CEO
魚の育成を利用した農業は魅力的ですが、まだ市場形成には至っていません
弊社は新しい技術を取り入れ、社会的にイノベーションとなる事業を創造し、社会の役に立つことを考えております。
2021年5月、国は有機農業の農地を2050年に全体の約25%にするという「みどりの食料システム戦略(以下、みどりの戦略)」を掲げました。
しかし現実には状況は厳しいといえるでしょう。このままでは実現できそうにありません。
そこで、いままでのように畑を耕していく農業のスタイルだけではなく、新しい技術が必要だと考え、弊社は有機栽培の工業化の実現をめざしたアクアポニックスの会社を立ち上げたわけです。
アクアポニックスとは、水産養殖の「Aquaculture」と、水耕栽培の「Hydroponics」からなる造語で、魚と植物を同じシステムで育てていく新しい農業の形です。
水耕栽培だけでなく、水産養殖を同時に行うことで、魚の排泄物を養分として有機野菜を育てる循環型農法で、非常に生産効率の高い技術です。
持続可能な農業を実現するスタイルは、世界で注目されています。
海外では、アクアポニックスで養殖する魚はティラピアがスタンダートですが、私たちはチョウザメを飼育しています。
その理由として、キャビアがとれる、肉が美味しい、さらに病気になりにくい強い魚であることに加えて、日本の場合、ティラピアを食するのは一般的とは言えないことも挙げられます。
アクアポニックスでチョウザメを養殖すると、チョウザメの糞をバクテリアが分解して、窒素やリン酸、カリ、ミネラルなど、植物に必要な要素が豊富に含まれた水が生成されます。
そのため、一般的な土壌栽培に比べて栽培期間が2分の1と短くなり、液肥栽培の植物工場に比べて2.6倍の生産性が得られます。
野菜は、水で栽培できるものならばなんでも栽培が可能です。
レタス、クレソン、サンチュ、バジルなどの葉物をはじめとして、イチゴ、パッションフルーツ、ブルーベリーなどの果実、花き(観賞用)、人参、大根、生姜、ビーツなどの根菜類、葉茎菜類の白菜など、本当になんでも作れます。
レタスであれば、通常の露地栽培なら収穫まで2〜3カ月かかりますが、アクアポニックスでは最短3週間で収穫できます。
農閑期である冬でも栽培が可能ですので、1年で通常の露地栽培の10倍以上もの収量が期待できるのです。
また、現在主流の閉鎖型の植物工場は建屋とLEDに多額のコストが掛かるため、1000m2あたり約3億の初期投資が必要になります。
そのうえ、電気代と冷房代で月に600万円~800万円という多額のランニングコストが掛かりますが、弊社のアクアポニックスシステムなら初期コストは約1/4、ランニングコストも約1/10で済みます(いずれも弊社調査)。
さらに、アクアポニックスでは栽培する植物が天然の浄化装置の役目を果たし、綺麗になった水が再び魚の水槽へと戻るというサイクルができているため、水交換の手間も必要ありません。
弊社は2018年から新潟県長岡市において、ビニールハウスでアクアポニックスを実践しています。
施設規模は1000平方メートルで、野菜栽培と魚の養殖、そしてもちろんそれらの販売までを行なっています。
そのうち野菜に関しては、「FISH VEGGIES」というブランド名で長岡市内のスーパーマーケットと道の駅のほか20社程度の会社へ出荷しています。
しかし商業ベースとして採算性を考えた場合、成功するためにはある程度の規模の大きさが必要です。
そのため国内で採算が取れている会社は、残念ながら弊社を含めてまだぬ社もなく、この長岡市内の販売規模は事業が成り立つギリギリのラインです。
とは言え、先日は岩手県大船渡市で国内最大のアクアポニックスプラントの建設(規模は2000m2)を発表するなど、事業として順調に回り出しており、明るい見通しもついてきました。
そこで弊社としてはまず、自分たちでリスクをとって技術を培い、ノウハウを提供して、新しくアクアポニックス事業に参入したいと考える人を支援するサービスを展開していきたいと考えています。
今後もアクアポニックスのプラントを全国に増やしていきたいと考えておりますので、もちろん喜んで技術提供いたしますし、やりたい人はウェルカムです。
社会的には、採算性以上に、アクアポニックスの「持続可能な農業を実現する」という視点に意義があると考えています。
2015年に国連が採択した「持続可能な開発目標」は17目標ありますが、アクアポニックスは10個くらいは当てはまりそうですし、「みどりの戦略」にも貢献したいという想いもあります。
そうした意味で、アクアポニックスは単なる一次産業という意識自体を変える存在と言えるのではないでしょうか。