県外から移住し、いちご栽培を始めたばかりです。就農支援を受けながら、県のブランドいちごをビニールハウスで一粒一粒丁寧に育てています。
最近、近所の農家さんから、「夏の終わりは台風がくるかもしれないから、そろそろ対策した方がいいよ」とアドバイスを受けたので、台風対策について調べ始めました。
ハウスの台風対策は「シートをまくって、ビニールハウスを全開にして風が通るようにする」「苗に防風ネットをかける」などが一般的ですが、初めてのことなので、それだけで大丈夫なのか不安です。
ネットをかけていたけれど、暴風で苗をやられてしまった経験があるという地元の先輩農家は、自分でハウスの補強をしているようですが、新米農家の私たちには、そんな技術がありません。
お金をかけてでも業者に依頼した方が良いのでしょうか。また自分達でもできることは何かあるのでしょうか?
(佐賀県・駒田さん/仮名・30代)
小沢 聖
明治大学黒川農場
ハウスの台風対策はネット選びや換気装置活用など簡単にできることから
初めての台風対策ということで心配されているかと思いますが、地元の方が仰るようにフィルムをはがしてネットを作物にベタ掛けすれば、よほどの台風でない限り問題はありません。まずはこの対策をしっかり行いましょう。
台風対策で最も大切なのは、作物のばたつきを防ぐこと。そのためネットをきつく固定しておくことが重要です。防風ネットを使用する場合は、なるべく目が大きく軽いものを選ぶと、雨水でもばたつかず作物への負担が少なく済みます。
また強風以上に注意しなければならないのは、大雨による滞水です。水が溜まっていたら、早急に排水をしてください。ただし、暴風のなか外出するのは危険なので控えましょう。
パイプハウスの場合、風に対しては妻面(出入り口がある切り妻の部分)が最大の弱点です。妻面を単独で補強する場合、控え柱を付けたり、地表面に補強パイプと直交クランプ(パイプの交差角度を固定する金具)で固定した1〜2mの足場パイプ(単管パイプ)をハウスの方向に固定することが有効です。
ハウス側面の風による被害は、単棟で長いハウスほど大きくなります。この被害を軽減するためには、2〜3m間隔に太いアーチパイプやダブルアーチ(アーチパイプの内側にもう1本アーチパイプをつくる)を設置し、これに陸ばり(水平なはり)を付けて揺れを抑えるのが一般的です。
台風の時だけ側面の風対策として設置する場合は、ハウスの肩部分または母屋パイプと胴縁パイプの間を「×」の形になるようにパイプやメッセンジャーワイヤーで固定する方法があります。
パイプの場合は接続金具をあらかじめ固定しておき、2〜3mごとに設置します。メッセンジャーワイヤーの場合はターンバックル(ロープやワイヤーなどの張力を調節する装置)で締めます。ターンバックルが揺れで緩まないように、針金を絡めておきましょう。
既存のハウスでおすすめなのは、足場パイプで妻面と側面を一体化した「枠構造」で補強する方法です。メリットは、一度に作業を完了させなくてもよいことで、作付け中でもできます。
普段から中古の足場パイプを集めておくことが肝心なので、地域の土建業者などと顔見知りになっておけば、金属価格の安いときにはお礼程度で入手できるはずです。
フィルムはPO系と呼ばれるものが、丈夫で補強に最適です。ビニールよりも軽くて汚れにくく、加えて耐久性も高いため張替頻度が少なく済むといったメリットもあります。ビニールより高価ではありますが、性能を考えれば決して高過ぎるものではないと思います。
また、最近「空動扇」という便利な換気装置も開発されました。電池や電気を使わない環境に優しい仕組みで、ハウスの中に入った風を外部へ逃すことができます。台風対策だけでなく、高温対策にも有効な注目の技術ですよ。
最後に、台風後の対処も忘れてはなりません。滞水していたら排水する、強風でボルトが緩んでいたら締め直すなど、通常時に戻す作業は必ず行いましょう。
また台風対策に限らず、地域特有の災害に対する対策を熟知しているのは地元のハウス業者です。そうした業者とは、かかりつけ医のような関係を持っておくとよいですよ。