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ぶどう栽培の水撒きを点滴灌漑にすると、どれくらい節水できますか?

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ぶどう栽培の水撒きを点滴灌漑にすると、どれくらい節水できますか?

山梨でぶどうを作っている者です。

ぶどうは比較的、乾燥に強い果樹だと思うのですが、夏場には5日~1週間に1回スプリンクラーを使って大量の水をまいてやらなければなりません。

そのため、水道代がばかにならないのです。

また、うちの農園のスプリンクラーは使い始めてから10年以上経っていて、このところ修理が増えているので、いっそのことあまり水を使わない「点滴灌漑(かんがい)」に切り替えるのもいいかなと思い始めました。

ぶどう畑に「点滴灌漑」を導入すると、通常のスプリンクラーと比べて、どれくらい節水できるのでしょうか?また、どんなメリットがあるのでしょうか?

「点滴灌漑」は設備のコストがかかると聞きますが、節水効果がかなりあるならば新設してもいいなと思っています。
(山梨県・柳葉さん/仮名・50代)

小沢 聖

明治大学黒川農場

点滴灌漑は、夏の間の灌水としては極めて有効です

「年間を通じて降水量が多い日本では、地表や植物から大気中に放出される水蒸気の量(蒸発散)よりも降水量のほうが多いことから、水は下層土に蓄えられます。」

そのため、地中深くに発達させた根で下層土に蓄えられた水を利用することが最も有効な節水栽培となります。

ただし日本では一般的に、蒸散量が降水量を上回るのは夏の3カ月だけ。

また、潅水(かんすい/水やり)に依存し過ぎると根は浅く発達し、潅水なしでは作物体を維持できなくなってしまいます。

土壌中の空気と水の量は相反する関係にあり、過剰な水やりや降雨は根の酸素不足を招くことに。

土壌中の酸素は微生物や根の呼吸で消費されますから、大気中の空気から酸素を取り入れること(酸素交換)ができなければ根は発達することができません。

地表面の水分が多いとこの活動が抑制され、作物体の酸素必要量を満たせるのは浅い層に限られてしまいます。

そのため、地表面に広く水を注ぐスプリンクラー潅水や散水潅水では、根っこは浅く発達するのです。

そして浅い土壌では、降雨の有無による水分変化が大きいので、ひんぱんに潅水が必要になってきます。

潅水システムは、作物管理を容易にし、それまで不適地とされてきた場所まで果樹園を広げる手段のひとつとして整備されてきました。

質問者は節水が目的とのことですが、根を深く発達させて、下層土に蓄積されている水を有効的に利用することができなければ節水にはつながりません。

この節水栽培法は灌水設備のなかった50年ほど前には当たり前でした。

この管理法は深層施肥と呼ばれるもので、手間がかかるために規模拡大の妨げになっていました。

これを解決する手段として潅水の導入と施肥法の改善が進められた、その究極として現在のボックス栽培(コンテナなどの限定的な空間で育てることで、根っこがその範囲以上に張らないようにすること)につながっています。

今では肥料吸収時期を管理しやすい表層施肥が定着し、その欠点を補う潅水が定着することで深層局所施肥が廃れてしまったのです。

ボックス栽培は現在の栽培指針にも反映されていますが、質問者が昔の管理方法を知らないのも当然かもしれません。

しかし一方で、深層局所施肥の利点を生かしながら肥効を調節してきた農家群もいます。

根が深く発達するには、過剰な土壌水分が禁物なので、細根が発達する春先の灌水を控え、排水を促進する必要があります。

岩盤や厚い礫層がこの障害になるので、自分の農園を掘り下げて、どんな土壌構造をしているのか確認してください。

根が深くまで発達できる土壌環境かどうかは、4mほどユンボで穴を掘って調べればわかります。

地下に岩盤があったり、ゴロゴロとした厚い小石の礫層があったりすると、根はそこまでしか発達できません。

根が発達する土壌は2m以上は欲しいところです。

あわせて、周辺で昔からの小規模な「篤農家」を探して「どうやって土壌管理をしているのか」を聞き出してみてください。

彼らが管理する農地では潅水量が少なく、地表面付近には細根が少なく、土壌深くまで太い根が発達しているはずです。

ここで重要なのは、「点滴潅水をしているか」ではなく「根が深く発達できる土壌か否か」を調べることです。

まずは質問者が目標とすべき根の形態を認識しないことには、始まりません。

ただし農園によって土壌条件は異なりますので、篤農家の管理はあくまで参考であり、真似をしてもうまくいく保証はありません。

なお、扇状地や川が暴れたような場所では100m離れると土壌断面の構成が異なります。

点滴潅水で節水の効果が大きいのは、生育初期の野菜や若齢の果樹、葉が茂る前の落葉果樹などです。

葉が地表面を覆うと、葉の表面から奪われる水蒸気量(蒸散)が地表面からの水分の蒸発を圧倒的に上回るため、質問者が問題にしている夏の節水栽培には効果はほとんどありません。

ただし、点滴潅水は影響が局所なので根の酸素吸収を妨げず、土壌深くにまで発達した根を維持するには有効です。そのため、地温が高く根の呼吸が多い夏の間の灌水としては極めて有効です。

したがって、質問者の場合、地下の土から水の吸い上げが減少する夏の間は、点滴灌水の効果が高いので灌水癖(水やりの癖)がつくスプリンクラー灌水より、節水が可能になると思います。

まずは、潅水癖(水やりの癖)を付けないように作物体を頑張らせてください。

大切なのは、地表の渇きではなく作物を見て本当に水やりが必要かどうかを判断することです。

この判断は、1~2年の経験で習得できるはずです。日没後2~3時間で植物の体内水分が回復すれば、潅水の必要はありません。

日中の午後の適度な葉の水ストレス(水不足によるストレス)は、根が発達している証拠ですから、過度に恐れる必要はありません。

光合成生産物は生長している細胞に運ばれますので、着果前に葉の発達が抑制されている場合は、根に多く光合成生産物が運ばれている証拠になります。

かといって、葉が少なすぎると光合成が不足しますから、適度な葉面積は必要ですが、過繁茂は禁物です。

日射が強い日には、1日の光合成の80%ほどが午前中に完了します。

体内水分が減ると光合成生産物(光合成によってできた養分)は葉に留まりますが、夜の早い時刻帯に体内水分が回復すると新しい葉や根に転流(養分が運ばれる)します。

したがって、光合成には日の出に、転流には日没数時間後に体内水分が回復していることが必要条件で、これらを満たせば午前中に葉が水ストレスを受けることはなく、潅水は不要です。

潅水を減らしすぎることで起こる最悪のシナリオは、体内水分が徐々に減って、葉が生長せず、硬く・厚くなり、午後ですら水ストレスを受けなくなることです。

これは気孔閉塞と呼ばれ、新しい葉が展開しない限り抜け出せず、回復に1カ月以上を要します。

南北畝の雨よけ栽培であれば、日射を制御することで対策できます。

日射が強くなる5月ころから雨よけの西面だけ、炭酸カルシウムを原材料としたクレフノン水和剤などを散布して、葉の表面にあたる日射量を30~50%ほど遮光してください。

蒸散抑制だけでなく地温上昇抑制の効果があります。

果樹の場合、どこを見て水ストレスを判断するのか(基本的には新しい葉だと思います)、よく観察して自分なりの指標を作ってください。

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藤井雄一郎

岡山県農林水産総合センター農業研究所果樹研究室 室長(特別研究員)

何回灌水するのかのコツをプログラムで組めば、灌水量だけでなく労力も減らせます

点滴灌漑を実施するためには、当然のことながら水源が必要です。

また、点滴灌漑の多くは点滴チューブを用いて一定の水量が出るようになっていますが、水を吐出する穴は小さくて目詰まりを起こしやすいので、浮遊物が少ない水源(地下水や水道水)を使用するのが良いと思います。

やむなく川や池などを水源とする場合には、目の粗いフィルターであらかじめ水を漉しておく必要があります。

コスト面における一番のメリットは、やはり灌水量が抑えられることでしょう。

加えて、生育期間中のどのタイミングで何回灌水するのか、そのコツを掴めればプログラムを組んで自動的に灌水することもできますので、そうなれば潅水にかかる労力をかなり減らせます。

また肥料も、液肥であれば灌水ラインを通して施用することができます。

液肥は粒状の肥料よりも早く効きますし、肥料成分が土壌に残りにくいことも利点でしょう。

点滴灌漑のデメリットとしては、灌水装置や点滴チューブの敷設によるコスト負担の増加が挙げられます。

栽培上の場面では、常に地表面に点滴チューブが敷かれた状態になりますので、作業時に足や農機がひっかかってしまうこともあるかもしれません。

そのほか、作物の根が点滴ライン直下に集中するために、敷設する点滴チューブの本数(あるいは灌水できる面積)が十分でないと、地上部の生育が悪くなる場合があります。

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