当社は、閉鎖された空間で蛍光灯やLEDで植物を育てる人工光型植物工場をやっています。
レタスやトマトなどを作っていますが、うちのような植物工場は気候に左右されにくく、設備の操作を覚えれば一定量の野菜を育てられます。
そういった環境なので、例えば、障がいをもった人の働く場として相性がいいのではないかと思っています。
ゆくゆくはうちの会社でも福祉事業所をやっていきたいと考えていますが、運営するとなると「現場を監督する担当者の人選」であったり、「障がいをもった人にどれくらいの時間働いてもらうのがベストか」といった疑問があります。
このような「福祉事業所」の運営について、注意点を教えていただけないでしょうか。
(埼玉県・田中さん/仮名・50代)
鈴木厚志
京丸園株式会社 代表取締役
生産と障がい者育成の両方の視点を持つことが大切です
福祉事業所にはA型とB型があり、A型の事業所は「通常の事業所で雇用されることは困難だが、雇用契約に基づく就労が可能な方」が、またB型の事業所は「通常の事業所で雇用されることは困難で、雇用契約に基づく就労も困難な方」が対象となります。
また植物工場には「完全密閉型」と「太陽光利用型」がありますが、今回の相談者のところは人工光を使う「完全密閉型」ですね。
完全密閉型の植物工場は、栽培管理や作業を極限まで効率化するという考えのもと、高度にシステム化されていることが大きな特徴です。
それはつまり、「この高度なシステムの中で働ける人を選ばなければ非効率になってしまう」ということになりますから、A型・B型のどちらを選択するかは、慎重に検討する必要があると思います。
相談者は「地域に貢献したい」との想いもあるようですが、植物工場としての特性を最大限に生かすのであれば、A型が向いていると言えるでしょう。
一般的に農業と福祉はとても相性がいいと言われています。
農業のどんな部分が相性がいいのかと言うと、「自然」「ゆとり」「開放感」といったキーワードが障がい者の人たちの特性に合っているのではと予想します。
しかしそうなると、施設園芸や植物工場は工業的な面が多い農業ですから、少し微妙な感じはありますね。
しかし、相性がいいことと給料や採算という点は比例するものではありません。反対に「ゆとり」のある農業は、環境面はいいけれど雇用に繋がらなかったり、また利益が出にくかったりします。
次に、現場監督・責任者の人選や、運営面についてお話ししましょう。
私たちの農園は、水耕栽培の姫ねぎ・姫みつば・姫ちんげん・ミニちんげんやアイガモ農法の無農薬コシヒカリなどを育てる生産部(栽培)と、農を通した働きの場づくりをモットーに掲げる「心耕部」(ジョブコーチ)の2部構成で組織しています。
両部署共通のテーマとして、現場監督・責任者にはGAP(農業工程管理)と企業内ジョブコーチ(福祉サポート)の資格を取得してもらい、生産と障がい者育成の両方の視点を持って農園運営をしています。
その中でも、強いて言えば私達は、「心耕部」のスタッフに権限を多く与えています。
ただし、理想で言えば生産管理と福祉の両方をバランスよくできる人が責任者になることが理想ですが、私はまだそういう人に巡り合ったことがありません。
「障がいを持つ人にどれくらいの時間働いてもらうのがベストか?」については、福祉的視点(要素)が強いと思いました。
就労的視点(要素)が強いと「6時間働ける障がい者をどう採用しどのように育成するか?」となりますが、ここでもA型かB型かによってだいぶ変わってきますね。
参考意見として、私たちが考えている障がい者と健常者の採用時の違いは、訓練期間の長さにあります。
障がい者の人たちを採用する前にはできるだけ長く訓練期間を設けてお互いが慣れるようにしています。
そこでその人の特性や体力を見極めて、無理のない勤務時間を設定します。そして半年単位くらいで時間を延長していくのが、私達のやり方です。
福祉事業所の運営を成功に導くためには、私達は福祉事業を行っていませんので、同業の方々からアドバイスいただいてください。
ですから、これは一般的なこととしてのコメントになりますが、「成功とは何か?」を、経営者は明確に示す必要があると思います。
ここが曖昧だと、働く人たちが迷ってしまいますから。特に「農福連携」という言葉は、曖昧の象徴です(笑)。
私は、農業事業と福祉事業のどちらが主なのかを明確にして、働く仲間に伝えています。
私達のユニバーサル農業は、「農業経営体を主として強い農業を実現し、多様な人達の働きの場を拡大させること」を成功としています。