現在、「就労継続支援B型事業所」を運営しています。
就労継続支援B型事業所は、企業と雇用契約を結んだり、就職が困難な障がいのある人たちを対象に、雇用契約を結ばずに就労訓練を行う施設です。
私たちの活動をもっと多くの人に知ってもらおうと、週に3〜4日は小さいカフェを運営していて、最近は「子ども食堂」も月に1回ほど開催しています。
この度、知り合いが農地を手放すこととなったので、「その畑で障がいがある人たちに働いてもらったら?」という話をいただきました。
以前から農福連携に挑戦してみたいと考えていたので、渡りに船といった感じです。
できれば利用者と野菜を育て、カフェ運営や子ども食堂に活用していきたいと思っています。
しかし、いざ具体的なことを考えてみると、疑問ばかりが浮かんできます。
具体的には、虫への耐性や農薬、農具を使う際のケガなど、次から次へと悩みが出てきます。
さらに、利用者さんは複雑な作業が難しいので、育てやすい野菜があるのかどうかも気になっています。
地域の社会福祉協議会や行政の障がい者施策課などにも相談してみましたが、私が気になっている農業の悩みについては、解決できませんでした。
利用者さんが事故なく、ゆっくりと農作業ができるように、農福連携を行っていきたいので、事前に考えておくべきことを教えてください。
(兵庫県・安住さん/仮名・50代)
伊藤文弥
NPO法人つくばアグリチャレンジ代表理事
全部を引き継ぐのではなく、無理のない規模で小さく始めましょう
茨城県つくば市で就労継続支援B型の事業として、年間100種類以上の野菜を作ったり、養鶏事業や米の生産、竹かご作りなどを行なっているNPO法人つくばアグリチャレンジです。
僕らが運営している「ごきげんファーム」には、年齢も障がいの種類もさまざまな人たちが100人以上働いています。
さて、ご相談者さんの細かい情報がわかりませんので、状況を推測したうえで回答します。
まずは僕の推測です。
農地面積については、農業未経験の福祉施設に引き継がせることを前提とすると、さほど広くはない土地でしょう。
また、農機具も新品ではないけれど揃っていると推測できます。
農地が広くないといっても作った野菜すべてをカフェで使い切れるかどうかは疑問です。
都心では子ども食堂も増えていますので、野菜を分け合う方法も考えられますが、今回の場合は引き継いだ農地で作った野菜を、全てカフェで使い切れるようなお店ではないと推測しています。
そして肝心なことですが、ご相談者さんが運営している福祉施設に農業スキルやノウハウを持ち合わせている人がいない可能性が高いのではないか?というのも課題になります。
さらに引退する農家さんは、有機農業ではなく、慣行栽培ではないかと想像しています。
以上の推測から僕がアドバイスするならば、「全部を引き継ぐのではなく、無理のない規模で小さく始める」ということ。
では具体的にどうすればいいのかを、ポイントごとにいくつかお伝えします。
1:何を作るか? まず気になるのは、栽培する野菜の種類です。カフェや子ども食堂のメニューで使うことを考えた場合、単一品目ではなく、小さな規模で少量多品目の野菜を作るのが理想です。
農法は有機栽培の方が適しています。施設スタッフに農業スキルやノウハウがない場合は、引退する農家さんにアドバイザーのような形で1〜2年間、栽培を教えてもらうのが良いでしょう。
その場合、引退していた農家さんには、農地だけではなく、栽培方法や販売先も習得して引き継ぐ。品目を変えなければ、農機具も必要なものが揃っているので、そのまま使えます。
2:収益性について 農業を新しく始める場合、障がいのある人たちが虫を怖がるのではないか?とか、農薬の使い方や栽培方法がわからない、ケガしたらどうしようなど、不安要素はありますが、会社の事業として取り組んでいく上で、どれくらいの収支になるのかが重要ポイントです。
どれくらい先行投資ができるのかによって、農業の始め方は変わります。先行投資の規模に加えて、どれくらいの赤字までなら事業を維持できるのか?も重要です。
相談者さんの場合は、もともと農業をやろうと思っていたわけではなく、農地を引き継がないかという誘いを受けた点から考えると、それほど大きな投資や損益分をカバーできる状況ではないのではないでしょうか。
引退する農家の方が、どんな農業をしていたかについてはわかりませんが、カフェや子ども食堂で使いたいという要望から考えると、僕たち「ごきげんファーム」がやっているような有機栽培で少量多品目のいろいろな野菜を作るやり方が理想だと思います。
ただ、栽培品目が多くなると、栽培方法の習得や、設備を揃える必要性、それらの野菜をどうやって販売するかを考えなければなりません。
ゼロからそれを始めるのはリスクが大きいので、僕が相談者さんの立場だったら、「リスクが大きくならない程度の小さな規模で自分達のやりたい農業を始める」「農地の持ち主だった生産者から農業を教えてもらいながら地盤を引き継いでいく」のがオススメです。
ちょっとボヤッとした話になってしまいましたが、追加で質問があれば、ご相談ください。